現場に聞いたAWS活用事例 第7回
“フツーの会社”の情シスが進めてきたAWS導入の葛藤と意識改革とは?
AWSの導入で内製化を加速した千趣会の情報システム部
2017年01月23日 07時00分更新
千趣会が自社でAWSの研鑽に取り組む意義とは?
大谷:池本さんも、杉森さんも、AWSでトレーニング受けてるんですよね。
池本:僕は運用系で、杉森はアーキテクト系です。僕はまだ取得していないのですが、杉森はSolution Architectまで取得しました。
大谷:おめでとうございます。実際、どうでしたか?
杉森:それなりにやればとれるなという感じですかね。あと、なにより実際に社内で使わせてもらっていたので、それは大きかったです。座学だけだと、けっこう大変だと思います。
大谷:自社でエンジニアを育てる意義はどう考えてますか?
中島:これはアプリケーションにも、インフラにも言えるんですけど、ITって正直なにやるにも時間がかかるんです。事業部門から「こういうことをやりたい」という声が上がっても、それを要件にまとめる人がいて、情シスの窓口がいて、開発会社のPMがいて、実際に開発する人がいます。必ず多段階でないと、プロジェクトが進まない。
うちの規模なら、本来はユーザー側にも、技術側にも、そんなに人いらないと思うんですよ。ベンダーにお願いしなくても、情シスが技術を持っていて、自分たちで開発ができれば一番早い。スピードを求められるところに関しては、アプリケーションも、インフラも、なるべくベンダーに依存しないという方針です。そのためにはまず情シスでの工程を短縮する必要があるんです。
大谷:コストの最適化と迅速性ですね。
中島:あとは、開発などをアウトソーシングする場合も、ベンダーさんの作業を自分たちでやってみないとわからないという点もあります。本当は1つのチームなのに、社員は早く帰って、ベンダーさんは夜遅くまで残ってやっているなんておかしい。「これはしんどいなー」というのを情シスの自分たちも理解していないといけないし、ベンダー側もシステムの最適化のために歩み寄ってもらわないといけない。これを実現するには、やはり社員が技術を習得すること、しんどさを知ることが重要かなと。
池本:アウトソーシングしたことで、若手が技術に触れる機会が減ってしまったという経験もあるんですよ。実際、IBMさんに言えば、サーバーをすぐに作ってくれます。でも、今の自分たちは手を動かさないから、それがどれくらい大変か、体感できないんです。若手が技術に触れなくなり、ベテランも現場から離れて、マネージャになると、技術的なノウハウが本当に残らなくなります。
中島:わざとライン生産からセル生産にしていますね。要は多能工化して、いろんなことをできるようにしようとしています。
大谷:そういう意味では、Webブラウザからいろいろなものを操作できるAWSは多能工作りに最適ですよね。
杉森:確かに、今まではユーザーから来たオーダーを、ベンダーに伝えるという役割だったけど、正直これって単なる伝書鳩ですよね。自分は果たして会社に貢献しているのか、悩んでいた時期もあったんですけど、中島さんが内製化の動きを進めてくれたおかげで、実際にシステムを作っていることが実感できるようになった。電話でたたき起こされることもあるんですけど、今まで誰かがカバーしてくれたことを実感できた。伝えるということも、きちんと翻訳して、伝えることができるようになったと思います。
大谷:面白いですね。アウトソーシングの権化みたいなクラウドを使うことで、かえって自分たちがシステムを構築したり、動かしている実感を再び得たわけですね。
使えるツールがあるので、なるべく2人で回していきたい
大谷:セッションでは常駐のエンジニアの方もけっこういるという感じでしたが、現状の責任分岐点はどんな感じなんでしょうか?
池本:AWSの場合はあまり決まってないですね。開発のエンジニアは業務システムを作っているし、ホストの運用をやるメンバーもいますが、AWSに関しては私と杉森の2人。システム作るぞという話だったら、要件を聞いて、サーバー立てるし、運用するなら監視入れます。なにかあったら、電話かかってきますし。
大谷:2人だけだと厳しくないですか? もう少し増やそうという構想はないんですか?
池本:2人しかいないというのもあるし、2人でいいという考え方もありますね。
杉森:もともと少ない人数で、短期間で回したいという意図なので、人が増えるとあまり意味がない。納期に間に合わないとか、運用が回らないというのであればともかく、使えるツールがあるんだから、なるべく技術で効率化したいです。
池本:逆にお聞ききしたいんですけど、ほかの会社さんって、どれくらいで回しているんですか?
大谷:JAWS-UGの情シス支部などで話を聞いた限り、わりと規模の大きな会社でもAWS担当の人は本当に少ないです。その人いなくなったら、AWSどうするのという感じで回しています。これは悩みらしいです。池本さんのおっしゃっていた「そもそも増やしたら意味がない」ということで、増やさないポリシーの会社もあるのですが、インフラ部隊に人が少ないとか、そもそも親会社のポリシーでアウトソーシングしかしないという会社も多いですね。
池本:どこもそれほど変わらないんですねえ。
クラウドネイティブな使い方は現在模索中
大谷:今は社内サーバーをひらすらクラウドに載せている途中だと思うのですが、今後の予定を教えてください。
杉森:まずクラウドに巻き取れるサーバーはまだまだあります。たとえば、ファイルサーバーも今は物理サーバーなんですけど、容量が足りなくなっているのが現状です。AWSもEFSのようなファイルサーバーのサービスが出ているので、各部門でファイルサーバーをクラウド化していきたいです。これで費用を按分させるようなことができれば、データの棚卸しももっと事業部が積極的にやってくれるのかなと思っています。
あとはEC2とか、EBS、S3のようなメインストリームのサービスしか使ってないんですよ。だから、SQSとか、SWFとかをどんどん勉強していけば、もっと新しいシステムが作れるのではないかと。
池本:確かに今はAWSのいろんなサービス使えてない。実際、AWSはインフラサービスだけじゃなく、開発者向けのサービスもいっぱいある。でもこういうサービスはインフラのエンジニアだけだと、なかなか使いこなせないところも多い。だから、もう少し開発のメンバーも入れて、自動化などにもチャレンジできればいいなと思います。以前に比べれば、サーバー調達はかなり省力化できてますが、正直Cloud Formation使えば、もっと簡単になりますからね。サーバーの台数が増えても、少ない人数で回せるのが理想ですね。
大谷:最近はサーバーレスとか、AIとか、いろんなサービスが出てますね。事業部門などからのリクエストも増えるんじゃないですか。
池本:弊社はベルメゾンネットでのコマースが主力事業。それを支える事業部門は商品開発や管理、販売などがメインなので、まだまだITが関与できるところは小さいというのが正直なところです。とはいえ、販売施策がスピードを求められているのも事実だし、オムニチャネル戦略に関してもまだ手が出せていません。こうした現状を考えれば、クラウドネイティブでできるところもいろいろあるのかなと思っています。
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