商用サービス開始から今年で7年目を迎えたMicrosoft Azure。2017年も様々な新発表がありました。その中から、特に国内でインパクトが大きかった2017年のAzureのトピックを振り返ります。
OSS on Azureの進展
サティア・ナディラCEO就任を機に、Azureは年々、OSSとの親和性を高めてきました。2017年11月時点で、Azure仮想マシンのLinux比率は40%に達したそうです。
5月に米国シアトルで開催されたマイクロソフトの年次イベント「Build 2017」で、AzureからOSSのRDBMSである「MySQL」と「PostgreSQL」をフルマネージドのPaaSで提供することが発表されました。さらに、11月開催のイベント「Connect 2017」において、MySQL互換のOSS「Maria DB」のPaaSも発表しています。
MySQL、PostgreSQL、Maria DBのPaaSは、AWSのAmazon RDSから遅れての登場になりました。マイクロソフトは、サービスの可用性(SLA99.99%)の高さ、バックアップ/リストア機能の標準内蔵といった競合優位性をアピールし、PostgreSQLの利用が多い日本市場や、国策でクラウドDBの利用がOSSのみに制限される中国市場でユーザーを獲得していきたい考えです。
Azure Cosmos DB登場
5月のBuild 2017で、世界中すべてのAzureリージョンにデータを分散保存できるNoSQLデータベースサービス「Azure Cosmos DB」が発表されました。世界中を移動する自動車のデータを活用したい自動車業界や、グローバルにコンテンツを配信するゲーム業界など、国内主要産業のビジネスにインパクトのある新サービスと言えます。
Cosmos DBは、データの保存方式をDocument、Graph、Key-Value、Column familyといったNoSQLデータモデルから選択できる「マルチモデル」、それぞれのデータモデルで利用できるAPIを提供する「マルチAPI」、分散データベースにおけるデータの一貫性を5つの強弱レベルから選択できることなどを特徴とするサービスです。
Cosmos DBでは、それぞれのNoSQLデータモデルで利用できるAPIとして、DocumentではDocumentDB APIとOSSのMongoDB API、GraphではOSSのGremlin API、Key/Valueでは(Azure Table Storageと互換性のある)Table APIを提供しています。また、11月のConnect 2017でColumn familyデータモデルで利用できるAPIとしてOSSのCassandra APIのサポートを発表したほか、可用性やスループットの拡張など、着々と機能強化が進んでいます。
Windows 10 on Azure解禁
マイクロソフトはこれまで、マルチテナント型ホスティング環境でWindowsクライアントOSの利用を許可していませんでしたが、今年7月、このライセンス規定を改定。Azureおよび同社が認定するサードパーティのマルチテナント型クラウドで、Windows 10の仮想デスクトップ(VDI)環境を使うことを可能にしました。
ライセンス規約改定に併せて、Windows 10が使えるクラウドを認定する「QMTH」プログラムを新設。国内では、インターネットイニシアティブ(IIJ)、野村総合研究所(NRI)、ソフトバンクのサービスが、Windows 10が使えるQMTH認定クラウドになっています。
Azureにおいても、ライセンス規約改定を見据えて、シトリックスのXenDesktopベースのWindows 10 VDIサービス「XenDesktop Essentials」を3月にリリースしていました。また、ヴイエムウェアも2018年前半に、Windows 10のVDIサービス「VMware Horizon Cloud」をAzureから提供することを発表しています。
AIの進化と「インテリジェントエッジ」戦略
4月、マイクロソフトの機械翻訳エンジン「Microsoft Translator」の音声翻訳が日本語に対応し、同エンジンを搭載する翻訳アプリやSkype翻訳、PowerPointでリアルタイムの日本語音声翻訳が可能になりました。
Microsoft Translatorの日本語音声翻訳機能は、AzureのAI API群「Cognitive Services」のAPIとしても提供されています。マイクロソフトがAIなどの研究開発に費やす資金は日本円換算で年間1兆円にもなり、2017年もCognitive Servicesは進化を続けました。
5月のBuild 2017では、Cognitive Servicesにユーザーがカスタマイズできる画像認識API「Custom Vision Service」と音声認識API「Custom Speech Service」が追加されています。自社製品を画像認識するAIや、固有名詞を賢く学習する音声認識AIなどをAzure上で簡単に作成できるようになり、ビジネスでの用途が広がりました。
さらに、Build 2017ではマイクロソフトの新しい経営ビジョンとして、「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」が打ち出されました。インテリジェントクラウドとはCognitive ServicesなどのクラウドAI、インテリジェントエッジとはローカルの端末側に実装されたエッジAIを意味します。
エッジAIは、車載センサーなどのIoTデバイスから生成される大量データをローカルで分析し、リアルタイムにAIの洞察を得るテクノロジーとして自動運転システムへの応用が期待されます。そのほかにも、ビジネス上の機密データや、顔写真などのプライバシーデータを扱う際に、データをクラウドに送信せずローカルでAIを使う仕組みを実現します。
エッジAIのためのサービスとして、Build 2017で「Azure IoT Edge」が発表され、11月のConnect 2017でパブリックプレビューがリリースされました。Azure IoT Edgeでは、エッジデバイス(Windows、Linux)上で、機械学習サービス「Azure Machine Learning」、ストリームデータ分析サービス「Azure Stream Analytics」、サーバーレスアプリをホストする「Azure Functions」などの機能をDockerコンテナーとして実行できます。
また11月に、前述のカスタム画像認識AI API「Custom Vision Service」が、iOS 11のCore MLフォーマットへエクスポート可能になりました。これによって、iPhoneなどのiOS端末上で、ローカルに画像分類が実行できるようになります。そのほか、Microsoft Translatorの機械翻訳機能がクラウドに加えてオンプレミスでも利用できるようになるなど、クラウドAIのテクノロジーをエッジに実装する動きがみられました。
Azureベアメタルインスタンス
6月、Azureの東日本/西日本リージョンから、SAP HANA専用にチューニングしたベアメタルインスタンス「SAP HANA on Azure(Large Instance)」を2017年中に提供することがアナウンスされました。この発表に併せて、日本マイクロソフトは「今後、国内で400社の基幹業務システムをAzureに載せることを目指す」ことを経営目標に掲げています。進捗はどうでしょうか。
さて、この6月のSAP HANA専用ベアメタルの記者発表会に登壇した米マイクロソフト Azure担当副社長のJason Zander氏は、「現時点で、HANAワークロード向け以外のAzureベアメタルの提供は予定していない」とコメントしていたのですが、5カ月後の11月、VMwareワークロード向けのAzureベアメタルインスタンス「VMware virtualization on Azure」が発表されました。
VMware virtualization on Azureの提供については、一時、マイクロソフトとヴイエムウェアの足並みがそろわない様子が見られましたが、現在は、2018年の提供開始に向けて2社が協力しているようです。
Azure日本リージョンで障害相次ぐ
9月に国内開催されたパートナー向けイベント「Japan Partner Conference 2017 Tokyo」では、北國銀行がインターネットバンキングサービス「北國クラウドバンキング」の基盤にAzureを採用した事例が紹介されました。その他、2017年はブリヂズトン、ローソン、クボタ、セブン銀行といった国内の金融、製造、小売りの大手企業がAzure導入の事例を発表しています。
日本マイクロソフトの平野拓也社長は、8月の経営方針記者会見で「日本法人のクラウド売上比率は47%まで拡大した」と述べており、2017年、国内のAzureビジネスは好調に推移したようです。
ビジネスが好調だった一方で、2017年はAzureの国内リージョンで障害が相次いだ年でもありました。3月8日、東日本リージョンで約2時間にわたりサービスに接続できない障害が発生。3月28日には西日本リージョンで約3時間にわたり接続障害が起こりました。さらに、3月31日には再び東日本リージョンで大規模障害が発生しています。大変でしたね。
そして量子コンピュータ
2017年、最も記憶に残った夢のある新発表は、9月開催の「Ignite 2017」でお披露目された「トポロジカル量子コンピュータ」でしょうか。Igniteでは、量子コンピュータの仕組みを実装したチップと冷却装置のハードウェア、およびVisual Studioで使える量子コンピュータ向けプログラミング言語「Q#」が発表されました。12月には、ローカルPCで動作する量子シミュレーターなどを含むQ#アプリ開発ツールキットの無償提供を開始しています。
このトポロジカル量子コンピュータは、将来的にAzureに統合される予定で、「5年後には、部分的に実用化されているのではないか」(2017年10月16日の会見で日本マイクロソフト CTO 榊原彰氏)というテクノロジーです。2018年も、引き続き注目していきたいですね。