台湾で独自の進化を遂げた「電鍋」
日本初の電気炊飯器は、1955年に東芝が「ER-4」として製品化したものです。鍋の温度を一定に保つために、外鍋で沸かしたお湯で、内鍋を湯せんするという構造。外鍋の水が蒸発してなくなると温度が上がり、バイメタル式のサーモスタットが働いてスイッチが切れるという仕組みでした。
この炊飯器を発明したのは東京大田区の町工場、株式会社光伸社(現在の株式会社サンコーシヤ)の三並義忠社長。かまどに張り付いていなくても、スイッチを入れたら勝手にごはんが炊き上がるというので、ER-4は一躍大ヒットに。
当時の炊飯器とほぼ同じ構造の炊飯器が、現在も台湾の大同公司が生産・販売し、台湾では「電鍋」と呼ばれて愛用されています。大同公司は、かつて日本の東芝と協力関係があり、東芝が同タイプの電気鍋の生産を止めた後も、台湾国内向けに生産し続けていたわけです。
二重構造の鍋は、煮る炊く蒸すが1台でこなせるので、台湾の食生活に合っていたのでしょう。そしていまでも着々と、台湾国内のニーズを反映して独自の進化し続けているわけです。近頃は日本でも電鍋が人気で、去年からヤフーショッピングで買えるようになりました。オレンジ、ピンク、グリーンと色使いもおしゃれです。
大同の電鍋で、なにより私がうらやましいのは「TAC-03DW」。サイズはSR-03GPに近く、見た目も可愛らしい。内鍋は上下二段重ねで、なんと下の鍋でお米を炊きながら、上のプレートでおかずが調理できるというもの。内鍋を保温バッグに入れれば、そのままランチボックスに。電鍋ごと持って出れば、炊きたてのご飯と温かいおかずが、どこでも調理できてしまう。素晴らしい!
その一方で、我が国では、長く続いてきたオリジナル家電の系譜が、いま一つの消えようとしているわけです。これから我々は一膳炊飯を、なんだか楽しくなってきたデスクトップクッキングを、そして自らの生活をどのように考えるべきか。やはり最小限の社会的単位である家族の構成を目指すべきなのか否か。大同のお一人様向け電鍋の日本導入を期待すべきか。どうやらいまが分かれ道のようです。あなたならどうしますか?
追伸: 私はもう一台買いました。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ