このページの本文へ

いま聴きたいオーディオ! 最新ポータブル&ハイエンド事情を知る 第12回

小型なのに高機能かつ高音質

ハイレゾ機の新定番、「AK70 MKII」は最上を気軽に持ち運べる (4/6)

2017年11月12日 12時00分更新

文● 小林 久 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

音を聴いてみる

 それでは音を聴いてみよう。

 まずAK70とAK70 MKIIの音を改めて比較してみる。そのほかにかつてのフラッグシップ機AK240との聴き比べや、現行ハイエンドのSP1000(カッパーおよびステンレス)との違いなどもじっくり味わってみた。試聴の際には他社同クラスの人気製品のサウンドも確かめ参考にしている。

 筆者は3年ほど前にAK240を購入した。いまでも外出時などに持ち出す。その理由は携帯性の高さとAKM製DACを搭載したそれ以降の機種とのキャラクターの違いを楽しめるためだ。AK240は中低域が充実して元気、輪郭がハッキリとしてメリハリ感のあるサウンドが魅力だと思っている。第3世代ではAKMのDACに切り替えたこともあり、高解像度で緻密な音調にシフトした。第4世代のSP1000は圧倒的な高音質だが、常時持ち運ぶには重厚過ぎる面もある。AK70 MKIIのサイズで上位機に比肩するサウンドが得られるのならとても魅力的だ。

 イヤフォンはJH Audioの「Michelle」、DITA Audioの「Dream」などを組み合わせた。音質についてはAK70からの変化が著しい。

Michelle

Dream

 最初に聴いたのは上白石萌音の『chouchou』から「なんでもないや(movie ver.)」。ピアノやストリングスのシンプルな伴奏の上で歌う女性ボーカルだ。AK70も決して悪くなかったはずなのだが、比べるとピアノの音の深みや芯の強さが格段に違う。ヴァイオリンの高域の抜けもいい。AK70のサウンドは、楽器が増え、曲が徐々に盛り上がっていく後半に差し掛かると、多少中抜け感も感じ、AK70 MKIIのサウンドと比較すると物足りなさがある。

 Michelleの場合、アンバランス駆動とバランス駆動でかなり印象が異なる。アンバランスでは空間は少し狭くなるが、音が近くピタリと決まる印象。低域の広がり感も適度で、均整と取れたサウンドという印象だ。一方、バランス駆動にすると空間のスケール感が出て、声に抑揚が乗ってくる。生々しさや情感が増して、声の表情はもちろん、歌い手の意志も伝わってくるようだ。ニュアンスの差も含めて、バランス/アンバランスの使い分けが面白そうだ。

競合機種となるウォークマンとの比較、右は同価格帯のNW-ZX300。サイズ感はエントリー機のNW-A40に近い。

 同価格帯だが若干安価な他社モデルとも比べてみた。透明感や情報量ではほとんど差がなく、同クラスというのに納得できる。ただしAK70 MKIIと比べるとちょっとそっけないというか、澄ましているというか……。AK70 MKIIは感情に寄った再現ができている印象だった。いい意味で味わいがある。

 同じ曲をAK240で聴くと、かつてのフラッグシップ機らしく空間表現が優れていた。再生音はクリアーかつワイドレンジで、音の輪郭もハッキリしている。ここは「さすが」と思う部分ではある。ただしAK70 MKIIと一緒に渡されて、目をつぶって比較したら、どちらが上のクラスかの判別は難しそうに思えた。

 曲をノリのいいポップス(TrySailの『TAILWIND』から「かかわり」)に代えてみたところ、AK240はしっかりとしてアキュレートなサウンドなのだが(コンプなどのかかり具合も分かりやすい)、AK70 MKIIはもう少しボーカルがほぐれる感じで、ユニットがより軽々と動き、ビートも前に出てきた。

 つまりAK240とAK70 MKIIの間には、確かに差があるのだが、クオリティーやクラスの差というよりも方向感の差があるのだ。AK70 MKIIには滑らかさやピュアさがあるので、こちらのほうが好きという人も多いかもしれない。もちろんDSD再生時にはPCM変換になってしまうため、ネイティブ再生のAK240にはDSD再生時のS/N感の高さなど差別化要素もある。しかしAK70 MKIIのDSD再生も十分に高音質なので「PCM変換だから悪いに決まっている」と毛嫌いするのはもったいないと思う。

 ちなみにSP1000(ステンレス)で聴いてみると、両者の特徴が高次元に融合する感覚を味わえる。分解能や情報量に加えて、豊かな表現力も兼ね備えている。正直格の違いを見せつけられる感じだ。ただし目指す音の方向感は近い。というよりもAK70 MKII のサウンドからはSP1000の面影をかなり色濃く感じ取れる。SP1000(カッパー)と比べた場合でも、音の立体感や沈み込みなどに差を感じるが、その差は思いのほか少ない。むしろこのサイズと価格で、ずいぶんとスケールの大きな表現ができるものだと感心した。

 AK70 MKIIとSP1000の関係性は、変なたとえかもしれないが、デビューしたての才能ある歌手と、同じ人物が10年、20年とキャリアを重ねてテクニックと貫禄を身に着けた関係。ベテランになれば、余裕をもってステージに上がれるし、このぐらいはできて当然と、高度な表現をさりげなくこなす。しかしパーソナリティーは共通で、本質的な部分での魅力は同質だ。

 AK70 MKIIを聴いていてもうひとつ感じたのは、音色やニュアンスの出し方に個性がある点だ。ハイレゾ機というと、情報量や再現性の高さだけを軸に評価されがちだが、AK70 MKIIの場合、楽しさ、熱さ、切実さ、真剣さなど、感情軸の鮮やかな表現が堪能できる。

 例えば、オーケストラ演奏をライブ録音した『ガールズ&パンツァー』オーケストラ・コンサート HERBST MUSIKFEST 2015から「ポーリュシュカ・ポーレ (オーケストラver.)」で、淡々と刻まれる一定のリズムの上に、いろいろな楽器が様々な表情を見せながら、乗っかっていくさまがすごく面白いし、ワクワクしてくる。

 音楽を楽しむ機器であれば、模範的だけれど味気ないものよりは、心に何かが残るもののほうがいい。そんなニュアンスをうまく広げる力をこのクラスの製品でも味わえるのは嬉しい話だ。

 AK70 MKIIはクラシック音楽との相性もよい。イ・ムジチ合奏団の『ヴィヴァルディ:四季』から「夏」なども聞いたが、弦の再現に求められる高域の伸びや解像感、そして第3楽章のような激しいパッセージでの力強さなども存分に楽しめた。

 また特にバランス駆動時には、300Ω、600Ωといった高インピーダンスのヘッドフォンでも余裕をもって駆動できるようになっている。活用の幅も広がった。少々音量の取りにくいヘッドフォンでも安定して駆動できる点はメリットになりそうだ。このクオリティーであれば、家の据え置きシステムとは別に、品質の高いサブ機を持ちたいというニーズにも十分アピールできるのではないか。

 このようにAK70 MKIIのサウンドからは、SP1000で切り拓いたAstell&Kernの新しいサウンドの方向性が垣間見られる。その価値はやはり実際に聴いたうえで確かめてほしいと思う。そしてAK70 MKIIは携帯性にも優れる。音質優先の設計である反面大きく重いSP1000にはない軽快さがあるのだ。

カテゴリートップへ

この連載の記事

秋の「鉄板ヘッドフォン」購入ガイド

ピックアップ