感性で観るか、知性で眺めるか
世界に類を見ない、デジタルアート ミュージアムのスペック
2018年06月26日 12時00分更新
総面積1万㎡、520台のコンピュータと470台のプロジェクターで構成される「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」がお台場のパレットタウンにオープン。一般公開より少しだけ早く内覧会にお邪魔したので、写真とともにレポートいたします。
インタラクティブなアート作品群
まるで鮮やかなコンピュータのディスプレイやゲーム空間に迷い込んでしまったかのよう…。それがこのミュージアムに足を踏み入れたときの最初の印象です。そして、初めて夜空に打ち上げられた花火を観たとき、「あぁ、キレイ…」と思わず口に出てしまうような…、そんな経験ができるミュージアムでもあります。
夜空の花火と違うところは、作品群の多くがインタラクティブなデジタルアート作品であること。インタラクティブは「対話」または「双方向」の意味で、スクリーンに映し出された映像が来場者の動きにより反応することをいいます。今回、展示されている作品では…、と、ここまで書いて、そんな具体的な説明はマジックや推理小説の展開を事前に明かしてしまうようなヤボな気もするので、ここでは触れないことにします。ごめんなさい。
でも、ぜひ来場していただき、壁や床に投影された映像に手を触れて体験することをお勧めします。そんなふうに作品に直接触れることが許されるのも、このデジタルアートミュージアムの特徴なのかもしれません。
感性で観るか、知性で眺めるか
はたまた、身体で感じるか!?
デジタルアートミュージアムの作品群では、たとえば「秩序がなくともピースは成り立つ」のように、コセプチュアル アート*とも思えるタイトルの作品も展示されています。だだし、どれも現代芸術のような難解さはなく、キレイ、鮮やか、楽しいなどの明快さをもった作品ばかり。
(*コンセプチュアルアート:見た目や形状より、観念性や思想性を重視する傾向の作品。)
コンセプチュアルのようでありながら、美しく軽快、そしてダイナミック。そんなゲーム画面をながめるような気分で作品を味わうことができる。楽しむだけなら、難しい知識が何もいらないのが本来のデジタルであり、アートなのかもしれません。そんな気がしてきました。
ミュージアムは2層構造になっていて、とくに上のレイヤーにある「運動の森」は、宇宙空間を模したトランポリンで跳ねたり、アスレチックのような吊り棒渡りをするものまであります。まさに、観賞者の身体をつかった体験型のデジタルアート。ご来場の際は、軽快な服とスニーカーをお勧めします。もちろん、子供もOKです。
子供に寄り添ったデジタルアート作品も
とくに筆者が夢中になったのは「お絵かき水族館」。来場者が色を塗った魚やウミガメ、クラゲが、壁いっぱいに投影されたデジタルな海の中を泳ぎ回ります(この記事のトップ画像)。自分の塗った魚が芸術的でなくても海は受け入れ、元気に泳ぎ回る。そんなシンプルなことが素直に感激しました。
その隣には、レゴやプラレールの世界に入り込んでしまったように錯覚する「裏返った世界の、巨大!つながるブロックのまち」という作品が…。これは、子供が抱えられるほどのサイズの家や駅などを移動させると、道路ができ、線路がつながる作品。子供の頃の夢が叶ったみたいで、とっても楽しい!
筆者が来場したのは関係者の内覧日だったこともあり、本当は子供向けのインタラクティブアート作品に遠慮せずに参加できてラッキーな気分でした。「精神年齢低すぎかも…」と後で少々反省しましたが…。
アートとエンターテイメントの境界が消える
今回の作品群を手がけたはご存知、チームラボ。彼らがパリと日本の文化交流イベントに出展したおり、フランスの国内紙『ル・パリジャン』は「アートとエンターテイメントの境界を消した」と評したそう。
映画を発明したリュミエール兄弟が1895年ごろに撮影し、スクリーンに投影された実物大の蒸気機関車が観客のほうに向かってくる50秒ほどのサイレントムービーが公開されたとき、観客は圧倒され、悲鳴をあげて逃げたという伝説があります。
今回のエキシビションでは、そんな逸話に似た「来場者と作品の境界さえも消えつつある」、そんな新体験ができるアートミュージアムだと、筆者は勝手に想像しています。もちろん、美しい作品群ばかりで、悲鳴をあげて逃げるような作品なないのでご安心ください(笑。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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