前回の記事を書いている時に引っかかってきた会社が、今回のSCOである。前回の記事には入れなかったが、IBMによるSequent買収のずっと後となる2003年、SCOに絡んで訴訟騒ぎになる。そのあたりで思い出したので、今回はそのSCOをご紹介したい。

SCOという会社は、正確には2つある。1つはSanta Cruz Operation, Inc.で、通称SCO。もう1つはThe SCO Group, Inc.である。時系列的にはSanta Cruz Operationが先だ。以下本文では、前者をSCO、後者をSCO Groupとして区別したい。ちなみに業界的に言えば、前者が「良いSCO」、後者が「悪いSCO」として記憶されていたりする。
UNIXのコンサルタント会社として
産声をあげたSCO
SCOは1979年、Larry Michels氏と、彼の息子のDoug Michels氏の2人により、UNIXのコンサルタント会社としてスタートする。社名の由来は所在地で、同社はサンノゼから南南西に40kmほど離れた、サンタクルーズ市にあるChessnut Streetにオフィスを構えた。
UNIXそのものは1971年にVersion 1がリリースされて以降、着々とバージョンを重ねており、また利用者も増えてきてはいたものの、基本的にはユーザーも開発者も大学を中心とした研究機関に限られており、1979年といえばまだマイナーなOSの域を脱しきれていなかった時期である。
とはいえその1979年にはVersion 7 UNIXやUNIX/32Vなども登場、さらにPDP-11以外への機種への移植も始まるといった、言わば「夜明け前夜」な状況で、さまざまな会社が自社のマシンにUNIXを載せようと考え、ところがエキスパートが足りないといった状況だった。
幸いなのは息子のDoug氏は、カリフォルニア大のサンタクルーズ校にいたときにUNIXにどっぷり触れる機会があったようで、ここでビジネスチャンスがあると判断したようだ。こうしたUNIXエンジニアリングのニーズに応えるべく、同社は当初さまざまな企業にUNIXに関するコンサルテーションを行なう。
同社の名前が知られるようになった最初のプラットフォームはインテルの8086および8088で、ここに向けてSCO XENIX System Vを1983年にリリースする。実はこれはマイクロソフトとの独占契約によるものだ。
画像の出典は、“Amazon”
XENIXはもともと、マイクロソフトが1978年にAT&TからVersion 7 UNIXのライセンスを受けて開発したUNIXである。ただこのライセンスには“UNIX”という名前を使う権利は含まれておらず、それもあってXENIXという名前をひねり出した形だ。
マイクロソフトはこのXENIXを、ZilogのZ8001やDECのLSI-11(PDP-11のカスタムIC版と書くと語弊を招きそうだが、要するにICを使って小型化することに成功したPDP-11)、MotorolaのMC68000、そしてもちろんインテルの8086/8088など、さまざまな16bit CPUに移植する。
ちなみに8086や8088の場合、MMUをCPU内部に持たないのだが、インテルやAltos ComputerなどいくつかのベンダーはCPUの外にMMUを外付けしており、これをXENIXは利用した形だ。
ただこうした外付けMMUは当然実装が全部異なっており、それぞれのバージョンごとに異なるXENIXが必要だった。これはMC68000も同じで、標準のMMU(MC68451)は遅いということで、少なからぬベンダーが自前で専用MMUを開発・実装しており、こちらも個別対応になった。
結果、売上のわりに手間がかかりすぎるという話が出てきた。おまけにマイクロソフトは1985年から、IBMと共同でOS/2の開発することがこの頃見えてきていた。こうなると、マイクロソフトとしてはXENIX自身のビジネスを外部に出すという決断をしたのも不思議ではない。
一方のSCO側は、自前でDynixというUNIX Version 7ベースの開発をしていたが、そこにマイクロソフトからの申し出を受け、同社のXENIXビジネスに協力することになった。その結果として1983年には、MMUを持たない8086/8088マシン向けのXENIXがSCOの手で開発されることになった。
SCOは翌1984年にはリテール向けのパッケージとOEM向けという2種類の製品ラインを整備、さらにApple Lisa向けのXENIXもリリース。1985年にはIBM PC/XTやAT&T 6300をサポートするXENIX System V(これがMMUを持たない8086/8088向けのXENIXである)がSCO、AT&T、マイクロソフトの3社の共同開発として発表されることになる。
同じ1985年にはIntel 286向けのSCO XENIX 286が発表され、すぐさまIntel 386をサポートするSCO XENIX System/V 386の開発に取りかかる。こちらは1987年に発表されることになった。
これとは別に1986年、SCOはSCO Professionalと呼ばれるパッケージソフトを投入する。最初にリリースされたのは、XENIX版のLotus 1-2-3、それとdBASE II互換のSCO FoxBaseである。同じ1986年、同社はイギリスのLogica Ltd.という会社を買収し、ここをSCOのヨーロッパの拠点としている。

この連載の記事
-
第814回
PC
インテルがチップレット接続の標準化を画策、小さなチップレットを多数つなげて性能向上を目指す インテル CPUロードマップ -
第813回
PC
Granite Rapid-DことXeon 6 SoCを12製品発表、HCCとXCCの2種類が存在する インテル CPUロードマップ -
第812回
PC
2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート -
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート - この連載の一覧へ