その会社にはその会社ならではの働き方がある。みんなの働き方改革・業務改善を追う連載「私たちの働き方カタログ」の第14回は、木造注文住宅を手がけるアキュラホーム。とかく休みの取りにくい住宅業界で、実のある長期休暇制度を実現した同社の人事部 人事課長である池沢篤人氏に話を聞いた。
「家族全員の一生の思い出になる旅行ができた」など喜びの声が続々
欧米に比べ、とかく「休みがない」と言われがちな日本企業だが、休暇制度はどこも充実しているという実態がある。つまり問題は、「休めるのに休まない」こと。そこで必要なのは「休んでいいんだ」という文化と、「休めるようにがんばろう」というチーム力の醸成と言える。
今回紹介するアキュラホームの「長期休暇制度」は、年末年始と夏期休暇とは別に連続9日間の休暇が取得できる制度だ。2016年の3月に導入され、1年後に実施されたアンケートを見るとすでに7割を超える社員が連休を取得。4日以上の連休取得者は例年の約2.6倍に伸び、社歴5年までの若手社員も約3割が9連休をきちんと取得したという。
観光地や宿泊施設、交通機関などが混雑する年末年始・夏休みを外して休めるため、長期休暇を取得した社員の約4割は旅行に出るという。もちろん、家族と過ごした、試験勉強に集中したなどと答える社員も多く、7割以上は連休に満足している。「家族全員の一生の思い出になる旅行ができた」「最後の追い込みで二級建築士の試験に無事合格した」「自分や仕事を見直す休暇がとれた」「里帰り出産に同行して妻をケアしてあげられた」など、長期休暇だからこそ実現できた喜びの声も数多く挙がっている。
約8割の社員は「仕事の効率やモチベーション向上につながった」と回答しているが、会社としての導入効果はチーム力の強化だ。「9日間も休みをとるためには、やはりチーム内での段取りが重要になります。誰かが休むためじゃなくて、みんなが休める体制を作る。おのずと各人の業務の見える化が必要になり、効率も上がります」(池沢氏)とのことで、休暇をとれる体制を部署できちんと考えたところは、取得率も自ずと高いとのことだ。
社員にとっても、会社にとっても、いいことしかない長期休暇制度
アキュラホームの長期休暇制度をシンプルにとらえれば、実は有給休暇の取得促進プロジェクトに過ぎない。しかし、休暇を取りにくかった住宅業界でのインパクトは大きい。「住宅業界では『長期休暇なんてとれるわけない』という常識があるので、弊社の連休の話をすると、同業他社の方からうらやましがられます。他社ももちろん制度はあるのでしょうが、長期休暇を取っていいという文化が根付いていないのだと思います」(広報課 課長 堀越隆幸氏)。
アキュラホームが導入1年で7割の連休取得率を実現できたのは、ホワイトな企業を目指すトップの強い意気込みが大きかった。「住む人の幸せのために家づくりがあります。でも、休みも全然とれない、残業が終わらない、休みはひたすら疲れて寝ているだけみたいな社員は、お客様になにが提案できるんだ?という社長の想いがありました」(堀越氏)とのことで、社員の出産を後押しするしあわせ一時金や育児中の時短勤務、ノー残業デーなどさまざまな制度を数年前から推進してきた。
今回の長期休暇制度に関しても、「仕事が減らないのに、休みが増えるなんて無理」と言っていた部署もあったが、やってみたら意外と大丈夫だった。まさに「悩むなら、まずはやってみよう」だ。特に上司が率先して休暇を取る部署は、チーム体制も強化され、休みの取得率も高くなったという。1000人規模の社員が長期休暇を取るとなると、それなりにインパクトも大きいが、売り上げも利益も昨年度よりアップしており、単位時間あたりの生産性は確実に向上していると言える。「休んでいいんだ」という文化と「休めるようにがんばろう」というチーム力の強化により、社員にとっても、家族にとっても、会社にとってもいいことだらけの長期休暇制度になっている。
結果的に長期休暇制度は、日常業務にも影響を与えているという。「この日は休む」という前提でチームが動くので、仕事がずるずる伸びず、メリハリが付くようになった。「働き方改革って、日常の仕事の生産性をどうするかという話に焦点が当たりがちですが、みんなで休むにはどうしたらよいかをチームで考えれば、おのずと働き方を見直すきっかけになりますよね」と池沢氏は指摘する。
会社概要
アキュラホームは「匠の心」を持ったプロ職人集団が住まいの品質・性能・デザインのクオリティを追及。現場での創意工夫によるコスト削減を積み重ねながら、高品質で適正価格の家づくりを実践しています。そして、建てた後も末永くサポートする「永代家守り活動」を通じて、いつも身近なパートナーでありたいと考えています。
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