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ウルトラマン放送開始50年記念企画“ウルトラお宝大進撃” 第13回

「アマギ隊員がピンチなんだよ!」ウルトラ少年だったぼくが古谷敏さんにもらった最高の“お宝”

2016年12月08日 16時00分更新

文● ムラリン/アスキー警備隊 編集● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 すごいことがあった。

 12月5日(月)、東京神田・神保町でのことだ。

 この日、神保町にある書泉グランデで『ウルトラマン トレジャーズ』発売記念イベントが行なわれ、古谷敏さんとお会いしたのだ。お会いした、とは言っても、僕は取材と称して客席から眺めていただけだけど。

書いた人──ムラリン/アスキー警備隊

いまだ童心を忘れないピュアハート編集者。怪獣のソフビ人形を買ってもらうために、デパートのおもちゃ売り場で暴れまくった過去を持つ。そのウルトラ愛はアスキー編集部随一。

ウルトラマン トレジャーズ

●発行発売:エフェットホールディング株式会社
●企画編集:Team Treasures
●仕様:B4変型 ※ハードカバー付
    180P、写真約500枚、収蔵レプリカお宝資料50点(予定)
●価格:1万7000円(税別)
●全面協力:円谷プロダクション、M1号 他
●発売予定日:2016年12月8日
●予約受付期間:2016年9月9日12時〜2016年11月30日
●URL http://ascii-store.jp/p/2016090600001/?aid=expedition13

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何百回となく練習した「スペシウム光線」

 古谷敏さんは、初代ウルトラマンのスーツアクターとして、第1話から全39話すべてでウルトラマンを演じた方だ。現代まで続くウルトラマンシリーズだが、その最初のウルトラマンの原型を形作ったのが、古谷さんの演技だ。僕らウルトラファンは、古谷さんの作ったウルトラマン像を、限りなくリスペクトしている。

 低く腰を落として構えるウルトラマンのファイティングポーズ。初代ウルトラマンの構えは、他のどのウルトラマンよりも体勢が低い。あのファイティングポーズも、ボクサーのファイティングポーズのようにはしたくないという監督の要望に応え、大好きな俳優、ジェームス・ディーンの喧嘩のシーンから着想を得て、古谷さんが付けたものだ。監督の指示で、背の高い古谷さんの姿がすべてカメラのフレームに収まるようにと、さらに身を低くして撮影された。もちろん、手は拳を握らず、ナイフを構えるように両手を前に突き出す、空手のような独特のポーズだ。

 一転、ウルトラセブンのスーツアクターとして入った上西弘次さんは、古谷さんほど身長が高くなかったため、セブンは直立して拳をギュッと握って構えをとることが多い。

 そして、ウルトラマンの決め技、スペシウム光線。武器を持たないウルトラマンがどのように怪獣を倒すのか。手刀から光線を発する必殺技を持っていること、どのようにそれを発射するかを、撮影現場で決めていった。熱く(“暑い”ではなく、火薬の爆破や効果で使われる火で“熱かった”そうだ)、息苦しいスーツを着たまま、あーでもないこうでもないと監督やカメラマンと何度もポーズを検討し、最終的にできあがったのがあの手を十字に交差して構える有名なポーズだ。

 右手刀から光線を発射し、左手をそれにクロスさせるように前に構える。右手は攻撃、左手は防御を表わしている。ただ手をクロスさせればいいというわけじゃない。ウルトラマンの仮面やカラータイマーが隠れないようにと、右手を顔面のやや右前、左手をのど下、胸の上ほどで水平に構えるのだ。しかも、最初にスペシウム光線が考案された際には、一度きりの必殺技なのか、その後も継続して使われる技なのかも決まっていなかった。

 その後、スペシウム光線を、『水戸黄門』の印籠のような毎回、最後に怪獣をやっつける必殺技にしよう、と決まると、その後古谷さんは、毎晩スペシウム光線のポーズを何百回と練習することを習慣にした。『水戸黄門』の印籠と言えば、同ドラマの最大の見せ場だ。おかげで、劇中、地面に倒れこんでスペシウムを放つ場面でも、きっちりカッコいい十字が、仮面もカラータイマーも隠すことなく記録されることになる。

 当時は、台本にもウルトラマンと怪獣の戦闘シーンには何も書かれておらず、監督や怪獣の着ぐるみに入る役者さんたちと都度都度相談しながら撮影を進めたのだという。つまり、ウルトラマンの怪獣との格闘シーンはすべて、古谷さんをはじめとした、現場での手作りなのだ。巨大な怪獣と戦う宇宙から来たヒーローの物語は、その撮影に臨むすべての人たちにとって初めてのことばかりで、毎日が手探りの連続。そんな現場だった。

つねにサインペンを持ち歩いていた古谷敏さん

 話をイベントレポートに戻そう。

 この日、会場には50人からのファンが詰めかけ、みな頷いたり感心したり、笑顔で古谷さんの話に耳を傾けていた。その多くは、私と同じように未だ少年の心を持ったお父さんたちなのだが、お父さんに連れられてきた小学生の女の子や、どう考えても初代ウルトラマン世代じゃないだろうという若い男性や女の子もいて、改めてウルトラファンの幅広さを認識させられた。

 僕もそこそこのウルトラファンを自認しているけれど、今回のイベントで、僕が初めて聞いたという話があった。

 古谷さんは、もともとは東宝の専属俳優で、本社の命を受けて円谷プロの製作する新番組『ウルトラマン』に参加することになった。実はそれ以前にも、『ウルトラQ』の撮影時に、ケムール人やラゴンのスーツアクターとして円谷作品には参加されていたのだけれど、そのとき、スラッと背の高い古谷さんはすでに目を付けられていて、『ウルトラマン』では、主役となるヒーローのスーツアクターとして名前が挙がったのだとか。ただ、古谷さんは役者として顔を出して演技をしたかったし、アクションもできないしと、ウルトラマン役は、かなり渋々引き受けた役だった。ここまではウルトラファンの間では有名な話だ。

 これを受けて、アクションができないとはいっても、何かスポーツのようなことはされていたのでは?との質問に、「少年野球と9人制のバレーボールをやっていたくらい」との話になった。少年野球をやっていて野球が好きだったとはいえ、貧乏だった上にお金があるなら映画を観たい、というような少年だったので、当時は後楽園球場の外野席ならあまり警備も厳しくなく、こっそり潜り込んで野球仲間と観戦することができたそうだ。練習時間から潜り込んで見ていると、巨人軍のそうそうたるメンバーが外野席までやってきてサインをしてくれたそうなのだけれど、それには紙とペンを持参しなければならず、それを用意できなかった古谷少年はサインをもらえなかった。そんな思い出のある古谷さんは、ペンを持たずにサインをもらいたいと来た子供に、同じような思いをさせたくないと、常にサインペンを持ち歩くようにしているという。古谷さんは、ウルトラマンを、子供たちに夢を届ける仕事だと考えている。それは、美センに向かうバスの中で子供たちに救われたあの日から、今も変わらず古谷さんが持ち続けている美学だ。

 さて、長くなってしまったが、実はここまでがこの記事のプロローグだ(笑)。実は本題はこの先にある。

「アマギ隊員として握手してください!」

 50人のファンが詰めかけたトークショーとサイン会のあと、僕もこっそりと古谷さんにサインをお願いし、握手をしてもらった。でも、ウルトラマンとしてではない。実は古谷敏さんは、『ウルトラマン』の次作、『ウルトラセブン』にも、ウルトラ警備隊のアマギ隊員役として出演している。古谷さんには申し訳ないけれど、僕のなかでは、ウルトラマンはハヤタ隊員=黒部進さんで、古谷さんは今でもアマギ隊員、というイメージが強いのだ。そこで、『ウルトラマントレジャーズ』の発売記念イベントだというのに、「アマギ隊員として握手してください!」とお願いした。古谷さんは、ちょっと怪訝な顔をなされていたけれど、大きな手でがっちり握手してくださり、「アマギだ!」と大きな声で叫んでもくれた。古谷さん、写真です!動画じゃないんで声は入りません!でも、ものすごく感激した。

 そんなイベント取材のあと、とりあえず落ち着こうと神保町のドトールでコーヒーを注文し席に着いて感激に浸っていたときだ。腕のビデオレシーバーから緊急を告げるサイレンが鳴り響いた! と思ったけど実際に鳴り響いたのは僕のスマホの着信音だった。しかも店内中に。それまでヘッドホンにブルートゥースで接続していたので、それを切ったらスピーカーになってしまったのだ。あわててスピーカーを切って電話に出てみると、相手は今回のイベントを仕切っていたトレジャーズの宣伝担当M女史だった。

 「今から今日のイベントの打ち上げをやるんですけど、古谷さんが来ませんか、っておっしゃってますが、来られますか?」

 !!!???

 「アマギ隊員がピンチなんだよ!」と分かる人にだけ分かるセリフを電話口に叫びながら、せっかく頼んだコーヒーだからと一口だけ飲んでドトールを飛び出した。飛び出したはいいけど、会場の場所を聞いていなかった。もうちょっとコーヒーを飲んでおくんだった。

 ともかく、そんなことってある?アマギ隊員から呼ばれたんだよ?ご指名で!僕は完全に舞い上がっていた。

 あとから知らされた台湾料理屋に着くと、すでにみなさん着席されていて、古谷さんの隣の席にどうぞと勧められた。 「アマギ隊員がピンチと聞いてきました!」などと言いながら古谷さんの隣に座ると、「ピンチじゃないし呼んでない(笑)」と笑いながら返してくれた。

 この打ち上げには、円谷プロのK氏も同席していて、楽しい話をいっぱい聞かせてもらった。ここでは書けない話も多いのだけれど、1つだけ古谷さんのお話で興味深かったエピソードを記しておこうと思う。

無茶振りから生まれた「ケムール走法」

 それは『ウルトラQ』でケムール人として出演したときの話だ。東宝から円谷プロへ出向いた古谷さんには、ケムール人としての着ぐるみが待っていた。顔も出さないスーツアクターではなぁ、と躊躇していたそうなのだが、とりあえずその着ぐるみを着てみると、なんと自分にぴったりのサイズだった。古谷さんは、背も高く手足も長い。自分に合わせたのでなければ、こうもぴったりのサイズになるはずはない。まんまとハメられた!と思ったそうだ。実はそれ以前にも、古谷さんは『ウルトラQ』の撮影に呼ばれており、そのときはお堀端でマンモスフラワーの巨大なつるを見物する野次馬というようなちょい役だったそうなのだけれど、そのときから背格好が目立って、目を付けられていたらしい。その後、呼ばれたラゴンでも、おっぱいがあるのに(『ウルトラQ』のラゴンはメスという設定)着ぐるみは長身の古谷さんにぴったり合わせたサイズで作られていて、もう自分以外には着られない仕様になっていたでの仕方なくやったのだという。

 そして、ケムール人といえば、あの独特の走り方だ。現在では、手足を高く上げて走るあのケムール走法は、飯島敏宏監督の演技指導によるものとされているが、最初は、「ローラースケートを履いて走ってくれ」とリクエストされたそうだ。しかし、「暗い夜にろくに前も見えないような重い着ぐるみを着てローラースケートなんて無理ですよ!」と古谷さんが断って、苦肉の策として、手足だけでもローラースケートを履いて滑っているように見える動きに、との演出の結果、あのような走り方になったのだとか。

 打ち上げは盛り上がり、円谷英二監督の話にまで及んだ。円谷プロのK氏は、「英二さんは本当にいい人だった。あの人のことを悪く言う人を聞いたことがない」と先輩たちから伝え聞いている、英二監督の人柄を表わすエピソードを聞かせてくれた。『ウルトラマン』の放映当時、対向番組としてフジテレビでは『マグマ大使』が放映されていた。『マグマ大使』は、もともと円谷英二さんに師事していた、うしおそうじさんの興したピープロが製作を担当し、特撮も行なっていたけれど、英二監督は『ウルトラマン』の撮影中でも、「『マグマ大使』は大丈夫かなぁ、誰か手伝いに行かせた方がいいかな」と心配ばかりしていたという。

 古谷さんは、「『ウルトラQ』で怪獣役、『ウルトラマン』でヒーロー役、『ウルトラセブン』で隊員役と、すべてを演じてきた、当時を知る役者はもう僕しかいない。英二監督たちのやってきたことを、語り継いでいくのが僕の役目」と、熱く語ってくれた。

 僕にとって、本当に素敵な夜だった。貴重なお話をたくさん聞けて楽しかった。ウルトラの話で盛り上がれる飲み会なんて、想像もしていなかった。ちょっとだけ、仲間に入れた気がした。「敏(ビン)さん!」と古谷さんを呼ぶK氏がうらやましかった。

 「ビンさん!」

 僕もそう呼んでみようかと何度も思った。でも、口を突いて出たのは「古谷さん」。それが精いっぱいだった。

古谷さん、僕もあのときの少年です

 古谷さんにまつわる逸話で、精神的にも体力的にも限界を感じ、「今日でもうウルトラマンをやめよう、降りよう」と考えていたその日、撮影所へ向かうバスの中で出会った4人の子供たちの話がある。バスの中で、夢中でウルトラマンの話をする彼らにとって、自分がヒーローであったことを自覚し、最後までウルトラマンを演じることができた、子供たちに救われた、という古谷さん。

 この話が有名になると、その後、古谷さんのサイン会、握手会には、「あのときのバスの少年は僕です!」という人が何人も現われたそうだが、実をいうと古谷さん、僕もあのときの少年です。あのバスには乗っていなかったし、古谷さんの目には見えず、声も届いていなかったかもしれないけれど、確かに日本のどこかで、ヒーローであったあなたに声援を送り、今なお憧憬を抱えたかつての少年が僕です。

 もし、過去に戻って、子供の頃の自分に話ができたら、「君が大人になったら、ウルトラマンと一緒にご飯を食べて、一緒にお酒を飲んで、楽しくおしゃべりすることができるよ」と教えてあげたい。あの頃の僕は、どんなに喜ぶだろう。

 『ウルトラマントレジャーズ』は、『ウルトラQ』、『ウルトラマン』に関する50点ものお宝資料が付属する、全180ページにおよぶ豪華なビジュアル本だ。僕のトレジャーズには、新たなお宝として、古谷敏さんのサインと、一緒に撮っていただいた写真が加わることになった。そして、この夜の出来事が、僕だけの、ウルトラマントレジャーズ181ページ目のエピソードである。



ウルトラマン トレジャーズ

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