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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第36回

豪華シンガーによる、トリビュートアルバムのライブ演奏もいい!!

麻倉推薦:4月は試聴会でも、みんながうっとり聞きほれる杏里のあの曲など

2019年04月07日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK(ASCII)

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。新生活を迎える4月を目前に控えてリリースされた優秀録音を中心にまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『Crescent Moon』
杏里

特選

 杏里の最新録音。Steve Gadd Bandとロサンゼルス・レコーディングという豪華さだ。出来映えが素晴らしいので、最近のハイレゾ試聴会では、この曲をヘビロテしているが、来場者は全員、必ずノックアウト。ヴォーカルと演奏の上質さは、最近のハイレゾ作品でも出色といえよう。Steve Gadd の俊敏なドラムスワークとWalt Fowlerのシャープなトランペットに迎えられて杏里が歌い始める冒頭部がゴージャス。リズムのノリが良く、グルーブも快感的。まったくもって快調なヴォーカルではないか。バックコーラスの鮮明さも効く。

 音も極上だ。ヴォーカルと各楽器の分離度が高く、音調的にひじょうにクリヤー。ミックスが上手く、音が重奏しても、透明度がまったく変化しないのには刮目。デビュー40周年ということだが、同年代の女性歌手の音程が軒並み低下するなかで、杏里の歌唱力と表現力は、若い時代と変わらず、いや、さらに磨かれている。Crescent Moonとは三日月のこと。

FLAC:48kHz/24bit、WAV:48kHz/24bit
Dolphin Hearts、e-onkyo music

『10』
Helge Lien Trio

特選

 ノルウェージャズの旗手、Helge Lien Trioの最新作。透明な音響のピアノにアコースティック・ベースの単音とベルが巧みに絡み、静謐な音世界が繰り広げられる。ピアノのキラキラとして煌びやかな輝き、伸びと、スケールが大きく大地に根を張ったようなベースの対比がダイナミックだ。録音は、まさに文字通りのクリヤーな北欧サウンド。「3.Loose Gore」は偉容なピアノ低音から始まり、パーカッションの蠢きを経て、ピアノが中低域で、アラブ的な旋律を奏でる。音楽的にも面白い。

 e-onkyo musicで数年前にヒットした同トリオの「natsukashii」も現在、ダウンロード可能だ。改めて聞き直すと叙情的で、ヒューマンなサウンドの魅力は以前も今もまったく変わらないが、録音は最新盤らしくさらなる透明感、たっぷりとしたボディ感、生成り的なナチュラルな質感が、ここ数年の録音技術の進歩を物語る。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Ozella Music、e-onkyo music

『チャイコフスキー:交響曲第5番』
レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団、エフゲニ・ムラヴィンスキー

特選

 私のe-onkyo music独占「DSDコンピレーション」で一部紹介していたDSD新譜だ。ムラヴィンスキーは、手兵レニングラード・フィルを率いて、1960年10月~11月、ヨーロッパの長期演奏旅行に出た。この得難いチャンスを捉え、ドイツ・グラモフォンがチャイコフスキー後期交響曲の録音に挑戦。4番はロンドンのウェンブリー・タウン・ホール、第5番と第6番はウィーンのムジークフェラインザールで収録された。

 古今東西のチャイコフスキー5番でも、最高峰との令名が高い名演奏、名録音だ。咆吼するドラマティックな金管、表情の濃い弦、叩き付ける豪快なティンパニ……ロシア的な記号性が色濃く感じられる大迫力、大器量のチャイコフスキーである。中間部の嵐のような疾走感、切れ込みの鋭さ、どんなに速くとも一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルは、ムラヴィンスキーとレニングラードフィルのみ可能な芸当だ。アクセントが強く、超強力に駆動するムラヴィンスキー一流の鞭当と、それに凄まじい意気込みで応えるオーケストラの戦いの音はDSDだから、たっぷりと堪能できるのである。

 ムジークフェライン・ザールでの録音だが、これほど低音の威力が絶大でピラミッド的な音調であるのは、やはりレニングラードフィルの美点だ。基本的に響きがひじょうに多いホールなのだが、ホールトーン重視でなく、各楽器からの直接音がクリヤーに収録されている。音場は浅く、すべての楽器が前面に出てくる。特にトランペットの突進力は凄い。DSDならではの弱音の繊細さから強音の激情までのダイナミックレンジの広さとソノリティの濃密さが、迫力と上質さを上手くバランスさせている。1960年11月9、10日、ウィーン、ムジークフェラインザールにて録音。DGのオリジナル・アナログ・マスターから独Emil Berliner Studiosにて2012年制作のDSDマスター。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『ドヴォルザーク: 交響曲第8番 & 第9番《新世界より》』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ラファエル・クーベリック

特選

 私の「DSDコンピレーション」にはこの「新世界」第2楽章が入っているが、フルアルバムのDSDでのリリースはこれが初めて。チェコ出身の大指揮者、ラファエル・クーベリック(1914-1996)とベルリン・フィルとのドボルザーク全集は1966年の第8番から始まり、71年から73年にかけて一気に録音された。

 交響曲 第8番 ト長調を聴く。実に抱擁力が豊かで、ソノリティ情報も多い。弦がふくやかでまろやか。第1楽章冒頭のフルートの、音色の美しさと伸びやかさ。弦の倍音情報の多さは、53年前の録音とは思えない。ナチュラルで濃密で、透明な音響だ。第3楽章の哀愁のト短調のむせび泣きも、実に叙情的。DSDはそんな音楽的切り口の多彩さを見事に表現している。1966年6月、ベルリン、イエス・キリスト教会で録音。DGのオリジナル・アナログ・マスターから独Emil Berliner Studiosにて2011年制作のDSDマスター。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス』
マレク・ヤノフスキ、ベルリン放送交響楽団

推薦
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 素晴らしい音。柔らかく、しなやかで、音のグラテーションがひじょうに緻密。音場も深く、大スケールのサウンドステージにてディテールまで研ぎすまされた、情報量の多い音が堪能できる。オーケストラと合唱、独唱の大規模作品だが、この録音はこれほど音の透明感が高く、密度の高い音調なのかと、驚かせられる。合唱の録音は難しく、歪みっぽくなりがちだが、本作はひじょうにスムーズで、伸びとヌケがよい。ベルリン・フィルハーモニーでの録音であり、このホールの特性である、クリヤーさとまとまりの良さが堪能できる。ペンタトーン録音ならではのナチュラルさと濃密さが両立した上質のサウンドだ。2016年9月、ベルリン、フィルハーモニーで録音。

FLAC:24bit/96kHz、DSF:2.8MHz/1bit
PENTATONE、e-onkyo music

『Mahler: Symphony No.9 in D』
シカゴ交響楽団、カルロ・マリア・ジュリーニ

推薦
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 カルロ・マリア・ジュリーニの生誕100周年記念アルバム。天下の名盤の初ハイレゾだ。ジュリーニの人間性豊かな音楽づくりと、伶俐で輝かしいシカゴ交響楽団の精緻なアンサンブルが合体した、まさに世界遺産的な名演奏。その音楽の暖かさ、深さは心に染みいる。音も53年前の録音なのに実にフレッシュだ。音場が広く、深く、しかも透明度が高く、見渡しが良い。第2楽章では木管と弦の掛け合いがスリリング。弦、ホルン、クラリネットのやり取りのダイナミックな対比感が素晴らしい。解像度も高い。1976年4月、シカゴのメダイナテンプルで録音。

FLAC:192kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『BEGINNING ~あなたにとって~』
由紀さおり

推薦
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 新曲と新録音の新アルバム。センター定位のヴォーカルがボディ感豊かにフューチャーされ、煌びやかで輝ける音調にてヴォーカル、ストリングス、金管がくっきり、エコーもたっぷりと与えられている。まさにJPOPの定番的な録音スタイルだ。「8.愛は花、君はその種子」は名曲「ローズ」のカバー。元歌が1980年にベット・ミドラーが歌ったアメリカ映画『ローズ』の主題歌で、「愛は花、君はその種子」版は1991年の都はるみによるカヴァー。アニメ映画『おもひでぽろぽろ』(1991年7月公開)の主題歌だ。由紀さおり版はヴォーカルの味わい深さとピアノ、ベースの明瞭さ、輝かしさが印象に残る。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

『WATER SONG』
川嶋哲郎

推薦
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 世界的に活躍する日本テナーサックスのスター、川嶋哲郎の3年ぶりの新作。木管オーケストラとの共演だ。「1.CRESTA PRELUDE」は、オーケストラの長い前奏に続き、センターにしっかりとして定位した大音像のテナーサックスが、メランコリーなメロディと共に闊達なアドリブを繰り出す。「4.Suite -THAW- Ⅰ雪解け」はサックスは木管オケの一員ととして、響きが溶け合う。録音はひじょうに良い。音の透明度が高く、音場の空気感が透明だ。合奏で多くの音が重なっても、混濁することなく、クリヤーさをそのまま保っている。最新ハイレゾ録音ならではのフレッシュで、情報量の多い音だ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
キングレコード、e-onkyo music

『JONI 75~ア・バースデイ・セレブレーション』
ヴァリアス・アーティスト

推薦
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 2018年11月6,7日にロサンゼルスThe Music Centerで開催されたジョニ・ミッチェル生誕75年のトリビュート・コンサートのライヴ。参加アーチストはノラ・ジョーンズ、チャカ・カーン、ダイアナ・クラール、エミルー・ハリス、クリス・クリストファーソン、ジェイムス・テイラー、グラハム・ナッシュ、シール、グレン・ハンザード、ロス・ロボス、ブランディ・カーライルラ・マリソウル、セサール・カストロ&ソチ・フローレス、ルーファス・ウェインライト……などの豪華さだ。

 「3 アメリア / ダイアナ・クラール」は、ピアノ弾き語り。ダイアナ・クラールの渋いヴォーカルが、力強い自身のピアノと共に堪能できる。音もライブ的な癖っぽさがなく、クリヤーで、細部まで研ぎすまされている。「7.青春の光と影 / シール」は、ジョニ・ミッチェルの最大のヒット曲。シールの伸びの良い、剛性の高いヴォーカルも素敵だ。音も優秀。

 先月のジョン・レノンのトリビュート・ライブでも感じたことだが、ここまでライブ収録で音が良いのなら、多数のアーティストのそれぞれの個性が聴け、テーマ的には統一性のある「ライブ・トリビュート・アルバム」は、ひじょうにコストパフォーマンスが高いのではないか。

FLAC:48kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
Decca、e-onkyo music

『Onda Nova』
LUCAS ARRUDA

推薦
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 ブラジリアン・メロウ・グルーヴの代表的シンガー、ルーカス・アルーダの3年半ぶりの第3弾アルバム。タイトルの『Onda Nova』とは“New Wave”の意。煌びやかなシティポップだ。低音感がしっかりとしたドラムス、キレのよいリズムのギター、心地良いパーカッションに乗って、伸びやかで、暖かなヴォーカルが疾走する。声質がピロードで、ボディも太い。耳と体のどちらにも効く蠱惑的なメローサウンドだ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
P-VINE RECORDS、e-onkyo music

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