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スペシャルトーク@プログラミング+ 第3回

「未来食堂」の小林せかいさん1万字インタビュー

“理系”と“エンジニア”は違うと思うのですよ

2016年10月03日 19時00分更新

文● 遠藤諭/角川アスキー総合研究所

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 ここで未来食堂についてちょっと解説。本の街で知られる神田神保町、九段下寄りの住所的には東京都千代田区 一ツ橋2丁目の日本教育会館の地下一階にある。近くには、老舗のうなぎの今荘、大丸やき茶房、目の前は地図の帝国書院のビルだ。営業は、火~土で11時~22時まで(火曜は15時まで)。階段を下りると「未来食堂」はこちらという感じの小さな看板や案内があって、奥に独特のロゴマークをあしらったガラスのドアが見える。

 シンプルできれいな店内。座り心地のいい椅子やなつかしさのある器。赤いランプシェードが店の雰囲気を明るくしている。コの字形のカウンターの奥がガス台、カウンターの上には、お茶やおひつ、杓文字などが置かれていいる。カウンター正面の背中には、「未来図書」と称して、店主が読んでほしい本が並べられている。来店者が書くノートなんか もある。

 日替わり定食のお値段は900円(割引券で800円=後述。ごはんはおかわり自由)、あつらえが+400円(18時~)、喫茶400円(中高生200円。15時~)、日本酒一合800円(+150円で晩酌セット、小鉢3品。15時~)。素貸の貸切プランもあって(ワンドリンク付)、厨房も使える(25,000円)。客が飲み物などを持ち込む「さしいれ」は自由だが、半分はお店に残してほかの客にふるまうことが条件になっている。

 ホームページが充実しているのも未来食堂の特徴。「あなたの"ふつう"をあつらえる」とキャッチフレーズが掲げられている。「"ちょっとした融通がきくお店"、最近少ない気がしませんか。(中略)通常のメニューの他に、あなたの気 分や食べたいものに合わせたおかずをご用意します」と書かれている。同じものをたくさんのメニューを並べて選ばせるのがいまの飲食業界。しかし、カスタマイゼーションが勢いを見せるいま、きっとこういう形の店は増えるはず。という意味で「未来食堂」と名付けたそうだ。

 開店して営業が回るまでの小林さんの言う「未来食堂プロジェクト」の経緯については、『未来食堂ができるまで』に詳しく書かれている。未来食堂のコンセプトは、本人が語りつくせないというほどほどたくさんある。開店までの1年4カ月の間の修行先(オリジン弁当、老舗の仕出し屋、大手料理代行、セイザリア、大戸屋、街の定食屋、ケータリング)で得たことなども書き込まれている。

 今回は、そうした未来食堂の魅力についてもさることながら、ちょっと趣をかえて未来食堂のインフラ的な部分について聞かせてくださいとうかがったわけだ。

「大変だな」で10人より、「楽チン」で50人が幸せにできる

小林 あとはどれだけ作業に手間がかかるかで考えています。『手間がかかるのが大変』と意識しているのなら、その手間を数値化し計量する必要があります。未来食堂では手間=右手を動かす回数と定義しています。

―― 右手を動かす回数?

小林 たとえば炒め物で考えてみますね。前ガロをのせる、という作業は1手 です。ブロッコリと豚肉を別の容器からフライパンに入れるという作業はそれぞれ1手になります。主調理はやむを得ないとして、そして盛りつけて4手、トッピングと合わせて5手になるわけです。基本的に7手以上は時間がかかりすぎるので危険です。

―― その場合どうするんですか?

小林 そうしたときにどうするかというと、具材を減らすのではなく具材をあらかじめ混ぜておく、といった工夫をしています。ブロッコリと豚肉を混ぜておく。もちろんこのとき具材のムラや衛生面を考えるのも必要ですが。材料をつかむ道具を工夫してそこはやるんですね。

―― 未来食堂は道具も工夫しているようですね。

調理のようすを実演して見せてくれる小林さん。

小林 ええ。調理そのもの以外にも、何の情報を受け渡すかということも重視しています。必要でないことを言っちゃうと無駄ですよね。例えば、調理担当者に、お一人さまとお二人さまと伝達しないようにしています。調理の人にとっては3つ注文ということですから。基本的に数字だけを言い合うだけというのがベストですよね。

―― メニューが1種類しかないから。

小林 コアの部分だけ受け渡すことで余剰ができたら、ねぎらいの言葉をかけたりすることができますね。「一生懸命やって大変だ」と思いながら今日は10人しか相手に出来ないというのは、その大変さは誰の役にも立っていないんです。楽チンだ なと思いながら50人相手する方がずっと幸せにできているはずなんです。大変なんだったら「見える化」をして、どこが改善できるか考えるべきです。

―― 出た、見える化だ。お店のデザインについてはどうですか。

小林 飲食店に詳しい方が一番驚かれるのは、熱源が手前にあるということですね。ふつうホールとキッチンって分かれているので、熱源は奥にあるのが普通なんです。奥に作ればダクトも小さくできるので経済的にも有利なんですよ。でもここでは、一人でやることを考えているので、店の中心の同心円上で全てのことができるようにしています。ハイピークでは一歩も動かずに全てのことができるのがあるべき姿です。


 

(次ページ、「未来食堂は、エンジニア的な定食屋」に続く)

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