業績が極めて順調なゆえに
3Comに買収される
このあたりで会社の動向に目を向けると、U.S.Roboticsは1989年に英国のMiracom Technology, Ltdを買収し、これをU.S.Robortics Ltd. UKとして再編し、ヨーロッパ向けの製造販売拠点としている。
さらに1991年にはU.S. Robotics, s.a.をヨーロッパの新しい拠点として設立、1993年にはIBM-PC互換のPC/ワークステーションの設計と製造を手がける,P.N.B., s.a.を買収している。
1995年には、日本でも有名だったカード型モデムメーカーのMegahertzのほか、ISDN SystemやPalm Computingをやはり買収により傘下におさめている。この原資となったのは1991年に行なった株式上場で、2830万ドルを獲得している。
モデム専業メーカーでここまで株式が評価されるのもなかなかであるが、そのベースとなったのは好調な業績である。古い有価証券報告書が見つからなかったので1997年のものベースになるが、以下のように極めて順調に売上を伸ばしているのがわかる。
| U.S. Roboticsの売上と営業利益 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年号 | 売上 | 営業利益 | ||||
| 1992年 | 1億2968万ドル | 1186万ドル | ||||
| 1993年 | 2億4265万ドル | 2412万ドル | ||||
| 1994年 | 4億9908万ドル | 3612万ドル | ||||
| 1995年 | 8億8935万ドル | 6595万ドル | ||||
| 1996年 | 19億7751万ドル | 1億7002万ドル | ||||
実際、1994年頃の数字で言うと、モデム市場全体では8.3%のシェアで、業界3位というポジションでしかないのだが、V.34などの高速モデムに限って言えば43%ものシェアを取って、ぶっちぎりでNo.1であった。
売上もさることながら営業利益をきちんと出しているのは、利益率の高いCourierシリーズが好調だったことが大きい。また企業ユーザー向けの製品として、Courier以外にLANのソリューションや、Total Controlと呼ばれるアナログ/デジタルWANハブなども提供しており、これらも利益率を高めることに貢献していた。
このように意気揚々としていたU.S.Roboticsだが、1997年6月に3Comに株式交換の形で買収されてしまう。これはもっぱら3Com側の事情によるものだ。
3Comは当時Ciscoに続く業界No.2のネットワーク機器ベンダーのポジションにいたが、アナログモデムに関しては製品ラインが欠落しており、これをU.S.Roboticsのポートフォリオで埋めよう、と考えたわけだ。
買収総額はおよそ85億ドル相当になり、この買収で3Comは売上げ55億ドル、従業員数13000人の巨大企業になった。
ただこの買収は結果から言えばあまり効果がなかった。というのはアナログモデムのビジネスはこのあたりがピークで、この後だんだん縮小していったからだ。
2000年に行なわれた3Comのリストラ策の一環として、3Comのアナログモデム部門は、台湾のAccton Technology CorporationとシンガポールのNatSteel Electronics Ltd.の2社とジョイントベンチャーを組む形で、再びU.S.Roboticsの名前で3Comから分離経営することになる。
この新U.S.RoboticsはV.92モデムやDSLモデムの開発などを始めるが、2001年にNatSteelを買収したSolectron Inc.がこの新U.S.Roboticsの株式を2002年に買収するものの、2004年に経営陣にこの株式を売却する。
一種のMBO(Managent Buy Out:経営陣買収)ということなのだろうが、非上場企業となった新U.S.Roboticsは2005年にファンドによって再び買収され、さらに2013年にはUNICOM Globalに売却される。
現在もこの新U.S.Roboticsは、UNICOM Globalの傘下でさまざまなモデムの開発と販売を行なっている。

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