Slackがエコシステム戦略を加速させている。ファイル共有、プロジェクト、タスク管理など仕事上よく利用する主要なクラウドサービスはほぼすべてSlackと接続して利用できる。4月の「Slack Frontiers 2019」では急速に拡大するSlackエコシステムを感じることができた。
ユーザーの94%はアプリを連携させている
「大規模なシフトが始まった。この1年、SAP、Oracle、ServiceNowなどが相次いでSlackのパートナーになった。素晴らしいモメンタムを迎えている」――Frontiersのステージに立ったビジネス開発と企業開発担当バイスプレジデント、Brad Armstrong氏は目を輝かせる。パートナーエコシステムに着手した約3~4年前は、Slackのビジョンを理解してくれるところは少なかったが、「業界のメジャープレイヤーが、Slackと手を組もうとやってくる」状態だという。
取り組みは3~4年前に本格化させたかもしれないが、Armstrong氏によるとSlackの共同創業者らは、意図的にオープンなネットワークとしてスタートしたのだという。つまり、開発者がやり取りするツールを超えて、コミュニケーションを土台としながらも生産性が上がる仕事の場とすることを想定していたというのだ。現在、Slackの「Appディレクトリ」には1500以上のアプリが並んでいる。ユーザーの94%がこれらのアプリを使っており、その数は毎週45万という。
Frontiersではその最新の提携としてビデオ会議スタートアップのZoomが発表された。AppディレクトリにはすでにZoomアプリはあるが、両者の共同ユーザーが多いことから深いレベルでの統合を進めることにした。「この1年でZoom統合は200%で増加している。1万以上のチームが利用している」とArmstrong氏。提携の下、Slackから直接Zoomミーティングに参加できるだけでなく、会議前にプレビューができたり、リアルタイムアップデートによりSlackで誰が参加したかなどもわかるという。
将来的にはZoomのクラウドベースの電話システムであるZoom Phoneとの統合も行なう予定だ。実現すれば、Zoom PhoneをSlackで直接受けるなどのことができる。
Slack自体がZoomユーザー企業として知られるが、SlackとZoomを利用する顧客は多いという。「SlackとZoomはビジョンを共有している」とArmstrong氏、「コミュニケーションを改善すれば仕事に関する全てが改善できる、コミュニケーションを改善すれば仕事の成果を改善できるーーこの提携により、これを具現する」と続けた。
IPO以降もSlackはカルチャーを維持できるのか?
Frontiersの会場では、2018年秋に戦略的提携を結び、全てのスイートでSlackを統合するための作業を共同で進めているというAtlassian、ID管理のOkta、クラウドストレージのBoxなどがブースを構えた。中には、Slackプラットフォームにより誕生した人と人のペアリングやオンボーディング機能を持つボットDonutなどもあった。
一連のSlackのイベントで感じたのは、クラウドの上に点在するエンタープライズサービスを組み合わせる新しいベスト・オブ・ブリードの形だ。
Slackは今後どのように発展していくのかーー調査会社Ovumでワークスペースサービス分野を担当する主席アナリストのTim Banting氏は、「Slackはこれまでにはない新しい市場カテゴリだ」という。「Microsoftは確かに競合(「Microsoft Teams」)だが、統合のアプローチとレベルが全く異なる。MicrosoftはMicrosoftのアプリやサービスという点で素晴らしいのに対し、Slackは様々なツール、サービスを作業の文脈を変えることなく統合できる」とし、Microsoftが生産性スイートを目指すのに対し、Slackは生産性のためのプラットフォームを目指していると分析した。
S lackの課題は、6月と言われているIPOの後もカルチャーを維持できるか。「(成長をもたらした)現在の社風を維持しつつ、株主への価値を最大化する――多くの企業がこの移行の過程で文化を失った。Slackにとっても難しい移行になるだろう」とBanting氏は述べた。