U.S.Roboticsを買収して勢いに乗るはずが
ITバブル崩壊でHPに買収される
さて、前回も紹介したとおり、1997年にはU.S.Roboticsを83億ドル相当(73億ドルという数字もある)で買収してラインナップを拡充しようとした3COMだが、1999年をピークに売上が急速に落ちてゆく。一覧で示すとこんな具合だ。
| 1990~1997年の売上と営業利益 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年号 | 売上 | 営業利益 | ||||
| 1998年 | 51億5602万ドル | 3021万ドル | ||||
| 1999年 | 52億0225万ドル (47億3832万ドル) |
4億 387万ドル (4億 387万ドル) |
||||
| 2000年 | 43億3394万ドル (37億5618万ドル) |
6億7430万ドル (6億7430万ドル) |
||||
| 2001年 | 28億2088万ドル (24億2117万ドル) |
-9億6538万ドル (-9億6538万ドル) |
||||
| 2002年 | 14億7793万ドル (12億5897万ドル) |
-5億9595万ドル (-5億9595万ドル) |
||||
| 2003年 | 9億3287万ドル | -2億8375万ドル | ||||
| 2004年 | 6億9888万ドル | -3億4926万ドル | ||||
なぜか2002年までの報告書と2003年以降で売上の数字が食い違っている(括弧内が2003年以降の数字)ので、なにかしら計算方法が変わったのではないかと思うが、営業利益そのものは一致しているので、おそらく合算項目に変化があったのだと思われる。
さて、2000年になにがあったか? というと、同社はエンタープライズ向けのハイエンドルーターなどの製品のビジネスから撤退し、コンシューマー向けに専念する方針を固めた。
理由はハイエンド向け製品が競争激化と価格低下により収益減少が著しく、それもあってより利益率の高い市場にフォーカスしようという動きであった。
実はこの1999年の時点で、一番成長が著しかったのは、U.S.Robotics傘下にあったPalm Computersだったのだが、これは3COMのビジネスにそぐわないと判断し、同部門は2000年に3COMから独立する。
ちなみにこの際3COMは、Palmの普通株式の5%を、8億4700万ドルで売却している。ある意味これはラッキーな出来事であったのだが、このあとのインターネットバブル崩壊のお陰で、残りの株はここまでの価格にはならなかった。
そしてバブル崩壊は3COM自身のビジネスを直撃する。これはCISCOなど競合メーカーも同じだったのだが、CISCOは2003年には業績が反転しているのに対し、3COMはどんどん減少していった。
まず同社のCash Cow(売上げの稼ぎ頭)であったイーサネットカードの売上がどんどん減っていった。理由は、この頃になるとPCにはオンボードでイーサネットコントローラー(それも3COM以外の)が標準搭載されてしまい、もはや3COMからカードを買わなくてもイーサネットを使えるようになったことが非常に大きい。
また大金をはたいて購入したU.S.Roboticsも、アナログモデムの旬の時期を過ぎたことで売上が急速に落ちており、この時期3COMには「売れるものがない」状況に陥り始めていた。
2001年にCEOはDECからやってきたBruce Claflin氏に代わるが、彼はモバイル市場向け製品に注力したが、今から思えばこれは時期尚早であり、案の定売上の改善にはつながらなかった。結局彼は何度かレイオフをしつつ、いくつかの部門の切り売りを始めることになる。
この時期重要なのは2003年に立ち上がったH3Cというベンチャー企業である。これは3COMとファーウェイの共同出資になるもので、ここで再びハイエンドのエンタープライズ向け製品を生み出そう、という目論見であった。
ただ最終的にこれはうまく行かず、2006年に3COMが8億8200万ドルでH3Cを買収する。この頃には3COM本体がかなり立ち行かなくなりつつあった。2007年にはファーウェイがスポンサードする形でBain Capitalというファンドが3COMを22億ドルで買収する提案をして、3COMの経営陣は同意するものの、これは米国政府によって差し止められた。
最終的に2009年、同社はエンタープライズ向けネットワーク製品の拡充を狙うHPにより27億ドルで買収されることになり、ここで3COMの名前は消えることになった。
サンフランシスコ国際空港から101フリーウェイにのって8マイルほど北上すると、フリーウェイ東側にキャンドルスティック・パークというスタジアムがあった。
「あった」と過去形なのは、老朽化のために2014年に取り壊しが始まったためで、2017年中にはショッピングモールの開業が予定されている。1999年まではメジャーリーグのジャイアンツが、2013年まではアメフトのフォーティナイナーズがそれぞれ本拠地としていたスタジアムなのでご存知の方も多いかと思う。
そのキャンドルスティック・パークだが、1995年から2002年までは3COMがネーミング・ライツを獲得して“3COM Park”という名前になっていた。ちょうど筆者がアメリカで生活していたときは、フリーウェイの出口案内の看板に“3COM PARK”とでかでかと書かれていたことを思い出す。
もう3COMもキャンドルスティック・パークも存在しないことに思いを馳せると、平家物語ではないが「諸行無常」という言葉が浮かんでくる。

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