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アスキー腕時計人気ブランド図鑑 第1回

絶対に後悔しない腕時計選びのために──名門時計ブランド・その魅力と定番モデル

世界に誇る腕時計 グランドセイコー物語〜日本発時計作りの技術と哲学

2018年09月06日 17時00分更新

文● 渋谷ヤスヒト

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1995年からスイス2大時計フェア、時計ブランドの取材を始め、気がついたら20数年。スイス、日本を問わずあらゆる時計ブランドの時計作りを取材してきた時計ジャーナリストの渋谷ヤスヒトです。今回から、名門時計ブランドといつまでも愛用できる定番モデル、その歴史と魅力を紹介します。

「グランドセイコー」は世界的にも知られた時計ブランドだ。世界最大の時計宝飾見本市「バーゼルワールド2018」にもブースを構える。

 記念すべき第1回目として採り上げる時計ブランドは、日本の時計メーカー・セイコーウオッチの最高峰ブランド「グランドセイコー」。日本が世界に誇る腕時計です。

背景には100年を超える時計作りの伝統が

左から服部金太郎。1894年に銀座4丁目交差点に建てられた服部時計店 初代時計塔。日本初の腕時計「ローレル」

 グランドセイコーの原点は、服部金太郎(1860~1934)が明治14年(1881年)に時計店として創業し、掛け時計や懐中時計の開発・製造に進出した服部時計店(現・セイコーホールディングス)です。1913年には国産第1号の腕時計「ローレル」を開発・製造・発売しています。同社とそのグループ会社は現在まで130年以上、日本の時計作りを常にリードしてきました。

 グランドセイコーの第1号モデル、初代グランドセイコーが生まれたのは1960年。300万人を超える人が亡くなり、東京をはじめ日本中が焦土になった第2次世界大戦の敗戦から15年後のことです。敗戦直後、世界で最も優れた腕時計を作っていたのは時計王国・スイスでした。精度でも耐久性でもデザインでもその差は大きく、日本の時計メーカー各社は「スイスに追いつけ」と生産設備の一新などの努力を必死で続けます。そして1950年代半ばを過ぎると、日本製の腕時計の品質は劇的に向上。セイコーの技術者、時計職人たちは自信を深め、「スイス製を超える世界最高峰の腕時計を作りたい。自分たちには作れる」と考えるようになります。

 その結果、生まれたのがグランドセイコー第1号(初代)モデルでした。当時の時計業界誌に掲載された広告のメインコピーは「日本の時計から世界の時計へ」。世界を見据えた当時の技術者や職人たちの高い志、誇りと自信がうかがえます。

日本が作る「世界最高峰の腕時計」

1960年に発売された記念すべき「グランドセイコー」第1号モデル。

 グランドセイコー(Grand Seiko、略称GS)とは、どんな腕時計なのか。それは初代グランドセイコー、グランドセイコー第1号モデルが生まれた背景と経緯を知って頂くのがいちばんです。

 初代グランドセイコーが目指したのは、時を知る道具である腕時計の本質である「正確さ(優れた時間精度)」と、着けた人の腕元で際立つ「美しさ、そしてひと目で時刻が読み取れる「見やすさ(読み取りやすさ)」の最高峰を極めること。これは今もグランドセイコーの変わらぬ目標です。つまり、グランドセイコーとは「正確で美しく見やすい腕時計」なのです。

 初代モデルの開発・製造を行ったのはセイコーグループの諏訪精工舎(現セイコーエプソン)。秒単位まで正確に時刻合わせができる秒針停止装置を「セイコー」の腕時計で初めて搭載。精密な精度調整のための、緩急針の微動調整装置も備えているという画期的な腕時計でした。

 その後、同じグループで兄貴分とも言うべき第二精工舎(現セイコーインスツル)でも開発・製造が始まります。そして、セイコーが機械式よりも格段に正確なクォーツ腕時計で世界を席巻し、クォーツ腕時計がセイコー腕時計の主力商品になった1970年代半ばに残念ながら製造は終了、市場から姿を消します。

世界でも他にない「セイコースタイル」

左から1960年の初代、1968年の「6145GS」、そして2018年のグランドセイコー限定モデル(SBGH267)。

 グランドセイコーは「正確で美しく見やすい腕時計」だとお伝えしましたが、世界的に見てもそのデザインは独特です。シンプルなデザインの腕時計は数多くありますが、グランドセイコーはそれとは違う、ひと目でグランドセイコーとわかる特徴を備えています。

 それはすべてのモデルが基本的に「セイコースタイル」と呼ばれるデザイン文法に基づいてデザインされているから。これは歪みやねじれのない平面と二次曲面、そして直線でデザインを構成するというもの。一見シンプルですが光を当てると煌めきと影の陰影が際立ち、力強い存在感を放ちます。

 このデザイン文法が「セイコースタイル」として明文化、確立されたのは1967年(昭和42年)。通称「44GS」と呼ばれるモデルから。そしてこのセイコースタイルは、今もあらゆるモデルの基本になっています。

 このデザイン文法から生まれたグランドセイコーのスタイルは、世界で唯一無二、日本独自、セイコー独自のもの。つまりグランドセイコーは、デザインでもスイス製の腕時計とはまったく違う、独自の個性、輝きを持つ腕時計なのです。

量産モデルなのに職人技を凝縮

グランドセイコーの機械式モデルの製造を担当する、盛岡セイコー・雫石高級時計工房の時計職人たち。

 正確で美しく見やすい。独自のスタイルを備えている。それがグランドセイコーの魅力だとお伝えしました。しかしもうひとつ、どうしても付け加えておきたい大切な魅力があります。それは量産される腕時計なのに、すべてのモデルに「熟練の職人技」が惜しみなく投入されていることです。

 現在、グランドセイコーには3種類のムーブメントが搭載されています。ひとつは1960年の第1号モデルに始まる歴史を持つ機械式。そして、セイコーが基本的な3つの技術を開発して、1969年に世界で初めて腕時計として製品化したクォーツ。そして1999年にやはり世界で初めて開発・製品化した、機械式とクォーツの優れた要素を組み合わせたスプリングドライブです。

 機械式ムーブメントが組立や調整に熟練の時計職人の技を必要とすることは、容易に想像できるでしょう。しかし、クォーツもスプリングドライブも機械式と同様に、社内の厳しい技能検定をパスした熟練の時計職人たちの手作業を必要とします。

 またセイコースタイルのケースを磨き上げて「光と影が織りなす無限の表情」を実現するのも、やはり熟練の磨き職人たちの手作業です。

 すべてのモデルに言えることですが、グランドセイコーと同じ価格帯で、グランドセイコーほど職人の手作業が凝縮された腕時計は他にありません。スイス製の腕時計で同様の手間をかければ、その価格はおそらくグランドセイコーの何倍ものプライスタグが付くでしょう。

 正確で美しく見やすく、独自のスタイルを持ち、量産腕時計なのに熟練の職人技が活かされている。しかも価格を超えた価値を持つ、世界最高峰の日本製腕時計。それがグランドセイコーであり、その魅力なのです。

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