自動運転って何? から学ぶ連載スタート!
「自動運転」と聞けば、何を想像するであろうか。「目的地まで、すべて自動でクルマが走っていく。人は乗っているだけで何もしない」とイメージする人が多いだろう。実際に、開発しているエンジニアたちに話を聞くと、最終的なゴールはそこだという。しかし、現実のところ、そうした完全なる自動運転システムは完成していない。ただ、ごく初歩的な技術は生まれており、少しずつではあるが普及も始まった。
たとえばACC(アダプティブクルーズコントロール)は、先行するクルマに“自動”で追従する機能だ。アクセルとブレーキは、ドライバーではなくシステムが担当する。ささやかではあるが、これも立派な自動運転システムへと続く技術である。だがこれを「自動運転」と呼ぶと、面倒くさいことになる。「人は何もしなくても、完璧に走ってくれる」とイメージする人がACCを使えば「こんなはずはなかった!」と思うだろう。最悪、交通事故になるかもしれない。こうしたギャップを防ぐために求められたのが自動運転の定義だ。
いったい何をもってして「自動運転」と呼ぶのか? 完全なる自動運転へと進化している現状の技術を、どのように言い表せば、正しく伝えることができるのか?
自動運転には0~5までのレベル分類がある
そうした問題に対処するため、世界的に使われているのがSAE(米国自動車技術会)の定めた「自動運転技術のレベル分け」だ。日本の自動車技術会では、その和訳版となる「自動車用運転自動化システムのレベル分類と定義」が、2018年2月に制定されている。自動運転の話は、基本的に、これらの定義をベースに行なわれることになっている。
そこで最初に定義されているのが「自動運転システム」だ。これは「すべての動的運転タスクを一括に実行することができるハードウェアおよびソフトウェア」だという。運転に必要な操作や周囲の検知など、求められるタスクをすべてシステムがやることを意味する。普通の人が「自動運転は何?」と問われたときに想像するイメージに近いだろう。そして、それほどの完成度のものだけが「自動運転システム」と呼ぶというのだ。ACCのような初歩的なものは「自動運転システム」ではないという。
一方で、初歩的なものから完成したものまですべてを言い表すのであれば「運転自動化システム」という言葉を使えという。さらに「自動運転システムと運転自動化システムは、紛らわしいからADS(Automated Driving System:自動運転システム)と記載すべき」ともいう。実際のところ、ここまで厳密な使い分けは面倒くさいし、すでに「ADAS(Advanced driver-assistance systems:先進運転支援システム)」という、それこそ紛らわしい言葉もあって、ADSという言葉の浸透は、なかなかに難しいとは思う。しかし、それでも「初歩的なものに自動運転という言葉を使うな」というメッセージは非常に重要だ。
また、進化の道程にある技術のほどを言い表すために、レベル分けの定義も用意された。何もない状態を「レベル0」として、最上級を「レベル5」とする6段階のレベルだ。これを使えば、その技術が、どれくらいの内容なのかが、誰もが間違えずにわかるというわけだ。その内容は以下のようになる。
- 「レベル0」 運転自動化なし
- すべての運転タスクをドライバーが行なう。操作も周辺検知もすべてドライバーだ
- 「レベル1」 運転支援
- 運転自動化システムが、運転タスクの縦(アクセル&ブレーキ)か横方向(ステアリング)のいずれかを実行する。その他はドライバーの役割。安全運転のための監視や対応もドライバーだ。
- 「レベル2」 部分運転自動化
- 運転自動化システムが、運転タスクの縦と横の両方を行なう。ただし、周囲の検知や運転自動化システムが作動困難時の対応、クルマ全体の監督はドライバーの役割となる。
- 「レベル3」 条件付き運転自動化
- 運転自動化システムが、すべての運転タスクを実行する。実行中であれば、ドライバーは何もしなくてよい。ただし、作動継続が難しくなったときは、ドライバーが交代する。
- 「レベル4」 高度運転自動化
- 運転自動化システムが、すべての運転タスクを実行する。作動継続困難になってもドライバーに交代することは期待されない。ただし、走る場所は限定的となる。
- 「レベル5」 完全運転自動化
- 運転自動化システムが、すべての運転タスクを実行する。しかも、作動継続困難になっても運転自動化システムが対応。場所も無制限で、どこまでも走れる。
ここでいうところのレベル3以上が自動運転システムに該当する。レベル2以下はそのように呼んではならないのだが、現状で実用化されているのはレベル2までだ。レベル1は、ACCが該当するし、レベル2はステアリング・アシスト付きのACCと言えよう。逆に言うと、レベル3は実用化されていない。
自動運転の話題には、必ずと言っていいほど“レベル”というキーワードが出てくる。そこを、しっかりと理解することは非常に重要なのだ。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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