マイケル・シャオ氏は、プロ用オーディオの世界に身を置き、そのエッセンスを取り込んだ「真実の音」を再生するため、民生機器を作るメーカーを興した。それが2017年設立のXI Audio(イレブンオーディオ)だ。
同氏は、ヘッドフォン祭の会場で4月27日に開催された、トップウィングの新製品発表会に登壇。新製品の完全DC駆動ヘッドホンアンプ「Broadway」のコンセプトと「SagraDAC」の新機能を説明した。
電源という根本的な課題に取り組む
マイケル・シャオ氏 「今回、皆さんにお目にかける『Broadway』(フルバランス)と『Broadway S』(シングルエンド)。その最大の特徴は内蔵充電池によるバッテリー駆動です。では、なぜ私がバッテリー駆動にこだわったのかをご説明いたします。皆さんご存じのようにオーディオ機器の電源ケーブルを交換したり、テーブルタップを交換すると音質が変化しますよね、これがオーディオの楽しみであり、また苦痛でもあります。私が考える電源関連で、最も音質に影響を与える部分はコンポの中にある電源回路です」
そう言ってシャオ氏は、両波整流回路をスクリーンに投影した。左端がトランスを含む交流電源、その隣にブリッジダイオードがあり、右側には電解コンデンサーとDCに接続された負荷が図示されている。
シャオ氏 「これが典型的な整流回路です。ダイオードによって脈流となった波形を平滑用コンデンサーによって整流して直流を作り出します。それ以降にプリアンプやパワーアンプなどの負荷がつながります。シンプルな回路に見えますが、難しい問題を多数秘めています。もともと交流の波形は上下に分かれていますが、ブリッジダイオードによって上の山がつらなったような形になります。さらにコンデンサーを通過すると波形は、ほぼフラットになります」
「一番の問題はここにあります」と、シャオ氏が示したのはコンデンサーによって平滑化された図のグリーンの直線部分で、リップル電流が含まれている。
シャオ氏 「時間軸でみるとコンデンサーの充電と蓄電、特に放電(のタイムラグ)が問題になります。各メーカーが大容量コンデンサーを採用したり、コンデンサーの質にこだわっているのは、コンデンサーの放電時間が長く、音質に影響を与えるからです。それなら高性能なコンデンサーを使えばいいのではと思われますよね?(しかしそういう問題だけではありません)
コンデンサーは1/100秒という短い間に蓄電と放電を繰り返しています。皆さんはトランジスターから出たノイズが回路に乗るとお考えになるかもしれませんが、もっと問題なのはコンデンサーから発生するノイズです。
これが電源回路や電源ケーブルを交換した際に、“音質が変化する理由”の一つです。整流回路ができて100年以上たちますが、これを解決する根本的な方法は、まだ発見されていません。どのメーカーも電源部以降の回路に工夫をこらして高音質を追求しています。
つまり、私は常に交流を扱う電源回路に苦労しているのです。その苦労を回避するためにBroadwayを作りました。バッテリー駆動にすれば電源回路で苦労する必要がなくなります。これでコンデンサーに悩まなくて良くなりました。
Broadwayとほかの製品との違いは、本機が常にバッテリー駆動で動くことです。バッテリー駆動は新しい手法ではありませんが、今までのデジタルオーディオプレーヤーなどに使われているバッテリー回路は、充電池の電力をそのまま使わずに昇圧回路を使って電圧を上げています。昇圧回路がピュアな直流を汚す原因になるのです。Broadwayは4本のバッテリーを直列に接続して、昇圧せず、そのまま使っています。
ただし、バッテリー駆動は理想的ですが、供給できる電力には限りがあります。私はヘッドホンアンプに最適だと思って採用しました。サイズもギリギリまで小型化しています。
バッテリーの前には充電と保護とマネージメント回路が入っています。この回路によってACアダプタに接続されたバッテリーが適切に充電されます。バッテリーを直列に接続した場合の問題は、バッテリー間で容量にバラツキがある場合、容量の少ないバッテリーが先にフル充電されることです。充電も早いですが、放電も早いので、常に決まったバッテリーだけに負荷がかかり、劣化しやすくなります。Broadwayにはバッテリーを管理するマネージメント回路があるので、ユーザーは安心して長期間にわたって製品を使用できます。
最後にBroadwayはバッテリーの種類によっても音が変わります。標準ではテスラモーターズも採用しているパナソニック製で、18650サイズのバッテリーを搭載しています。皆さんもバッテリーを交換して音色の違いを楽しんでみて下さい。本機はS/N感がいいので感度の高いカスタムイヤモニにも最適です」
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