Veeamのコアバリューからターゲット顧客の変化、競合との違い、新バージョン開発の遅れまで
Veeam共同創業者が語る成長戦略、第2章はハイブリッドクラウドへ
2019年06月07日 07時00分更新
バックアップソリューションベンダーのVeeam Software(ヴィーム・ソフトウェア)が急成長を続けている。仮想化バックアップとしてスタートした同社は5月末、米フロリダ州マイアミで開催したイベントで「第2章」を宣言し、新たな成長計画を打ち出した。共同創業者兼セールス&マーケティング担当EVPを務めるRatmir Timashev氏に、第2章の戦略について話を聞いた。
――今回のイベントで“Veeam第2章”を打ち出した。業界のトレンドも、仮想化からクラウドに移行しつつある。第2章を成功させるための戦略は?
Timashev氏:第2章では「ハイブリッドクラウド」が重要になる。ハイブリッドクラウドはプライベートクラウドとパブリッククラウドの組み合わせで、パブリッククラウドは複数のこと(マルチクラウド)も多いだろう。Veeamはすでにプライベートクラウド、オンプレミスのデータセンターでは独占的な立場にある。この地位を活用する。
また、チャネルパートナー、技術パートナーなど幅広いパートナーエコシステムを構築している。これに加えて、35万の顧客を持つ。これらの顧客のほとんどが、ハイブリッドクラウドに移行するか、移行を検討している。
これらの要因により、第2章でも成功できると確信している。
もっとも重要なのは、Veeamの技術的優位性だ。オーケストレーション、オートメーションなど、ハイブリッドクラウドに向けた技術は揃っている。今回のイベントでは「Veeam Orchestrator v2」を発表した。バックアップされたサイトを丸ごとテストし、復旧できる機能など、災害復旧(DR)を低コストで実現できる。このほかにもたくさんの機能を持つものだ。
――マルチクラウドはどうか? ここではコンテナ技術が重要になる。コンテナ関連での取り組みは?
Timashev氏:コンテナ向けのバックアップについても開発を進めている。まだ正式に発表していないが、数ヶ月以内には何らかの発表を行う予定だ。
――競合ベンダーの顔ぶれも変わってきたのではないか。
Timashev氏:Rubrik(ルーブリック)はストレージとデータ保護を組み合わせたソリューションだ。ストレージ、バックアップ、それぞれの技術は良いが、Veeamがバックアップで提供する機能の一部しか備えていない。Veeamの戦略はそれとは異なり、ストレージは提携パートナーが提供する。Hewlett Packard Enterprise(HPE)、Cisco、NetApp、富士通、Pure Storage、Nutanixなどがそのパートナーだ。これらのストレージベンダーがストレージ分野の最新技術を提供し、われわれがバックアップでイノベーションを提供する共同ソリューションであり、Rubrikが一社で提供するよりも優れたものになる。それぞれの最新技術が提供されるからだ。
われわれは、セカンダリーストレージ向けの「with Veeam」プログラムを展開する。すでにNutanixが「Nutanix Mine with Veeam」を発表しており、今後さらに他のパートナーにも拡大していく方針だ。
――今回、年間売上高が10億ドルに達したことを発表した。非公開企業として成長してきたが、さらなる成長にあたって、社内ではどのようなことを行なっているのか?
Timashev氏:Veeamの規模は大きくなった。社員は3700人となり、世界に拠点を持つグローバル企業となった。今後の成長にあたってもっとも重視しているのは「柔軟性」だ。迅速に動く組織であり続ける。組織が大きくなると政治的な要素が大きくなり、動きも遅くなりがちだ。そうなると意思決定が遅くなり、市場の動きについていけなくなる。これまで、そのような企業をたくさん見てきた。そこでVeeamはプロセスを開発し、われわれの「コアバリュー」を定義して全社員に明示している。
このコアバリューは「Veeam Speed」「Veeam Team」「Conversations from the Heart」「Innovate & Iterate」「Everyone Sells」といったものだ。たとえば「Veeam Speed」はすばやく動いて一生懸命働くこと、起業家精神を持つこと、といったルールだ。Veeam社員は全員このコアバリューを理解し、それに即して行動している。これがVeeamの成功につながっている。
――2018年秋にCEOが交代し、あなたは創業者として、またセールスとマーケティング担当のシニアバイスプレジデントとして、実質的にVeeamの“表向きの顔”を務めている。現在の優先事項は何か?
Timashev氏:Veeamでは最初から3人の創業者の間で責任分担をしてきた。自分はセールスとマーケティング、同じく創業者で現在CEOを務めるAndrei(Andrei Baronov氏)は製品戦略とR&D、顧客サポートにフォーカスしてきた。もう1人のBill(William Largent氏)がオペレーション、ファイナンス、HRなどに責任を持つ。
3年前にPeter(元CEOのPeter MaKay氏)を起用し、自分に代わってセールスとマーケティングを担当してもらった。これにより、私は戦略と投資にフォーカスすることができた。しかしうまくいっているとは言えなかったので、自分が戻ることにした。Peterの退任で何かが変わったというより、元に戻ったと言える。
セールス&マーケティング責任者としての優先事項は、Veeamが得意としてきたSMB分野への取り組みを継続しつつ、現在の成長を牽引するエンタープライズ分野を強化していくことだ。現在の売り上げ比率をざっくり見ると、SMBが25%、中規模(エンタープライズの中でも規模が小さめの)企業が50%、そしてエンタープライズが25%となっている。エンタープライズの成長スピードが最も速く、今後その比率が大きくなるだろう。3年後にはエンタープライズが50%程度を占めるようになると見ている。
その動きに合わせてパートナー戦略も変えている。HPE、Cisco、Pure Storageなどのパートナーが大きな支えになっている。またコンサルティング企業との協業も進んでおり、まだ早期段階ではあるものの、Veeamとの協業に可能性を感じてもらっている。
地域別には、アジアがもっとも成長している。特に日本は高い成長率で拡大しており、われわれにとって重要な市場になっている。
――日本ではパートナーの数が倍増になった。パートナー戦略は?
Timashev氏:日本ではシステムインテグレーターが重要であり、ここを強化している。ソフトバンク、富士通、日立などのパートナー、それにチャネルパートナーの強化も進めている。
――エンタープライズ、大企業におけるVeeam採用のトレンドは?
Timashev氏:これまではVeeamを既存のバックアップに付け加えるというパターンが多かった。VMwareやクラウドなどの新しいシステムを導入するときに、Veeamを採用するというものだ。だがWindows、UNIXなどの物理サーバーがVeeamのサポート対象に加わったことで、既存バックアップシステムのリプレース需要が増えている。
リプレースは簡単ではない。データセンターのモダン化として進める場合はスムーズに進むが、テープなどの古いシステムを無くすわけにはいかないからだ。
――バージョン10のリリースが遅れている。今年登場するとのことだが、遅れた理由は?
Timashev氏:NASをサポートする機能の開発が遅れていることが最大の原因だ。2年前にバージョン10のリリース計画を発表したときに「NASをサポートする」と約束した。
それ以後、バージョンは9のままだがたくさんの機能が追加された。実際、バージョン10で追加予定だった機能はほぼすべてバージョン9に取り込まれ、さらにそれ以外の機能も追加されている。たとえばオブジェクトストレージのサポートは当初の計画には含まれていなかった。
時間がかかったのは、こうした機能実装の優先順位変更も影響している。たとえばオブジェクトストレージのサポートは、想像していたよりも顧客のニーズが高かったので優先することにし、R&DリソースをNASサポートではなくそちらに振り向ける必要があった。
顧客要件が変わるスピードがどんどん速くなっている。以前なら5年先を見通して計画することができたが、今では6カ月先のことも計画できない。われわれはトレンドを理解しようとしている。加えて、会社に売り上げをもたらすものは何かも考え、それに合わせて優先順位を決めている。これはVeeamが今後も成長するにあたって重要なことだ。