汎用型からワークロード特化型への進化も、Dell EMC APJ モダンデータセンター担当CTOに聞く
CIO意識は「建築者から消費者へ」、ITインフラは変化にどう対応するか
2019年01月11日 07時00分更新
「従来、企業CIOやIT部門の大半は自社ITインフラの“コンストラクター”、つまり建設事業者を志向していた。だが今ではそれが“コンシューマー”、消費者志向へと変化してきている」
マット・ウーストヴィーン氏は、Dell EMCが新たな事業部門として設立したモダンデータセンター事業本部においてAPJ(アジア太平洋・日本地域)担当のCTOを務める人物だ。企業IT市場におけるクラウドの登場以後、ユーザー企業に生じている意識と価値観の変化を冒頭の言葉のように語る。
パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、そしてマルチクラウドと、企業が採用するITインフラが絶え間なく進化を続ける中で、オンプレミス/データセンター製品を提供するDell EMCではどのようなターゲティングや製品戦略を持っているのか。ウーストヴィーン氏に聞いた。(インタビュー実施:2018年11月)
データセンター製品のターゲット領域は「イノベーション」と「最適化」
ウーストヴィーン氏はまず、現在の企業が抱えるワークロードを3つの領域に分類する1枚のチャートを示した。図の縦軸は「ビジネス価値」を、横軸は「時間経過」を表しており、技術/ワークロードが新しい段階から古い段階(左から右)へと移るに従って利用の浸透と一般化が進み、他社との差別化という意味でのビジネス価値は徐々に薄れていくことを表す線も引かれている。
新しい製品/サービスや価値を生み出す原動力になるワークロードは、左端の「イノベーション」領域に位置づけられる。現在で言えば、AI/機械学習やブロックチェーンを利用するワークロードだ。ウーストヴィーン氏は、イノベーションは「現在の企業が競争力を高めていくために欠かせない領域」だと説明する。
真ん中にある「オプティマイズ(最適化)」の領域は、企業ITの中心である従来型の業務アプリケーションなどのワークロードが該当する。ここも引き続きCIO、IT部門が担当することになる。そのうえでCIOやIT部門は「より良いユーザー体験(UX)を実現するために、ワークロードをどこ(どのインフラ)に配置すれば最適化されるか、という観点で見ている」。
右端は「コモディティ」の領域だ。「Office 365」や「Salesforce CRM」のように、ここには一般的なアプリケーションで「カスタマイズしても競争力向上にはつながらない」ワークロード群が位置づけられる。カスタマイズ無用なので「アウトソースする、つまりSaaSに切り替えるのが最善策だ」と判断される。
この3領域のうち「イノベーション」「オプティマイズ」がDell EMCのターゲットだと、ウーストヴィーン氏は説明する。いずれもハイブリッドクラウド環境が前提となるが、特にイノベーション領域では、大量のデータや演算処理を必要とするワークロード(AI/機械学習)、エッジで生成されるデータを処理するワークロード(IoT)など、オンプレミスニーズがまだまだ強いと言える。
また現在のCIOが主眼に置いているのは、単なる汎用的なITリソースの提供ではなく「ビジネス成果」である。Dell EMCとしてもそれを意識したプロダクトやサービスの提供を進めていると、ウーストヴィーン氏は説明する。
「現在のCIOの仕事は、新たなビジネスを実現するための技術要素を用意することに変化してきている」「われわれは幅広いテクノロジースタックの提供を通じて、顧客CIOによる『イノベーション』と『最適化』の実現を支援する」(ウーストヴィーン氏)
もうひとつ顧客CIOが重視しているのが、ITインフラの効率的な運用だ。本稿冒頭の“コンストラクターからコンシューマーへ”という言葉にも見られるとおり、クラウド体験に伴って、ユーザー企業の意識はより「使う」側へと変化している。オンプレミス/データセンター製品市場においてもそれは変わらない。
「かつてのユーザー企業では、最良の製品群を買ってきて自分たちでラッキングし、ITインフラを“建築”していくという意識が強かった。しかしそれが現在では消費者、使う側の意識に変化してきている。なぜなら現在では、自分たちで“建築”してもあまり他社との差別化要素にはならず、そうするだけの価値がないことがわかってきたからだ」
一方で、前述したとおりITインフラの選択は自社のビジネス目標や課題に沿って行われるようになっている。ハイブリッド/マルチクラウドの利用が進むのもそのためだが、こうした複数のIT環境を統合的/一元的に運用管理できる「複雑さの排除」も重要だと、ウーストヴィーン氏は指摘した。「使う側」としての意識が強いユーザー企業は、複雑な運用管理にも「価値がない」ことを理解しているからだ。
あらゆる場面でハード/ソフトを統合的に提供できる強み
それでは、ここまで述べてきたような顧客企業の意識変化に対応するものとして、Dell EMCではどのようなデータセンター製品を提供しているのか。その筆頭として、ウーストヴィーン氏は「VxRail」や「VxRack SDDC」、「Dell EMC Cloud for Microsoft Azure Stack」といったコンバージド/ハイパーコンバージドインフラ(CI、HCI)製品を挙げた。
これらを挙げる理由は「ハイブリッドクラウドを最も簡単、かつ迅速に入手できる」からだ。言うまでもなく、VxRailやVxRackならばVCF(VMware Cloud Foundation)を採用したパブリッククラウドとの、またAzure Stack製品ならばAzureクラウドとの親和性を持つハイブリッドクラウドがすぐに構築できる。さらに、単一のコンソールから全体を運用管理できる簡素さも併せ持つ。
すでに多くのメーカーがCIやHCI製品を提供しているが、ウーストヴィーン氏はDell EMCの特徴として、あらゆる側面でハードウェアとソフトウェアを「ひとつのシステム、統合システムとして見ている」ことを挙げた。たとえばソフトウェアに最適化したハードウェア設計やチューニングを行うこと、単一のサポート窓口を提供することなど、開発、製造、運用管理、サポート、システム維持と、あらゆる場面で「統合的」なかたちでの提供を行っている。
その一例としてウーストヴィーン氏は、「RCM(Release Certification Matrix)」の仕組みを紹介した。CI/HCIでは、製品を構成するコンポーネント(ハードウェア、ソフトウェア)ごとに更新ファームウェアやソフトウェアアップデート(パッチ)が提供される。これらが互いに不具合を起こさないように、あらかじめDell EMC側で慎重な確認とテストを行ったうえで提供するのがRCMだ。
「顧客CIOの話を聞くと、アップグレードパッチの適用失敗が(オンプレミスITインフラの)ダウンタイムの大きな原因となっている。Dell EMCの場合はRCMのおかげで、たとえばVxRackであれば計画外のダウンタイムを96%排除できている」「RCMによって、顧客自身でテスト作業をすることなく簡単にアップデートができ、常に最新の状態で製品が使える。導入1日目も1000日目も一定のパフォーマンスで使い続けられるメリットがある」
さらにソフトウェアメーカーとの連携についても強調した。同じDell Technologiesグループ企業であるヴイエムウェアはもちろん、マイクロソフトとも緊密な連携を図っており、RCMの仕組みも取り入れて、上述したCI/HCI製品を「最も安定した」状態で提供するよう努めているという。「これが他社のAzure Stack製品との大きな違いだ」とウーストヴィーン氏は語った。
筆者は「これから企業の求めるITインフラ製品は、CI/HCIのような統合型、さらに汎用型ではなくワークロード特化型のものへと向かうのだろうか」と質問してみた。ウーストヴィーン氏は「そのとおりだ」と答える。顧客のビジネス目標、あるいは具体的なワークロードに即してITインフラ/データセンター製品が「選択される」時代になっており、そうした観点からも、データセンター製品の幅広い選択肢を提供できるDell EMCの強みがあると語った。
「われわれは今、データセンター(ITインフラ)の大きな移行期に直面しているのだ」