タブレットに魂を入れる西端さんの授業
畿央大学でのSurface導入の背景には、当然ながら教育現場のデジタル化が挙げられる。PCやタブレットの導入が加速している小中学校の教員を育成する畿央大学の教育学部では、デジタルが当たり前のこれからの時代に適応できる先生を育てる必要がある。単に教育のプロというだけではなく、ネットやデジタルに明るい先生を育成することが、結果的に卒業後の学生の価値を高めることになるという。
もちろん、Surfaceは単なるツールに過ぎず、ここに魂を入れるのは西端さんら教職員の腕の見せ所だ。「電子黒板やタブレットを使って教える前に、黒板で教えることももちろんやっています。加えて、情報モラルですね。大学生はもちろん、小学生に情報モラルを教えるにはどうすべきか。今日の午後は、ポケモンGOをいっしょにやりながら、小学生がARを使う5年後になにを指導すべきか、自ら気づいてもらう授業をやろうと思っています」と西端さんは語る。
過去には「タブレットを使った朝の活動を考える」「Excelで問題を作ってみる」「動画編集をやってみよう」など、とにかく学生が自発的に考える授業をやってきた。「今はちょうど自己紹介ビデオを作っています。これ自体は最近の高校でもやっているんですが、5年後くらいには小学校でやることになると思うので」と西端さんは語る。
もちろん、先進的な使い方だけを知った学生がそのまま教育現場に降りていっても、現場のデジタルリテラシーの差で孤立するのは明確だ。実際、学生の送り先となる小学校では、タブレット利用の制限も多い。「教育委員会の考え方にも寄るので一概には言えないのですが、私物のタブレットは持ち込めないし、学校のタブレットはアプリも勝手にインストールできない。導入時にインストールされたアプリだけでなんとかやってねといっても、学校の先生も困ってしまうし、小学生も興味を持てないと思います」(西端さん)。
学生と同じく、教員の間でもデジタルに対する抵抗感や迷いが存在する。一部の先進的な先生が私物を使っていた過去と異なり、現在は国や教育委員会の方針の下、さまざまな制約のある中、利用しなければならない。そのため、西端さんが教えているのは、操作というより、制限の中での活用方法や運用ルールの話だ。「アプリも自由にダウンロードできず、ネットワークの制限も大きい。この環境の中で、どうすればええねんという悩みも多いのですが、実際はカメラだけでも授業はできます」と西端さんは語る。実際、先日は「丸と三角、平行四辺形を学内で探して、カメラに収める」という課題例を説明してきた。これは算数や図工の授業につなげることができるという。
こうしたユニークな発想を裏付ける技術知識と市場動向を西端さんはユーザーコミュニティから得ているという。「『なにを今さら勉強するの?』と言われることもありますが、自分自身もつねに勉強していかなければならない。たとえば人工知能や機械学習も、理論そのものは私が学生時代からあったはずだけど、今なぜ手軽に利用できるようになったのかは、きちんと学んでいかないと」と西端さんは語る。
教育現場でのWindowsプラットフォーム採用の背景
畿央大学ではWindowsプラットフォームのSurfaceを採用している。ただ、教育系アプリはiOSのプラットフォームの方が先行しているのは事実だ。実際、「iPhoneにあるアプリがWindows Storeにはないんやけどーと聞いてくる学生もいますが、そこは大人の事情やと答えています(笑)」(西端さん)ということもあった。
とはいえ、教育系アプリ数が多いから、iOSがよいかというとそうでもないのが教育現場の難しい部分。「たとえば、大学にもiPadが15台ほどあります。授業はもちろん、小学校の先生方の研修用に使っています。iPadを使い回していますので、授業や研修後はユーザーのデータが混ざることになります。学校現場でも同じことが起こるのではないかと危惧しているので工夫が必要です」と西端さんは語る。なにより校務の多くはWindows PCで行なわれているので、教職員が慣れているというのが大きい。
現場でSurfaceを使いこなしてきた西端さんは、マイクロソフトが認定するMicrosoft MVPでもある。2015年は「Microsoft MVP for Surface」、今年は「Microsoft MVP for Windows and Devices for IT」を受賞しており、教育現場でのWindowsデバイス活用が高い評価を得ている。「研修会などの講師をやらせていただく機会がとても増えています。小学校にタブレットが来たんだけど、どうやって使ったらいいかを話に行くこともありますし、先生方に大学に来てもらって講習することもあります。ご存じの通り、今の教員免許は10年に1度更新しなければならないので、そこではタブレットの操作を含めています」(西端さん)。