社長の年頭所感を記事化する用意もなく、しれっと終わり、しれっと始まるのがテクノロジー領域を追うASCII B2B部隊の年末年始。TECH.ASCII.jpやTeam Leadersなどを展開する編集部の目線で、今年やってきた活動を振り返ってみたいと思う。
ITの適用範囲の拡大で、選択と集中が始まる
AI、IoT、ブロックチェーンなどクラウドを苗床とした「Above Cloud」とも呼べるテクノロジーが次々と実用化に進んだ2017年。専門分野が増えてきたIT業界の中で、われわれのようなテクノロジーメディアは大きなターニングポイントを迎えている。
一番大きいのは、記事を書くのが大変になってきたことだ。ITの適用フィールドがどんどん拡大したことで、テクノロジーメディアの専門化が進んでいる。IoTやAI、ロボットなど専門性の高いメディアが次々とスタートし、エンドユーザー自身がブログメディアで情報発信を進め、専門知識と業界動向を理解する人材が知見を溜めつつある。こうした中、総合的なニュースを扱うわれわれのようなテクノロジーメディアに生きる道はあるのか?という自問自答だ。
先日は某所の忘年会で愚痴ってしまったのだが、テクノロジーの最新動向や技術的な本質を追い続けるのは本当に骨が折れる。いろいろ悩んだ結果として、ASCII B2B部隊として私が選んだ戦略は、アスキーとして勝負して勝てるコンテンツへの「選択と集中」である。読んでいただければわかるが、今年は記者発表会の記事が昨年に比べてもかなり少ない。少なくとも私自身はIT記者として「行くのが当たり前」「抑えるのが当然」というイベントや発表会の参加をかなり止めてしまった。時間がかかる割にPVに結びつかない海外出張のお誘いも基本的に断るようになった。PR会社や広報さんからは「えっ?みんな来るのに、まさか来ないんですか?」的なリアクションを受けることも多いが、もはや市場と読者が変わってしまったので致し方ない。
その代わり、他の媒体がなかなか足を伸ばさないようなユーザーコミュニティや勉強会にはなるべく参加するようになった。時には自らも登壇するし、イベントを主催する側にも回った。同一情報の拡大再生産ではなく、他媒体に比べて差別化のできるコンテンツこそ、やはりわれわれの力の源泉になると考えたからだ。「常在戦場(つねに戦場にあり)」の心持ちで、ライバルたちとつばぜり合いをしていくのはとてつもなく楽しい。さまざまなテクノロジーが勃興し、実社会に埋めこまれていく中、AIにリプレースされると言われるIT記者は、もっともエキサイティングな仕事だと思う。
選択と集中という戦略の中で、2月には編集部に羽野三千世がジョインした。彼女が編集部に来たのは、クラウドベンダーとして2強と言われているMicrosoft Azureを追うため。実際、編集部に入って以来、おそらく7~8割の記事はAzure関連。選択と集中をするのであれば、これくらいまで極端に振った方がよいだろうという判断なので、今後も羽野はAzureを追い続けることになるだろう。
そして各メーカーとの企画を展開するスポンサードのマイクロサイトに関しても、今年は「kintone三昧(サイボウズ)」と「Acrobat×ASCII(アドビ)」が増えた。長年スポンサーしていただいているネットギアや、昨年立ち上げた「JAWS-UG on ASCII」とさくらインターネットの「熱量チャレンジ」に続いて、kintoneとAcrobatはASCII B2B部隊としては4・5つめのサイトになる。
使い方、事例、セミナーレポート、ニュースなど、両サイトとも妥協なくkintoneとAcrobatの記事だけで構成されている。立ち上げ時期がほぼ同時だったので、制作はまさに死ぬ思いだったが、なんとか継続的に記事展開できている。kintoneにせよ、Acrobatにせよ、定期的に記事を出し続けていられるのは、ライター柳谷智宣さんのおかげだ。確実な納期とクオリティで連載を上げ続けてくれる柳谷さんには頭が上がらない。今からでも遅くないので、力作の連載を年末年始にチェックしてもらいたい。
働き方とテクノロジーを追う「Team Leaders」を9月にスタート
そして9月には働き方と業務改善を考える現場リーダー向けクラウド媒体「ASCII Team Leaders」も開設した。テクノロジー記者のオオタニも、ここ3ヶ月は人事担当の人たちに会って、制度や企業文化についての話を聞き続けているが、人材不足や働き方改革といった課題があるので、とにかく面白い。テクノロジーとは異なる観点で、イノベーティブな領域であることを確信している。
Team Leaders開設のきっかけはさまざまだ。まずはIT部門が持っていた予算が、いわゆる現場部門に移っている現状がある。デジタルマーケティングの施策をスピーディに展開する必要があるマーケティング領域を先発隊として、現在は営業や総務、経理などのあらゆる現場部門でITを積極的に導入する動きが加速している。
こうした流れの直接のきっかけはもちろんクラウドだ。自社でIT資産を持たず、月額課金で使いたい機能のみを利用できるビジネスクラウドであれば、IT部門の手を借りずともスピーディに導入や運用ができる。IT部門を間に介さないこうしたITの利用は、これまで「シャドウIT」としてIT部門から忌み嫌われていたものだが、今後は現場先導でITの導入が進み、IT部門が現場部門をサポートするという形に進んでいくだろう。こうした現場発の新しいクラウドの活用を考えていくのがTeam Leadersの大きなテーマで、kintoneやAcrobatの潜在ユーザーもきちんとカバーしていく予定だ。
もう1つはご存じ働き方改革だ。現在、日本は官民挙げて働き方改革に邁進している現状にある。やりがいのない長時間労働はブラック企業の象徴となり、労働時間の短縮は企業での喫緊の課題になっている。一方で、人材不足も深刻な問題となっており、業種によっては働き手が担えないことで、ビジネスが伸ばせないという事態も起こってくる。リモートワークを推進したり、働きやすいオフィスを作ったり、出産や介護などのライフイベントに合わせた柔軟な制度を整備するといった一連の働き方改革を進めなければ、離職は増え、今後人材を獲得することも難しくなるはずだ。
こうした働き方改革を支えるのもクラウドになる。単位時間あたりの生産性を上げるには、ムダな業務をそぎ落とす業務改善のプロセスとクラウドによる作業の効率化が鍵。Team Leadersでは、生産性の向上、業務の自動化・省力化にフォーカスし、いかにクラウドサービスを使いこなすかを現場目線で考えていきたい。
ということで、今年もご愛読ありがとうございました。年始もなるべく早く戻って参ります!