4月23日、日本電信電話を始めとするNTTグループ4社が、海賊版サイトへのブロッキングの実施を発表したことが話題となっています。
この発表に賛否両論が渦巻く中、4月27日に開催されたNTTドコモの決算会見では、たとえ海賊版サイトが閉鎖されたとしてもブロッキングは実施するという、ドコモの強気な姿勢が明らかになりました。
なお、この問題では出版社が当事者となっているため筆者の立場を明らかにしておくと、フリーランスとして寄稿している外部のライターであり、出版社を代表するものではありません。
3サイト閉鎖でも「復活の恐れがある」
最初の論点は、政府が名指しした3サイトは事実上閉鎖したのではないか、という点です。「漫画村」と「Anitube」はすでにつながらなくなっており、「MioMio」も動画を再生できなくなっているなど、ブロッキングを実施しても意味がない可能性があります。
この点についてNTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏は、「閉鎖はされていても、場合によっては復活するかもしれない」と懸念を表明。コンテンツの一部が表示される場合なども想定し、「基本的にはブロックしていく。いままでの考え方を変えるつもりはない」と回答しました。
たしかに、3サイトの亜種とみられるサイトは出てきており、閉鎖したサイトもほとぼりが覚めた頃に復活する可能性はあります。今回のブロッキングの発端となった、政府の知的財産戦略本部が4月13日に発表した緊急対策では、
”民間事業者による自主的な取組として、「漫画村」、「Anitube」、「Miomio」の3サイト及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが適当と考えられる。”
との記述があることから、ブロッキング対象は3サイト以外にも浮かび上がる可能性があるといえます。
「ビジネスを阻害する」という視点
一方、重大な懸念が挙がっているのが「通信の秘密」との兼ね合いです。通信事業者は、パケットの宛先などを確認するだけでも通信の秘密を侵害しているとされます。しかしそれは業務上必要な行為なので、侵害はしているが違法性はないという扱いになっています。
このことから、どういう理由であれ、サイトをブロッキングすることは通信の秘密の侵害になります。問題は、この侵害がどのような根拠で違法ではないと言えるのか、という点です。先に挙げた知財本部の緊急対策では、ここで刑法第37条が定める「緊急避難」をロジックとして持ち出しています。
これに対して吉澤氏は、「可及的速やかな立法化」を改めて求めた上で、ビジネス面の影響に言及。「インターネットのビジネス、コンテンツのビジネスを考えたとき、発展を阻害しているという事実は誰もが認めており、それを見過ごすわけにはいかない。我々自身もそういう意味ではdアニメなどをやっていることもあり、そういう考え方でNTTグループとしてやっている。いろいろな意見があることは当然承知している」と語っています。
法整備なくしてブロッキングに踏み切ることへの訴訟リスクに関しては、「政府決定にあたって、その場にいたわけではないが、少なくとも法務省や総務省が中に入って検討されたと聞いている。そういった中での結論は適当であるとして、決定について自主的な対応をするという判断をした」(吉澤氏)と回答しています。
NTTグループは説明の機会を設けてほしい
4月23日のプレス発表は、政府の決定に追従したとの印象が強かったのに対して、今回は一歩踏み込んだ見解を出してきたといえます。
それと同時に、ビジネス面での影響についての吉澤氏の発言は、やや誤解を招きやすい言い方に感じます。捉え方によっては、あたかもNTTグループがビジネス上の理由でブロッキングに踏み切るようにも聞こえるからです。
しかしその文脈を見ていくと、広くインターネット全体のビジネスについて問題提起した上で、NTTグループの当事者性を補足しています。どちらかといえばインターネット全体の利益を代弁したニュアンスといえるでしょう。
一方で、インターネットは自由でオープンな情報流通のもとで発展してきた歴史があり、それを支えてきたのはNTTグループを含む通信事業者による不断の努力だったともいえます。
児童ポルノのブロッキングのような人権侵害への対策とは異なり、ビジネス面での影響が絡んでくるのであれば、より慎重になるべきではないかというのが筆者の立ち位置です。
もちろん著作権侵害への対策が必要なことには、多くの人が同意するでしょう。問題はそのやり方であり、日本を代表する通信事業者であるNTTグループが動いたことで、その影響範囲は計り知れないものがあります。
ドコモの決算会見では質疑応答の時間が限られていたこともあり、もう少し掘り下げた説明の機会が設けられることを期待したいところです。
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