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言わずと知れた名盤を高音質で聴く:

ハイレゾでますます怖い「サージェント・ペパーズ」

2018年01月20日 12時00分更新

文● モーダル小嶋/ASCII

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1. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

 架空のブラスバンドのショーというコンセプトは、観客のおしゃべりとオーケストラのチューニング音で幕を開けるこの曲によって明示されます。ちなみに観客の声はアビー・ロード・スタジオの倉庫にあったライブラリテープから、チューニング音はラスト曲「A Day in the Life」のセッションから取られているようです。

 まず、右から聴こえてくるリードギターの音に「うおっ」とのけぞりました。音の感触が「ゾリッ」「ギャリッ」と尖っている。これに比べると、いままで聴いていたギターの音はなまっちょろく感じてしまいます。ミックスの話をすれば、ポールのボーカルが中央、シンバルはやや左、ギターは左右に分かれていますから、ジャケットのメンバーの並び通りになっていることにも気づきました。

2. With a Little Help from My Friends

 この曲で「おおー」と感じたのはドラムです。ハイハットのシャキシャキした音、スネアの「スコン!」と抜けのよい音、フィルインのタムの音……どれもリアルですねえ。もう一つ、ポールのベース(リッケンバッカーでしょう)の堅く締まった響きも聴きどころです。

 1曲目でギターの迫力に驚いたと書きましたが、気付いたのは、何もギターだけでなく、楽器の一つ一つがしっかり芯が鳴っているように聴こえること。これはビートルズマニアなら、とても嬉しいのでは。

3. Lucy in the Sky with Diamonds

 イントロのハープシコードのような音(ハモンド・オルガンだそう)の輪郭が、じつにくっきりしています。おそらくジョージが弾いているタンプーラの音が、これほどはっきり聴こえたのも人生で初めてでした。サウンドの一つ一つが明確になった分、演奏の迫力が増したように思います。サビのジョンのリードボーカルも力強く感じられます。

弦楽器「タンプーラ」。打楽器「タブラ」と混同している人がいますが、別物です

4. Getting Better

 ピアネット(初期のエレクトリック・ピアノ)がアクセントになっている曲ですが、よい音で聴くと、本当にリンゴはドラムがうまいんだなと思います。シンプルなのですが、鳴らすべきところでしっかり音が鳴っている。多重録音の中にも、バンドの演奏のグルーヴがきちんと感じられる点は、いままでのCDやレコード(というか、旧ミックス)より顕著ではないでしょうか。

5. Fixing a Hole

 ビートルズがいつも使っていたアビー・ロード・スタジオが埋まっていて、しかたなくリージェント・サウンド・スタジオ(ローリング・ストーンズの初期のレコーディングもやっていたスタジオ)で録音したテイクにオーバーダビングして完成したもの。さすがにスタジオの違いによる音の変化は目立たないものの、ハープシコードの硬質な音などは、やはりハイレゾだなと実感できました。

6. She's Leaving Home

 ストリングスのアレンジがジョージ・マーティンではないことは、ファンには有名のはず。フリーのアレンジャーであるマイク・リーンダーにオーケストレーションを依頼するものの、セッションにはジョージ・マーティンが現れ、少しだけスコアを書き換えて録音したとか。やはり、このストリングスが聴きどころ。楽器の一つ一つが聴き取れる感じがあります。

 ちなみに、旧来のステレオ版ではミックス時にテープのスピードを下げた為、キーとテンポが下がっています。モノラル版は3分25秒に対し、ステレオは3分35秒。このハイレゾ版は、モノラル版に忠実なキーとテンポになっています(つまり3分25秒)。

7. Being for the Benefit of Mr. Kite!

 この曲の聴きどころといえば、間奏の3拍子の部分。オルガンを録音したテープを数センチごとに切って、ランダムに繋げた上で逆回転させる、当時としては奇想天外なアイディア。この独特のテープループも、以前にもまして迫力があります。レコードでは、この曲がA面の最後でした。

ジョンが「Being for the Benefit of Mr. Kite!」のインスピレーションを受けたポスター

8. Within You Without You

 レコードでは、B面はこの曲から。ジョージが傾倒していたインド音楽の影響が顕著な楽曲ですが、インド楽器の音色のリアルさに息を呑みました。特にシタールの広がりがいいですね。8人のヴァイオリン奏者と3人のチェロ奏者によるストリングス・セッションも、いままで混ざりあっていたように感じられたのですが、ハイぞれはそれぞれの楽器がちゃんと聴こえる(特に間奏!)。ジョージのヴォーカルも味わい深さが増しました。

9. When I'm Sixty-Four

 クラリネットの音色がより艷やかになりました。チャイムやベルなど、金物の音もはっきりしたように思えます。ドラムのブラシワークも聴きどころですね。

10. Lovely Rita

 この曲のエンディングでは、メンバーがトイレットペーパーとクシで効果音を鳴らしています。間奏のピアノソロも、エンジニアのジェフ・エメリックがテープレコーダーにテープを貼り付けて回転を揺らし、独特のムラを生んでいたとか。そのような試行錯誤が、ハイレゾで聴くと、よりはっきりわかるのがおもしろい。

11. Good Morning Good Morning

 ギター・ソロのジャキジャキした音が、やはりいままで聴いてきたものとは違います。加工したブラス音の迫力もすごい。以前のステレオ音源では左右に分かれていたブラスが、ミックスで中央にぐっと集まったこともあるでしょう。

12. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)

 新しいミックスは、無理に音を両側に分けず、定位を中央に寄せつつ、ほどよくステレオ感を足しているのがわかります。旧ステレオミックスと比べると、この曲もぐっとセンターに音がまとまった感じ。ハイレゾで聴くとベースとドラムの響きはエッジが効いており、迫力が段違い。

13. A Day in the Life

 この曲といえば、前半と後半をつなぐ間奏部分のものすごさ。ポールがオーケストラで「最も低い音から最も高い音」を「最も弱い音から最も強い音」で奏でるというアイディアを出したそうで、ハイレゾでますます鬼気迫る感じが強くなりました。

 エンディング(Eのメジャー・コードによる「ジャーン!!」)は、オーケストラとメンバー全員によるピアノをオーバーダビングしたもの。音の余韻を引き伸ばす過程で小さい音も拾ってしまったため、イスがきしむ音などが入っているのは有名。この部分も、ハイレゾならではの深い余韻が味わえるのがうれしいですね。

ハイレゾの聴きどころはむしろ未発表テイクかも

 うれしいのは、未発表テイクもハイレゾ(しかもステレオ)で楽しめることです。さまざまなオーバーダビングなどがほどこされる前の録音なので、なによりも生々しい。ビートルズのバンドとしての実力、メンバーの声の魅力がわかろうというもの。

 加工されていない「Lucy in the Sky with Diamonds」のジョンのボーカルや、まだ手が加えられていない「Strawberry Fields Forever」(シンプルなテイク7は最高!)を楽しめるなど、感動ははひとしおです。ピアノではなくコーラスによるエンディングの「A Day in the Life」も聴けます(最後にメンバーが「ハム~ン」と歌う)。

 当時のテープに残された音源をそのまま満喫できるのも、すばらしい聴きどころだと思います。ファンなら、これが目当てだけでも聴く価値は十分にあると言い切れましょう。

高音質でもまだまだ「わからない」からすばらしい

 高音質な録音(この表現が適切かどうか、少しばかり悩ましいのですが)を聴いたとき、「目の前で弾いて(歌って)いるような」という比喩が使われることがあります。しかし、スタジオで4トラック録音機(!)を活用して作った「サージェント・ペパーズ」についてはそうではない。

 楽器の音やボーカルがより明確に聴こえてくるものの、「ジョンがそこで歌っているようだ」といったようなものではなく、むしろ、緻密なスタジオワークによって生まれた成果物における、個々の構成要素がくっきり見えてきたといったほうがよいでしょう。

 ハイレゾで聴く「サージェント・ペパーズ」は、ミックスの違いも大きいのですが、高音と低音が、それぞれぐっと伸びた印象を受けます。その結果、全体の見通しがよくなったように感じる。ハイレゾ化により、実験的要素のディテールと、勢いのあるバンド(およびスタジオ・ミュージシャン)のアンサンブル、両方がより堪能できるようになりました。

 たとえていうなら、ずっと印刷物で見てきた名画の実物を、初めて近くで見たような感覚。微細なマチエールや、細部の色使いなどを、しっかりと確認できたときの感動。しかし、あらためて全貌を見直しても、やはり奥深さは変わらない。むしろ前よりもよく見える(聴こえる)分だけ、さらなる発見がある。

 “高音質”になった「サージェント・ペパーズ」は、それでもなお、わからないところが多い。だからこそ、強く惹かれてしまいます。50年以上も前の録音なのに、汲めども尽きぬ魅力がある。実際に、今なお、当時のスタジオ事情や、関係者のインタビュー、サウンドを解析する書籍などが出続けているわけですから。

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 わからない部分があるから、未知の怖さがあるから、名盤は名盤であり続けるのかもしれません。僕たちは、人と言い争いをしたとき、「わかった、もういい」と言って切り上げることがある。自分の中で答えが出たものは、終わりになってしまうわけです。しかし、歴史に名を残す傑作は違います。何度でも味わいたくなる、わかった気分になれない深さ、人生を狂わせる恐ろしささえ、潜んでいるもの。

 謎めいていて、底知れぬ傑作である本作がハイレゾ化したことで、ますます“怖さ”を増したように思われるのです。ビートルズファンならずとも、ぜひ新しい「サージェント・ペパーズ」を体験してほしいですね。


モーダル小嶋

1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。ショートコラム「MCコジマのカルチャー編集後記」ASCII倶楽部で好評連載中!

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