ユーザーインタビューを業務で活用する場合、わからないこと、うまくいかないことが多々あります。このような悩みの解決をサポートするために、実践にあたって気をつけるべき細かなポイントを、実施プロセスに沿って紹介します。最終回では、ユーザーインタビューに加えてカスタマージャーニーマップを活用するコツをまとめました。
カスタマージャーニーマップの使い所
Yahoo!ショッピングの事例では、ユーザーインタビュー練習後から、インタビューの分析、改善案を検討していく手順で、カスタマージャーニーマップを活用しました。
インタビューの深掘りをするポイントの検討で活用
インタビュー練習実施後にインタビュー本番に向けてインタビュー内容を詳細に検討(第1回)した際、簡易的にカスタマージャーニーマップを作成しました。本番インタビュー実施前に、大まかなユーザー行動の流れを可視化すると、インタビューの質問項目の見直しに役立ちます。ユーザーの一連の行動を精査できる質問が用意できているか、ユーザーニーズの仮説を得るために行動の動機を探る質問が用意できているか、などが見直せます。
インタビュー実施後の手順では、ペルソナ作成後にカスタマージャーニーマップを作成していますが、カスタマージャーニーマップは、行動の流れを軸として情報を可視化、整理するために使えるツールなので、インタビュー練習後でも活用できます。
ユーザーインタビュー練習後のカスタマージャーニーマップは、ユーザーの行動を可視化するために作成したので、感情の変化までは記入しませんでした。
課題の要因分析、解決案検討で活用
本番インタビュー実施後、課題とユーザーニーズの分析、改善案の検討を進めていく際、カスタマージャーニーマップを活用しました。インタビュー練習後に作成したのは簡易的なカスタマージャーニーマップでしたが、インタビュー本番後は行動の細かな手順や感情の変化なども記入します。
カスタマージャーニーマップでは、ペルソナの特徴を考えながら現状のユーザーの購買行動の流れを書きます。
- 「フェーズ」は行動の大まかなカテゴリ分類。購買行動の場合は、AIDMAモデル(Attention注目、Interest興味、Desire欲求、Memory記憶、Action購買)をベースにも考えられる
- 「行動」では具体的な行動の手順を詳細に書く
- 「考え、気持ち」に、各行動のときのユーザーの考え、気持ちを書く
- 「感情の変化」に、購買行動の感情の浮き沈み変化を折れ線グラフで描く もっともポジティブな感情のときを「+2」、もっともネガティブな感情のときを「-2」として、各行動の感情を5段階で考えると、感情の変化をとらえやすい
ユーザー像を具体化する
今回のYahoo!ショッピングの事例では、ペルソナを作成してターゲットユーザーの人物像をチーム内で統一してから、カスタマージャーニーマップを詳細に作成しました。このカスタマージャーニーマップを作成したことで、ターゲットユーザーの人物像(行動、感情の起伏)がより具体的になりました。
カスタマージャーニーマップで効果的な改善案を導く
カスタマージャーニーマップを作成しなくても、インタビューの結果からペルソナを作成し、ユーザーが抱えている課題とユーザーニーズを導き出せます。ただし、その課題やニーズの背景にある「課題の要因」を的確にとらえなければ、どのような改善案が効果的なのか判断できません。
そのために、カスタマージャーニーマップを活用して、ユーザー行動の流れを可視化します。それによって根本的な課題はどこか、購買行動の流れのどこに課題の要因があるのか考えやすくなります。
ユーザーの具体的な体験から効果的な改善案を分析する
Yahoo!ショッピングの事例では、ペルソナ作成後に次のような課題を定義しました。
「ユーザーは普段よく購入する商品の購入に手間がかかってしまっている」
ここから、カスタマージャーニーマップを活用して課題の要因を分析します。コスメ用品を定期購入するユーザーに絞って分析すると、
「同じ商品を繰り返し購入するユーザーは、2回目以降の購入でWebサイトを利用する人が多い」
と、気がつきました。
カスタマージャーニーマップで更に、同じ商品を探す手間がかかる要因を分析すると、
- 注文履歴にアクセスして、以前購入した商品を探し出す
- ショッピングトップページで検索して以前購入した商品を探し出す
といった行動を「手間」だと感じていると見えてきました。
そこから導き出した改善案は次にあげる3つです。
- (改善案1)Yahoo!ショッピングトップページに「そろそろなくなる?消耗品」という枠をつくり、以前購入した商品を表示する。
- (改善案2)検索予測キーワード表示で、「以前買ったストアから探す」を選ぶと、以前購入したストアのページへ遷移する。
- (改善案3)購入した商品に関連したキーワードで検索した際、検索結果画面の検索結果商品一覧の上の位置(広告枠の下の位置)に以前購入した商品を表示する。
実際に実施した改善案のスクリーンショットです。
今回は、ユーザーの課題の要因とユーザーの理想の体験を明確にする過程でカスタマージャーニーマップが役立ちました。
カスタマージャーニーマップを作成しただけでは、課題や改善案はわかりません。ユーザーの具体的な体験から、課題の分析や改善案のヒントを得るために役立つものだと認識して、活用方法を考えるとよいでしょう。
また、カスタマージャーニーマップを活用するタイミングは、対象サービスの特徴や案件の目的によって異なります。今回取り上げたYahoo!ショッピングの事例では、下記のように活用するタイミングを考えました。
案件の目的:
ユーザーインタビューによって「ユーザーが買いものをする体験の全体の流れ」を明らかにし、それをもとにサイト改善をする。
カスタマージャーニーマップを活用するタイミング:
インタビュー結果からユーザーの行動や課題分析を行うタイミング
今回はユーザーインタビューをもとに改善案を導き出すことを目的としていました。そのため、買いもの体験全体の流れをカスタマージャーニーマップで可視化することにより、ユーザーの行動や課題分析、改善案の検討に役立てました。
このように、カスタマージャーニーマップは、ユーザーの行動の流れが複雑な場合に効果的に活用することができます。
ペルソナとカスタマージャーニーマップを壁に貼って認識を合わせる
課題の要因分析をして改善案を考えるときは、見える場所にペルソナとカスタマージャーニーマップを掲げていつでも見られるようにしました。結果として、チームメンバー全員がペルソナの行動や思考の特徴を常に意識しながら検討できました。
ペルソナとカスタマージャーニーマップを活用することで、ユーザーの具体的な行動のイメージをチームで共有でき、方向性が一致した具体的な改善策を出しやすくなります。
ユーザーインタビューの活用方法
この連載では、Yahoo!ショッピングで実施したユーザーインタビューの事例を手順の理由や背景も含め、細かく解説しながら、ユーザーインタビューの効果的な活用方法を紹介しました。
ユーザーインタビューは、対象となるサービスやプロダクトの特性によって、適切な手法も進め方も異なります。
ユーザーインタビューを実施するときに考慮すること
ユーザーインタビューを実施するときに考慮することを挙げました。
- プロジェクトの目的は何か?
- ターゲットユーザーは誰か?
- ユーザーに直接会って話を聞けるか?
- ユーザーが実際どのように対象となるサービスを利用しているかを把握できるか?
- どの程度時間をかけて取り組めるプロジェクトか?
- チームメンバーはユーザーインタビュー経験があるか? やる気があるか?
プロジェクトの状況によって、対象となるサービスやプロダクトを改善するために効果的なユーザーインタビューの方法や手順は変わります。
ユーザーインタビューを通して仮説検証を繰り返す
ユーザーから第三者視点で客観的な話を聞くことで、プロジェクトメンバーで考えた仮説を確かめたり見直したりできます。ユーザーインタビューを通して、仮説検証を何度も繰り返しながらよりよい改善案を導き出していくイメージです。
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今回の連載を参考に、手順をアレンジして、開発プロセスの中でユーザーインタビューを効果的に活用してください。