このページの本文へ

世界シェアトップは目的でない、結果に過ぎない、米HP CEO

2018年05月15日 19時40分更新

文● 小林  編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 米HPの社長兼CEOディオン・ワイズラー(Dion Weisler)氏が来日。事業の現状を語った。ワイズラー氏はオーストラリアの通信企業テルストラ、パソコンメーカーのエイサー、レノボで要職を経たのち、HPのアジア太平洋&日本地域のプリンティング&パーソナルシステムズ事業の上級副社長兼マネージングディレクターに就任。2015年からはHPの社長兼CEOとして、HP(PC/プリンター事業)とHPE(大企業向け事業)の分社化などを手掛けた。

日本は興味深い市場だ

 冒頭で「また日本に来ることができてうれしく思う」と語るワイズラー氏。日本は興味深い市場だという。

ワイズラー 「市場規模が大きく、サービスに対する顧客の需要も品質への要求も高い。日本法人の岡社長との間でこの時期、ビジネスの進捗を聞き、プランニングする機会を持っているが毎年これを楽しみにしている。日本は(PCを中心とした)パーソナルシステムズの分野で14.2%シェア(前年比0.6%増)と過去最高を示した。普段笑うことの少ない岡社長も喜んでいた。これはイノベーションの結果であり、11四半期連続で成長を継続できている点を素直にうれしく思う。セキュリティはひとつのトピックス。ここは自負しているし、顧客が価値を感じるものに投資できている」

 HPは一時期、グローバル市場での首位の座をレノボに明け渡していたが、2017年に再び首位に返り咲いた。2018年Q1成果に関しても引き続き自信を示した。

ワイズラー 「市場は縮小方向という見解の中、前年比14%の成長と145億ドルの売上を実現できた。全地域で2桁成長を遂げ、パーソナルシステムズのビジネスは15%、プリンティングは14%の伸長率、4四半期連続で前年比成長を続けている。ダブルダブルの二桁成長を続けている。重要なのは利益を伴った成長を上げている点。ボトムライン(純利益)、トップライン(売上)、シェア(市場占有率)のすべてで成果を上げられた」

 このところよく聞くのが、同社が「コア」「グロース」「フューチャー」と呼ぶ、3本柱に沿った成長戦略だ。この3本柱に関しては日本HPの会見でもしばしば紹介されている。

 「コア」はPC/プリンターといった既存のビジネスを指し、市場規模は5000億ドル程度。成長率は緩やかだがまだ成長のチャンスはあるとする。「グロース」は3~5年後の成長の柱となる事業で、サムスン電子から買収したA3レーザー複合機やデジタル印刷などが含まれる。A3プリンターの市場規模は550憶ドルあるが、HPの市場占有率は4%程度とまだ低い。550憶ドルの市場規模は、現在のA4プリンター市場とほぼ同じだという。

 最後の「フューチャー」は5~10年後を見据えた事業で3Dプリンターやイマーシブコンピューティングが該当するという。ハードとしてみた場合の3Dプリンターの市場はせいぜい50億ドル規模だが、これを軸にすれば12兆ドルと呼ばれる製造業の市場に取り組めるとする。VRも個人向けではなく業務用途や教育用途などを中心に訴求していく意向を示した。

 これら3つの柱に共通した課題であり土台となるのが「サービス化」だ。ワイズラー氏はこれを「Everything as a Service」という言葉で表現した。中堅企業を中心にPCなどのシステム管理を代行してほしいという要望が高まっている点を示しながら、すべてのプラットフォームを管理できる「ソフトウェアスイート」が必要であり、チャネルパートナーを通じてSMB向けなどにも提供を広げていくとした。

デザインのない製品は売れない、これはライフスタイルの変化による

 会見を通して印象的だったのは、現在の好業績があくまでも「顧客の声を聞き、地道な改善を続けてきた結果に過ぎない」と繰り返し語っていたことだ。シェアをいたずらに追うのではなく、顧客を知り、やるべきことをやり、イノベーションを加速。それに順じた製品を投入した結果に、成果が付いてきている点を強調した。これを前提にしながら、10年、30年のスパンで地球に影響を与えるようなメガトレンドを見据えていきたいとする。

 特に印象的なのは、プレミアムモバイルノートの分野でデザインの刷新に成功し、好業績の原動力になっている点だ。これもそうした姿勢の表れだという。

ワイズラー 「PCマーケットは統合(Consoridate)が続く。巨大企業はより大きくなり、規模の小さなメーカーには厳しい市場となるだろう。この市場再編は今後も進んでいく。同時にPC市場はOSやアーキテクチャーなど、複雑さを増している。このような状況の中、マーケットシェアに関心はあるものの、それがすべてだとは思っていない。付加価値の提供や利益をともなったシェアでなければ追求すべきではないと思うからだ」

 そのうえで、HPはメガトレンドを考慮にしたうえで戦略を立案し、サービス主体のエコノミー(経済圏)にシフトしようとしている。世界では人口動態の変化が進み、働く時間と個人の時間の境界もあいまいになりつつある。結果として、一つの人生を充実させるため、デジタル機器がどのような役割を果たせるかが重要になる。

ワイズラー 「変化に応えるため、カスタマーインサイトを蓄積していくと、顧客にとって重要なのがデザインだと分かった。デザインが購入の意思決定のために重要な位置を占めている。次に求められるのが、セキュリティや個人情報の保護であり、ユーザーの不安をなくす取り組みだ」

 所有から利用といった文脈の中、ワイズラー氏が自身のエピソードを語る場面もあった。

ワイズラー 「サービス化の流れは止められない。娘が18歳になった時、『免許書はいらない。その代わりにお父さんのクレジットカードをちょうだい。そうすればUberを呼べるから』と言われた。車を持てば、洗車したり、給油したり、メンテしないといけない。一方で移動手段としてA地点からB地点に行ければいいというのが若者の考え方だ」

 意図しているのは、言うまでもなく「人々が何を考え、欲しているか」を把握し、製品とソリューションを組み合わせなければならないということだ。この点に関して昨今のHPは非常に徹底した姿勢を貫いている。これがうまく機能した結果が、シェア獲得や継続した成長につながっているのだろう。依然としてハード主体のビジネスを続けているHPだが、あくまでも顧客ファーストの姿勢を貫いている。

 会見の最後に語った「他社にまどわされず、やるべきことをやる」。そんなコメントが印象的だった。

■関連サイト

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ