元AWS小島、アスキー大谷、サイボウズ伊佐がコミュニティの価値をアピール
Cybozu Daysで聞いた 「強い情シスを作るためのコミュニティ活用術」
2017年01月30日 07時00分更新
Cybozu Days 2016で開催された「強い情シスを作るための、コミュニティ活用術」というセッション。そこに顔を揃えたのは、JAWS-UGやkintone Caféではなじみの3人だった。企業のIT担当者に向けて彼らが強く訴えたのは、コミュニティの力を企業として活用すべきということ。なぜいま、コミュニティ活動に注目すべきなのか。なぜ企業活動に、コミュニティの力を取り入れるべきなのか。それぞれの視点から熱く語った。
出足からゲストに気圧され気味のホスト伊佐さん
会場に集まった聴衆に向けて、まずは参加者の紹介からスタートした。トークをリードするのはkintoneのユーザーグループ「kintone Café」と連携を図るサイボウズの伊佐 政隆さん。ゲストとして席を並べたのはIT系のユーザーコミュニティを語る上で無視できない存在に成長したJAWS-UGの立役者、元AWSの小島 英揮さん、そして近年コミュニティ取材に燃えているアスキーの大谷 イビサだ。
伊佐:サイボウズで、kintoneというプロダクトの責任者をやっている伊佐政隆です。kintone Caféという、ユーザーさん自身が集まって勉強会をするというコミュニティが全国に29支部にあってですね、今年だけで50回以上、毎週全国どこかで勉強会が開催されるような状況になってきました。それともう一つ、私たちが主催する自社のユーザー会も開催しています。私たちが主催するんですけども、基本的にはお客様同士でアイデアを交換し合う場を作りましょうね、ということで開催しています。
小島:小島と申します。僕はこの8月まで、アマゾンウェブサービス(以下、AWS)という会社でマーケティングをやってました。いわゆるプロダクトマーケティングからイベントマーケティング、最近流行りのデジタルマーケティングとか一通りですね。今日はその中でもコミュニティという軸で話ができればな、というふうに思ってます。
AmazonがやっているコミュニティはJapan AWS Unser Groupの頭文字をとってJAWS-UGと呼んでいます。ジョーズっていうと多くの方がサメを連想するので、アイコンもサメのイメージでやってます。kintoneより早くからやっていまして、支部だけで50か所くらいあり、こちらもほとんど毎週どこかで勉強会が行なわれているという状況です。kintone CaféもJAWS-UGにインスパイアされた部分がかなりあるのではないかと、だからきっとここに呼ばれているんだろうなと思っています。
大谷:KADOKAWAのアスキーの大谷と申します。単純に言ってしまうと、ITの記者をやっております。「NETWORK Magazine」という紙の雑誌からASCII.jpというWeb媒体に移ってIT関連の記事を書いてます。
実は私もJAWS-UGに巻き込まれたクチ、つまり小島さんにうまく踊らされたクチでして。3年前くらいにJAWS DAYS 2014っていう大きいイベントでメディアスポンサーをやってほしいという話がメンバーからあり、ただスポンサーをするだけじゃなくて、何が面白いのかちゃんと説明してみようという感じで、記事を書くために取材をしたんです。そうしたら、参加しているエンジニアの熱気がすごくて圧倒されすぎて、魅力をすべて伝えきるような記事を書けなかったという……。「なんなんだこれは!」というすごいショックを感じたのがJAWSとの出会いでした。AWSが主導しているわけではなくて、ユーザーたちが集まって自分達で各地のイベントをつくっているんですよ。けっこうびっくりしましたね。
「ペライチの企画書だけで直談判した」JAWS-UG on ASCII誕生秘話
自己紹介の後、最初の話題はJAWSのメディア展開について。つまるところ、このJAWS-UG on ASCIIがスタートした経緯についての話だ。エンジニアの熱気に当てられた大谷が取った行動と、それに応えた小島さんのやりとりが明かされる。しかし大谷を突き動かしたのは熱気だけではなく、メディアの生き残りをかけた危機感が背景にあった。
大谷:JAWS DAYSの後、JAWS-UGに参加するエンジニアの熱気のすごさを知って、2015年のJAWS DAYSでは36支部の方にかたっぱしからインタビューしたんですよ。3分くらいずつですけど、どうやって集客しているのか、どんな内容の勉強会をしているのかみたいな話をして。
伊佐:これがそのときの写真ですね。
大谷:そうです。なるべくみんな違うポーズで写真を撮りました。そして地方支部の熱気を感じたとともに、悩みがいっぱいあることもわかった。これはなんとかしなきゃいけないと思って、メディアとしてけっこう発奮しましたね。
当然、どんどん記事を書きたいなと思ったんですが、実際メディアとしてやろうとすると、お金がない、時間がない、人手がないという悩みがこちらにもありまして。ぶっちゃけ言ってしまうと、メディアって広告で生きているので、広告が取れないと記事作成のリソースを取れないんです。しかもコミュニティはみんなユーザーが自主的にやっているので、お金に頼っているわけではないわけじゃないですか。
これどうしようかっていうことでちょっとJAWS-UGの人たちに相談したら、ハンズラボの長谷川さんって人から「JAWS-UGのWebサイトをお前のとこが作ったらええやん」と言われまして。じゃあAWSからちょっと原資をいただこうというと、ペライチの企画書を小島さんのところに持っていって直談判しました。
小島:それを私が英訳して、本国に送って交渉したんですよ。
大谷:そういった経緯があって、2016年5月に決まってほぼ1ヵ月の突貫作業で、アスキーにJAWS-UG専門のサイトを作りました。
伊佐:これはけっこう、業界の中では衝撃的でしたね。
大谷:コミュニティの勉強会や、イベントの記事しかないサイト。
伊佐:ニッチすぎるでしょ! こんなサイトを見に来る人いんの? みたいな。
大谷:鹿児島とか大分とか青森とか秋田とか、そういったところでやっている十人規模の勉強会も取材してきて記事を作りました。でも、こうやって地方も情報発信していかないと、東京とかほかの地方の人にとってはそのイベントはないに等しくなってしまう。ちゃんと報道する、ちゃんとこんなことをやってるんだよっていうのを発信することがすごく重要だな、と思って今このサイトを一生懸命やっているところです。
ユーザーコミュニティはメディアにとっても死活問題
小島:とはいえ、イビサさんが「わ!すごい!」と思ったからってAWSが全額負担しているわけでもないので、いわゆるコマーシャルサイトとは違うんですよね。会場のみなさんはいまこの話を聞いていて「これは読まれてるのか?」って疑問に感じているんじゃないですかね。
伊佐:僕もそれを聞きたかった。
大谷:かなり読まれています。逆に読まれてなければ、ここまでコミットしないし、続けられません。これまでのIT系サイトって、どちらかというと情シスとか上流の読者が多かったんですけど、このサイトを始めてから露骨にエンジニアさんが増えましたね。エンジニアの方に向けたASCIIのプレゼンスが上がったという実感もあります。
小島:ベンダーから見ると、メディアに発信してもらえる情報が変わりました。ベンダーとメディア展開の関係って、プレスリリースを配ったり、説明会をしたりして、それを取材してもらって記事として掲載してもらうのが当たり前でした。この方法だと、製品情報以上のことはなかなか発信しにくいんですよね。でもコミュニティの人たちは製品情報だけじゃなくて、実際に使ってみてどうだったということまで含めて発信しちゃう。しかも、AWSの新機能が米国で発表されると、さっそく使ってみたというブログがその日の夕方くらいにはばーっと出てきて、メディアの記事なんか追いつかない。
大谷:そう、それがすごい死活問題。本当に脅威なんですよ。米国で発表された内容について、日本では翌日とか1週間後とかに発表会やりますって言われても、それを取材するまでにはすでにユーザーがもう使っていて、TIPSやトラブルシューティングの方法までブログに書かれちゃってるわけです。われわれマスコミの媒体は、もうスピードだけじゃなく、質ですらユーザーコミュニティに勝てないんです。これは勉強会に入っていって、自らもちゃんと学んでいかないと追いつけないと思ったんです。
伊佐:危機感から始まってるんですね。メディアの生き残りがかかっているほどの。
大谷:そうですね。逆に言うと、これをやればわれわれは媒体として非常に差別化できると思うんですよね。勉強会の情報なんて、ほかのところはとりあげてないんで。うちにしかないんですよ、この情報って。だから読者にはすごく価値を感じてもらえる。