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「中堅中小企業でも身の丈に合ったIoT活用の方法がある」

中堅中小製造業のIoT活用、AWSと経産省が事例紹介

2016年11月07日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)と製造業IoTの活用推進を図る経済産業省は11月4日、中堅中小製造業のIoT活用に関するユースケースを紹介する説明会を開催した。AWSのクラウドサービスを活用したIoTソリューションを開発、提供する3社からも代表が出席し、国の取り組みの現状やIoT活用事例、ソリューションなどが紹介された。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 Mobile & IoT事業開発マネージャーの榎並利晃氏

経済産業省 製造産業局 デジタル化・産業システム担当 参事官の徳増伸二氏

武州工業 代表取締役の林英夫氏

スタイルズ 代表取締役社長の梶原稔尚氏

スカイディスク COOの金田一平氏

中堅中小企業でも「身の丈に合ったIoT活用方法がある」――経産省の取り組み

 経済産業省 製造産業局 デジタル化・産業システム担当 参事官の徳増伸二氏は、経産省および国における製造業IoTの戦略や方向性、現在の取り組みを紹介した。

 昨年12月に経産省が行った製造業のIoT活用に関する調査によると、国内でも「設計・開発」や「生産」のプロセスにおけるIoT活用は進みつつある一方で、製品のアフターサービスなど(予知保全など)「運用・保守」プロセスでのIoT活用は大きく遅れている。また、特に中堅中小製造業層においては、IoT活用で「何ができるのかわからない」「データを共有することへの不安」「セキュリティが心配」といった課題もある。

 こうした議論を受け、政府では「ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)」を設置、その中のワーキンググループ(WG)の1つとして「IoTによる製造ビジネス変革WG」を設け、昨年7月から取り組みをスタートさせている。そして、今年1月に公表された同WGの中間とりまとめでは、今後検討すべき項目の1つとして「中堅中小企業がIoTを活用するための基礎インフラの整備」が挙げられており、今年9月、同WG配下に「中堅・中小企業アクショングループ(AG)」が設置され、中堅中小企業向けのIoT施策が議論されることになった。

 中堅・中小企業AGが掲げるコンセプトの1つは、IoTツールは必ずしも大企業だけが導入できる高度なものではなく、中堅中小企業においても「身の丈に合った活用方法がある」というもの。このコンセプトに基づいて、AGでは当面、「IoTツール情報の一元化と発信」「事例集の策定」「導入コンサルタントの育成/活用促進」に取り組むこととなった。

 IoTツール情報の一元化を図るアクションとして、今年の7~8月に実施されたのが「第1回 中堅・中小製造業向けIoTツール募集イベント」だ。公募の結果、「生産現場」「工場や企業間の情報連携」「海外展開」「人材育成」など7つのテーマ/課題に対するソリューションとなる106件のツールが公表されている。今回出席した武州工業、スタイルズ、スカイディスクの各社も、この公募に参加している。

RRIの中堅・中小企業AGが実施した「第1回 中堅・中小製造業向けIoTツール募集イベント」の概要。10月に106件の結果がWebで公表された

 徳増氏はそのほか、RRIが主導し、IoT/インダストリー4.0にかかる日独共同声明に基づき実施している先進ユースケースのオンラインマップ、中小企業へのIoTやロボットの導入支援を行う「スマートものづくり応援隊」の取り組みを紹介した。

ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)がWebで公開している、製造業におけるIT/IoT/ロボットの先進ユースケース

IoTソリューション提供のうえではパートナーとの協力が必須

 AWS 事業開発本部 Mobile & IoT事業開発マネージャーの榎並利晃氏は、製造業IoTに活用できるAWSのサービスと、実際の活用事例を紹介した。

 「なぜ製造業IoTの案件で、AWSに話が来るのか」と話を切り出した榎並氏は、取り組みを始める段階ではデータ容量など必要なリソース量を予測することが難しいこと、また製造業がIoTで実現したいことが徐々に高度化しており、ビッグデータ分析や機械学習/ディープラーニングの機能も求められるようになっていること、そしてデータのセキュリティに対する不安が根強いことから、高い拡張性と先進的機能、セキュリティを兼ね備えたAWSクラウドへの期待が強いと分析する。

 AWSでは、IoTデバイスからのデータ収集ゲートウェイ/管理サービスを提供する「AWS IoT」を始めとして、データ収集/分析とリモート制御の各種サービスを組み合わせたIoTプラットフォームを構成できる。

AWSのサービス群を組み合わせたIoT向けプラットフォームのアーキテクチャ

 榎並氏は、IoT分野におけるソリューション提供の取り組みにおいては「パートナーとの協力が必須になっている」とも語った。ゲートウェイデバイスや通信、業務アプリケーションなどを提供するパートナーの協力がなければ、ソリューションの全体像は構成できないからだ。こうしたパートナーとの協力を進めるとともに、SI/CIパートナーを通じたソリューション提供においても、今後はさらにIoT、中小企業に特化したソリューション提案やマッチングを強めていきたいと語った。

 AWSを活用した国内IoT事例として、榎並氏は、ブレインズテクノロジーが手がける製造工程における不良製品検出ソリューション、小島プレス工業が自社開発する音検査機のデータ分析、東洋ビジネスエンジニアリングが提供する工場設備全体の「つながる化」ソリューションなどを紹介した。

製造業IoTソリューションを開発する3社が紹介

 続いて武州工業、スタイルズ、スカイディスクの3社が、それぞれの開発/提供するIoTソリューションを紹介した。

 従業員数160名のパイプ曲げ加工/板金加工メーカーである武州工業では、生産現場の個々の従業員が自律的に業務を進める組織を目指している。その中で、全体の方向性統一を図る生産管理/情報共有基盤として、従業員が業務情報を自ら入力し、それを統合/蓄積することで、現場全体の動きを可視化する「BIMMS on AWS(仮称)」を自社開発した。この仕組みをさらに拡張し、各種IoTデバイスから収集したデータを活用する機能モジュールも加えて、2017年春より製造業他社にも販売していく方針。

武州工業の「BIMMS on AWS(仮称)」。今後さらに機能モジュールを追加して、中小企業でも手の届く価格帯で提供する計画。IoTデバイスによるデータ取得の一例として、中古のiPod Touchを製造機械に取り付け、稼働を自動カウントするビデオも紹介した

 SIベンダーのスタイルズは、これまで地方公共団体のオープンデータ化支援を手がけてきたノウハウを生かし、低コストで汎用的なIoT/GPSトラッキングプラットフォームである「Trackrr.io(α版)」をローンチした。トラックやバスに取り付けたIoTデバイスからプッシュ送信される位置情報データを収集、蓄積し、API経由でアプリケーション利用可能にする。中小製造業や卸売業における配送管理、また長距離バスの運行情報公開などでの活用を期待していると語った。

 IoTセンサーデバイス開発などを行うスタートアップのスカイディスクは、さまざまなセンサー/通信モジュールを脱着できる同社の「SkyLogger」と、センサーデータに特化した人工知能技術を活用した多様なソリューションを紹介した。たとえば農業向けには「温湿度/照度/CO2濃度」センサーを用いた収量予測、物流向けには「GPS/衝撃/温湿度」センサーを用いた倉庫オペレーション効率化が提供可能。今後、「温湿度/振動/音」などのセンサーを用い、中小工場向けの予知保全IoTサービスを安価に提供していくと述べた。

スカイディスクの「SkyLogger」は、センサーモジュールおよび通信モジュールを必要に応じて脱着できるデバイス

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