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漠然とした期待感と仕事を奪われる脅威感が同居

IDC Japanの調査でわかったAI導入に迷うユーザーの動向

2017年11月16日 07時00分更新

文● 大河原克行

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11月15日、IDC Japanは国内のコグニティブ/AI(人工知能)システム市場の予測を発表。2016年には、ユーザー支出額ベースで158億8400万円に到達。これが、2021年までは年平均成長率は73.6%増という高い成長を維持。2501億900万円に達すると予測した。

IT市場全体の平均成長率と比べて、きわめて高い成長率

 IDC Japan リサーチ第2ユニット グループディレクターの眞鍋 敬氏は、「2016年は、企業におけるAI利用の機運は高まったが、実証実験(PoC)が多く、実際のビジネスへの適用は少数に留まった。メーカーにとって収益につながっているかどうかという点ではまだ疑問。だが、約2年程度のPoCが終わると、実ビジネスでの利用が増え、一気に市場が成長する。IT市場全体での年平均成長率は約1%。それに比べると、きわめて大きな成長率が見込まれている。IT業界の各社がコグニティブ/AIシステム分野に投資することは間違った戦略ではない」と総括。「ベンダーおよびシステムインテグレーターは、コグニティブ/AIシステムのビジネス展開期にあわせて、AIの実ビジネス適用のためのコンサルティング、教師データの構築や作成支援サービスなどが必要になる」(IDC Japan リサーチ第2ユニット グループディレクターの眞鍋敬氏)と指摘した。

IDC Japan リサーチ第2ユニット グループディレクターの眞鍋 敬氏

 現時点では、ユースケースでは専門職の分析および検索をサポートするナレッジワーカー向けデジタルアシスタンスや、製造業での品質管理などの利用法が多く、そのほとんどがPoCだったという。しかし、2017年には、PoCから実ビジネスへの適用が多くなり、市場は急速に成長とすると見ており、2018年以降は、金融分野での詐欺検出や分析、流通分野での人材不足を背景にした顧客サービス向上における活用、製造分野でのIoT関連での利用促進、公共での電力需要予測やインフラ管理、あるいは全業種での自動顧客サービスなどへのAI適用が進むと予測しており、「今後は、詐欺検出をはじめとするインテリジェントプロセスオートメーション領域での利用が拡大すると予測している」(眞鍋氏)とした。

 2021年までのセグメント別の年平均成長率は、サービスが76.0%増、ソフトウェアが83.5%増、ハードウェアが53.5%増となっている。また、セグメント別構成比は、2016年にはサービスが30.0%、ソフトウェアが38.3%、ハードウェアが31.7%とほぼ均等であったが、2021年には、サービスが32.2%、ソフトウェアが50.7%、ハードウェアが17.2%となり、ソフトウェアの構成比が半分以上を占めると予測している。さらに、2021年には、金融、製造、流通における活用で、全体の約65%を占めると予測した。

 「コグニティブ/AIシステムは、その多くが、これまでの業務システム領域において、その裏側で活用され、より高度な意思決定などに使われているのが特徴である。コグニティブ/AIシステムは独立して存在するものではない。そして、その際に大切なのは、正しいデータがコアにあることだ。情報をいかに正確に、大量に持っているかによって、AIの性格が大きく変わることになる」と述べた。

 また、2017年3月に、国内の従業員100人以上のユーザー企業500社を対象に行ったコグニティブ/AIシステムに関するユーザー意識調査によると、AIが自社ビジネスに何らかの影響を及ぼすと感じている企業は57.4%であり、とくに、100人~249人の中小企業が関心を寄せていることがわかったという。一方、IDC Japanでは、企業における人材不足対策への期待や、AIによるビジネス競争力低下への脅威が強いことが背景にあると分析している。

ユーザー企業にはAIの利用方法や効果に対して迷いがある

 利用目的では、顧客サービスやサポート、マーケティング改善、顧客行動の予測といった顧客に関係する業務や、経営改善や経営状況把握および予測などの経営に関わる業務での利用が主流であり、「従来のITシステムとは大きな差異がない」とし、「従来のアプリケーションや業務システムへのAIの組み込みや、プラットフォームとしての利用が有力になる」と分析した。

 また、3大メガバンクでは、コールセンターにIBMのWatsonを導入している例を指摘。「いまは、オペレータが最適な回答はなにかということをAIに聞き、これをオペレータが直接回答するという使い方になっているが、将来的にはここにボットを活用することになるだろう」とした。

 また、AIシステムを全社や複数部門で利用しているユーザー企業は全体の9.6%に留まっており、普及段階には至っていないことも浮き彫りになったという。調査では、「先行」しているユーザー企業が9.6%であるのに対して、PoCなどを進めている「進行」が27.0%、他社の動向などを見ている「観察」が30.6%、そして、効果に疑問を持っている「懐疑」が32.8%にも達している。

コグニティブ/AIシステムの利用状況

 「AIで先行する企業はまだ少なく、限定された部門や業務で利用している状況にある。これを除くと約3割ずつになっている。ユーザー企業が利用方法や効果に迷いがあることがハードルとなっており、ビジネスに活用する領域と課題/効果が不明確であることがか課題である」と指摘した。

AI導入に向けた最大の課題は「課題がわからない」こと

 現在の導入課題としては、スキルやリソースといった人材面での課題、予算やトップの理解なども課題であるとする一方で、「より大きな課題は、『課題がわからない』との回答が30.8%と、多数に達している点であり、ユーザー企業は、コグニティブ/AIシステムを、どの領域に、どのように利用するのか、なにが障壁なのかが不明確である点は、いまの最大の問題点だといえる。これが解決されれば、コグニティブ/AIシステムの導入を促進することになる」と語った。

導入課題が「わからない」ことが課題

 その一方で、RPA(Robotic Process Automation)の利用については、コグニティブ/AIシステム全体よりも、先行および進行していることも明らかになった。「RPAでは、先行と進行をあわせると約半分である。今後は、RPAが定型業務においてワークフローを自動化するだけでなく、非定型業務にも対応することになるだろうが、そのためには、AIの活用が不可欠になる。だが、RPAがどの領域に効果を発揮するのかということがわからないという声があがっている状況もある」とした。また、ボットについては、「コグニティブ/AIシステム全体の動きとほぼ同じである。ただ、あるEC事業者では、定型的なやりとりにボットを活用し、約30%もオペレータの仕事が減少し、それによって商売の間口を広げることができ、売上高を高めることができたという事例もある。正しいコグニティブ/AIシステムの活用事例が生まれている」と述べた。

RPAはコグニティブやAIシステムより利用が先行

 今回の予測や調査をもとにして、IDC Japanでは、「ユーザー企業や消費者において、デジタルトランスフォーメーションが急速に進行しているという市場背景がある一方、将来の労働人口の減少が予測され、働き方改革が進行している。このような市場環境は、コグニティブ/AIシステムの促進要因となる。だが、ユーザー企業におけるAIに対する漠然とした期待感や、仕事を取られてしまうといった脅威感が成長の阻害要因になりうる」と指摘。「IT業界としては、ユーザー企業に対して、コグニティブ/AIシステムを実ビジネスへ適用する際に、目的と効果をコンサルティングできる体制を強化すること、適切な教師データの整備や作成支援などのサポート体制を整備すること、そして、ユーザー企業が既存業務でAIシステムを利用できるようにするためのソフトウェア開発やプラットフォームを提案するサポート体制の強化が必要である」と提言した。

 なお、IDCでは、コグニティブ/AIシステム市場を、自然言語処理と言語解析を使用して質問に応答し、機械学習をベースとしたリコメンデーションとディレクションを提供する技術と定義している。

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