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スペシャルトーク@プログラミング+ 第17回

目指すのは"打倒カッコいいもの"! 発起人・デイリーポータルZの石川大樹さんインタビュー

「タミヤが武器屋」ヘボいロボットが集結する「ヘボコン」の魅力とは

2017年10月25日 14時00分更新

文● 吉川あかり、聞き手:遠藤諭

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 ロボコンといえば、最先端の技術を駆使して作られたロボット同士による、ハイレベルな戦いが行われる大会だ。しかしいま、そのまったく逆の趣旨の大会が盛り上がりを見せている。その名も「ヘボコン」だ。動かない、壊れた、そもそも作れなかった、そんなヘボいロボットが集結する相撲大会。“技術力が低い人限定”の「ヘボさ」を競うロボットコンテストだ。

 日本もようやく2020年から、小学生の公教育にプログラミングが導入される。米国ではオバマ政権時代に、STEM(科学・技術・工学・数学)教育が次の時代の最重要事項だとして、さまざまな取り組みをはじめた。ヘボコンは、そんな時代背景から見ると「反テクノロジー」なキケン思想ではないか? などと横目で見ていたら、海外のメディアでも取り上げられ、世界大会まで開催される盛り上がりを見せている。

 そこで「ヘボい」ロボットの秘密にメスを入れるべく、発起人である石川大樹さんに「ヘボコン」についてお話をうかがいに出かけた。

がんばったけどできなかったものや失敗したものばっかり集めた展示会みたいなものができないかなと思っていた

―― ヘボコンが始まったころのお話からお聞かせいただけると。

石川 ヘボコン自体は2014年の7月に第一回が開催されました。一番最初にさかのぼると、いまはデイリーポータルZの編集をやっているのですが、前職ではSEをやっていて、医療系のシステムを作っていました。いわゆるミッションクリティカルな仕事をしていたんですね。

―― いきなりヘボコンとは対極な(笑)!

石川 ええ(笑)。そこで、仕事と並行しながら大学時代の友だちとWebサイトを作っていて、そこでデイリーポータルZに記事を書いて投稿したら載せますよっていうことがあって、何回か投稿していたんですね。その縁でデイリーポータルZに。

―― いきなり社員になるなんてすごいですね。

石川 それまでにもう一段階あって、外注のライターとして取材に行ったりして、そろそろ仕事をやめたいという相談をしたら、デイリーポータルZに入ることになりました。

―― なるほど。

石川 デイリーポータルZも人が足りないということで、いいタイミングだったので。

発起人であるデイリーポータルZの石川大樹さん

石川 電子工作もデイリーポータルZの記事のためにかじってみたりというような感じで、というのは、デイリーの記事って結構「工作をやってみたけど失敗しました」みたいな記事があるんですが、それが僕すごい好きで。そういう記事を見つつMaker Faireに出展していたんですね。Maker Faireはみんな結構がんばったものを出しているんですけど、がんばったけどできなかったものや失敗したものばっかり集めた展示会みたいなものができないかなと思って。ダメなメーカーフェアみたいな。

―― その時はデイリーポータルZとして開催することを考えていたんですか?

石川 いえ、そのときはデイリーポータルZとしてではなく、個人として考えていたので、個人のブログで書いたんですよ。それからやりたい! みたいなエントリーがあってそれなりに話題になったんですけど、やっぱり最終的に出たいって人はいなくて流れたんですね。ところが、1年後にロボットバトルにしたらいけるんじゃないかなと思ってブログに書いたら、それなりに話題になったんです。ブログを書いた時点では友だち5人くらいで集まって公民館でやる感じにすればいいかなと思ったんですけど、その僕のエントリーが話題になったことで20人くらい集まってしまい、20人となると場所探しからもう一回やらなきゃ行けないから大変だぞと。そのとき、ちょうど弊社の「東京カルチャーカルチャー」というイベントスペース(現在は渋谷だが、当時はお台場にあった)に空きがあって、そこでデイリーポータルZとして大々的にイベントにしたらいいんじゃないかということで実現したのが、第一回のヘボコンです。

―― 第一回からヘボコンとして開催していたんですね。ヘボコンという名前は当時から?

石川 そうですね。これはデイリーポータルZでライターをやっている小堀さんがつけてくれました。正式名称は「技術力の低い人限定ロボコン 通称ヘボコン」ですね。技術力の低い人限定ロボコンというのはもともと僕が言っていたので、じゃあそれヘボコンですねって言ってくれたのが彼です。

テープレコーダーに車輪をつけただけのロボット。なのにちょっとカッコいい…?

―― 第一回から20人も集まったんですか。

石川 20人になったのは僕が個人開催を諦めたときの人数で、最終的には50〜60人が集まりました。一回目がわりと話題になって、その時点でテレビが1社と新聞が3社くらい来てくれて。カルチャーカルチャーって変なイベントいっぱいやっているので、メディアの方がスケジュールをチェックしていたんですよ。それでひっかかったみたいですね。

―― ロボットを持った人が50〜60人で、さらに見に来た人もいたんですよね。

石川 そうですね。トーナメントなので人数が増えても困るので、参加者も30人ということにして。見に来た人はカルチャーカルチャーがいっぱいになるくらいだったので90人くらい。全体で120人で、いっぱいいっぱいでした。イベントの形式としてはいまと全然変わっていなくて、トーナメント戦で最後までやって、優勝と準優勝が決まって。でも、優勝はあんまりいい賞じゃなくて、いい賞は「技術力が低かった人賞」っていう投票で決める賞があるんですけど、一番ヘボかったロボットに与えられる賞ですね。

―― それがヘボコンの醍醐味ですね。

石川さん(右)は、もともと工学部出身ではない、文系プログラマーだった

海外でも派生版が広がるボコン

石川 転換点になったのは、11月の末に文化庁のメディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選んでいただきました。多分そこから海外メディアに僕らがアップしたYouTubeの映像が広まって。いろんな国で掲載されて、そこでみんなYouTubeの動画を貼るから、YouTubeって後から吹き出しが付けられるんですけど、それでもしイベントやりたい人がいれば連絡くださいって書いたらいっぱいメールが来だしたって感じですね。

―― この頃から海外でも開催し始めたんですね。

石川 そうですね。タイミングで言うと2014年の年明けぐらいに始まりました。第一回はアメリカで開催されて、そのときはルールとかのドキュメントがなかったんです。その後、3月くらいに僕が書いたドキュメントの翻訳が上がってきて、正式に配布できることになりました。そこから盛んに動きだしたっていう感じですね。このあとのトピックとしては、時系列がわからないんですが、例えばローマのオーガナイザーが派生版を考えたからってレース形式の大会をやったり。最初はレースだったんですけど、それからもう一個考えたって言って、ロボットに塗料を搭載して、かけながら戦うっていう。それが結構派手で面白くて。東京デザインウィークで僕らも逆輸入でやったりとか。

2015に開催された「ギガヘボコン」。1m以上の巨大ロボ限定で、人が乗ってもよいというルール

―― どうやってやるんですか?

石川 シンプルなやつだと、紙コップに絵の具を入れてひっくり返したりとか、水鉄砲つけたりとか。そういう海外から派生するっていうのがあったり。ルールブックも勝手に海外の有志で翻訳してくれて。日本語と英語はこちらで作って、スペイン語と中国語が増えました。

―― 中国でも開催されているんですね。

石川 香港と台湾でやっています。あとは、今年の5月に初めて招待していただいて、アメリカのMaker Faire Bay Areaでやっていたイベントに行きました。Maker Faire Bay Area自体そうなんですが、やっぱり子どもが多いですね。

YouTubeには海外で開催されているヘボコンの動画が多数アップされている。この動画はニュージャージーで開催されたときのもの

―― 本場アメリカのMaker Faireって、バリバリ技術っていう感じではないんですか?

石川 出展者自体はすごい技術のものが多いんですが、お客さんは子どもが多いですね。ヘボコン自体の参加者も3分の2は子どもでした。そのときはその場で作って戦わせる形式でしたね。向こうは使っている技術の種類的にすごいわけではないんですけど、工作の技術がすごくて。始めるときにちゃんとゴーグルつけたり、グルーガンとか置いておいても日本では使われないんですが、向こうでは使ってくれたり。他にも、おもちゃを置いておいても、日本ではただただくっつけていくだけなんですが、向こうの子はいろいろバラしていったり。

―― すごいですね。そのバラすのは「ティンカリング」といって、いま流行ってますからね。

石川 そういうのを経て、去年の8月にヘボコン・ワールドチャンピオンシップっていう世界大会をやりました。第一回と同じお台場のカルチャーカルチャーで。とはいえ結局日本人が多いんですが、なんだかんだで海外の人が絡むチームが32チーム中9チームいましたね。日本人と外国人をマッチングして一緒にチームになってもらったり。大会自体は日本人しか来ないけど、制作段階でSkypeなどで相談したりっていう。

―― スポンサーがついたチームとか出てくるんじゃないですか。

石川 いまはスポンサーはいないんですが、自分の会社のマスコットキャラクターをロボット化してきたチームがいたりとかしましたね。

―― Googleが付いていたりはしないんですか。月に行って何かしてくると何千ドルもらえるみたいな?

石川 流石に、今の所そんなに大きなお金が動いたりとかはしていないですね(笑)。すごく低予算のイベントで、材料費もかからないし。ワールドチャンピオンシップでは初めて同時通訳を使いました。

―― これまで何回開催されたんですか?

石川 正確には覚えていないんですが、僕がやったものでいうと10回くらいは。

子供から大人まで参加している

―― 意外にまだ少ないんですね。

石川 海外とかで勝手にやっているのとかを含めると140~150回とか。

―― なんと、海外のほうが本家より多い! もはや柔道みたいな国際競技。それは勝手にということですか?

石川 ヘボコンをやりたいって連絡をもらえればそのドキュメントを渡したりしますね。使ってね、ってTシャツをプレゼントしたり。学園祭でやってもらったりとかもあります。SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)でやっていたりとか、あとは沖縄高専(沖縄工業高等専門学校)とか。

―― ああ、沖縄高専は、パソコン甲子園でも毎年いい感じのものを出してきます。

ヘボコンは戦いというよりトークショー

―― ヘボコンのルールをお聞きしたいです。

石川 競技のルールとしては、土俵があって、1メートル×50センチの板がありまして、その上で2体が適当に出発します。

―― 適当に(笑)。

石川 ロボット相撲なので倒れたり外に出たりしたら負けです。もともとロボットがちゃんと動かない場合を想定したルール設計をしていて、押し合いまで至らないケースが多いからですね。あらぬ方向に行っちゃったりとかしたら、試合が成立していないものとして再試合です。

―― ロボットはリモコンで動かすんですか?

石川 いや、なんでもありですね。ロボットであることという制限はないんですね。

2014年に行われた初回大会のおまけ企画の様子。このあとゲストの「技術力の高いロボット」に全機蹂躙される

―― 動物でもいいんですか?

石川 一回出てきたんですけど、かわいそうだったので禁止にしました。動物のほかにも、電源積まずに坂から下りて突進するものとか。あとは、割と自由なルールなので、重いもの勝ちになっちゃうと思って、レギュレーションにサイズと重さがあります。たとえば漬物石を持ってきてロボットですって言われたら勝てるロボットがないなって。1回目は重さの制限がなくて、2回目から重さの制限を設けました。

―― 意外にルールって、オリンピックとかも最初はそんな感じだったかもしれませんね。

石川 そうですね。ほかにも、制限時間が1分なんですけど、それを過ぎるとより前に進んだ、攻めた方が勝ちというルールがあります。このくらいが基本的なルールで、あとは「ハイテクノロジーペナルティ」というものがあって、人工知能とか遠隔操作とか技術力が高いものにはペナルティがつくんです。そんなに技術力の高いものは出てこないので、適用したことはないんですが。人工知能って言ってるんですけど、そんな大げさなものではなくても、たとえばセンサーを使って自律移動させるとなるとそれはアウトですよね。

―― なるほど。そういうレギュレーションがあって、でも投票で決めるってことは、どっちかというとカラオケでみんなが褒めるような、そういう雰囲気に近い感覚ですね。一応順位はあるわけですよね。

石川 ヘボコンって、トーナメントの形式をとってはいるんですけど、あんまり大会っていうよりはトークショーに近いなと思っていて。トーナメントでありつつも一番盛り上がるのって一回戦なんですよね。というのも次々新しいものが出てきて紹介していって。

―― 本人が紹介するんですね。

石川 僕がいつも聞いているのは、ロボットの特徴ですね。テープレコーダーで録音できたり、そういうネタを披露してもらうっていうか。それから、もう一つ聞いているのは「ヘボポイント」っていうのがあって、そのロボットのどこがヘボいんですか? っていうことを聞いているんですね。例えばプロペラをつけたけど手違いで逆に動くようになってしまって、逆向きで出場することにしました、とか。

このロボットの動力は、動く犬のおもちゃ。

―― わざとだと面白くないですよね。ええい、やっちゃえくらいのヤケクソな感じが出るといいですね。どういう人が参加されているんですか?

石川 けっこういろいろですね。

―― 僕が見たときは、子どももいれば、芸術家っぽい女性がいたりしました。

石川 老若男女ですね。ヘボコンとは言いつつも、結構本職のエンジニアがきたりもしますね。

―― え! それこそ人工知能とか使ったりするんじゃないんですか。

石川 そこは封印してもらって。この前だと、車にゴングが載っていて、ハンマーがついているんですね。で、ハンマーで叩くとちょっと車が動くんです。なのでそのちょっと動くのを繰り返して相手を攻めるという。

―― すごく良さそうですね。

石川 なので、出来上がりとしてはスマートなんだけど、動作原理が面白いから。

―― レギュレーションからすると、真剣すぎるんじゃないですか?

石川 そうですね。結構その場で聞いていると、澄んだ音がするんですよね。カーン……って(笑)。それが妙に風流で面白かったりして。

―― なるほど(笑)。やっぱりキットを使っているものが多いんですか? タミヤの「楽しい工作シリーズ タンク工作基本セット」とか定番があるじゃないですか?

石川 そうですね。やっぱりタミヤのキットが一番多いですね。使いやすいっていうのもあるし、ヘボコンでは武器になるものを売っていたりするので、タミヤは「武器屋」って呼ばれていたりしていますね。

―― タミヤ、武器屋ですか(笑)。

石川 タミヤさんには審査員に来ていただいたり交流もあるんですけどね(笑)。キットとは逆に、ヨーロッパではリサイクルっていう意識があるらしくて、廃材でロボットを作ろうっていう雰囲気があったりしますね。

「うまくできていないもの」の魅力

石川 あと、最近ヘボコンで感じているのが、ロボットを動かすために机をだんだん叩いたり、結構身体的になってきていて、最後着ぐるみとかになっちゃわないかなって心配しています(笑)。

―― そうなるとロボットが関係なくなってしまいますね。

石川 最終的に人間同士のガチ相撲になっちゃったりするかもしれないですね(笑)。

―― 石川さんはこのヘボコンの展開そのものをどう思われているんですか? なんか反テクノロジー的なところがあると思うけど、あんまり言語化してないんですかね。

石川 たしかに、反テクノロジーとか言われるんですが、僕はそういう風には思っていなくて、普通にテクノロジー好きですし。ものづくりで冗談を表現するっていうのは、今まであんまりなかったんじゃないかなって。冗談で作ってはいてもあまり積極的に見せなかったり。例えばハッカソンとかに出て2日間かけて冗談みたいなものを作ったりすることはあったんですけど、もっと気軽に冗談ができる場所としてこういうものはいいかなって思っています。

ヘボコンで活躍した、ヘボいロボットたち。

―― 失敗作を発表する場所というのはなかなかなかったかもしれません。

石川 あとはやっぱり、僕自身、「うまくできていないもの」の魅力っていうのを感じています。本当のズブの素人が作ってくるっていうのが面白いところだなと思っていて、出てくる作品を見ていると、作った人の人柄が見える気がします。動かないのに直さなかったり、人間の怠惰なところというのがそのまま残っていたりして、人間の弱いところが見える作品を見るのが面白いですね。

―― 言ってしまえば、テクノロジーと芸術とゴミの中間のような。

石川 そうですね(笑)。そういう動かないものをみんなで愛でるのがいいなと思いますね。

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