8月に配信が始まった、Redstone 1こと、Windows 10 Anniversary Updateの特徴の1つが、Windows Ink ワークスペースだ。これは、Windowsのペン機能を利用するためのランチャーで3つの新規アプリが登録されている。
Windowsのペン機能は「Windows Ink」と呼ばれる。Inkとは、ペンの軌跡を表現するWindowsのオブジェクトで、画面上では筆跡だが、内部に文字認識した結果などを持つことで、グラフィックスとテキストの両方の特徴を備える。文字認識の結果を使えば、文字列検索が可能になったり、あとからテキストに変換するといったことが可能になる。また、必要に応じて、各種のグラフィックス形式に変換することもできる。Inkオブジェクトは、ペンで入力する“つぶしの効く”形式なのだ。
しかし、Inkを扱うためには、アプリがWindows Inkに対応する必要がある。ペンは、単純にマウスの代用としても利用可能なのだが、それではあまり意味がない。ペン対応のアプリをふやすためには、ペンが使えるハードウェアを普及させなければならない。ここがペンを使うPen Computingの最大の問題だった。
四半世紀近く前からペンベースのOSを作ってきた
マイクロソフト
これまでもマイクロソフトは、ずっとペンに取り組んできた。最初の取り組みは、1992年のWindows for Pen Computingだ。その前年に米国のGO社がPenPointというペンベースのOSを発表、専用ハードウェアと組みあわせてPen Computingが可能であることを示した。
当時のマイクロソフトは、Windowsを脅かすような存在には大きく反応し、“負けず嫌い”のビル・ゲイツは、ただちにWindowsでもペンが利用可能なWindows for Pen Computingを発表する。これは、Windows 3.1ベースだったが、実際に安定して利用可能になるのは、1995年のPen Service 2.0(Windows 95ベース)からだった。
この頃は、ペンといってもマウスの代わりとして使われており、手書き入力パネルやスクリーンキーボードを除けば、ポインティングデバイスとしてあまり大きな違いはなかった。
その後、1996年にPalm Pilotが登場し、低コストの感圧式のタッチパネルとスタイラス(電子回路を持たず単なる先の尖った棒)でのPDA利用を提唱すると、マイクロソフトはただちにこれに反応。Windows CEベースのPocket PC(1998年。当初はPalm-size PCと呼んでいたがPalm社からの苦情により名称を変更)を発表する。
Windows CEは、キーボードがあるHandheld PCとタブレット型でスタイラスを使うPocket PCの2つが作られ、最初に出たのはHandheld PCだったが、カシオなどがPocket PCに参入した。このPocket PCの開発過程で、ペンで行なう操作などが確定していく。感圧式のタッチパネル上でのスタイラス操作では、マウスのようにボタンを使い分けることができない。このため、タップ(クリックに相当)やドラッグ、長押しによるコンテキストメニューといった操作、一定のパターンでペンを動かすことで文字列の削除などを行なう「ジェスチャー」などが一般的なペン操作として定着していく。
次に大きくペンを取り上げたのは、2001年のWindows XP Tablet PC Editionだ。これは、Windows XPにペン機能を追加した専用のエディションで、これを搭載したPCを「タブレットPC」と呼んだ。多くのメーカーからペンデジタイザ(ペンの座標を検出するハードウェア)を搭載したPCが発売された。このときタブレットPCには、純粋なタブレット型の「ピュア・タブレット」とキーボードを持ち、クラムシェル型とタブレット型に変形できる「コンバーチブル」タイプの2つがあった。
また、このときに標準で添付され、以後のWindowsに入ることになるのがSnipping ToolとWindows Journalである。また、オフィスなどもこの時点でペン対応が行われている。なお、今回のRS1では、このWindows journalが標準添付ではなくなった。TH2がプリインストールされているマシンでは下の画像のように近々付属しなくなることが提示される。
しかしRS1でもこのURLからダウンロードして使うことはできるようだ。
このTablet PCで、Windowsのペン機能は一応の完成を見る。ただし、この製品は、Windows XPとは別プロダクトで、エディションとしてプリインストールマシンとして入手できただけで、ユーザーが直接購入することはできなかった。多くの製品が出たものの、ライセンス料が高い、コンバーチブル型では変形のために特殊なヒンジなどが必要でコストアップの要因となったため、普及するには至らなかった。
こうした反省もあってか、Windows Vista(2006年)では、ペン機能がWindowsの標準機能となり、別エディションではなくなった。これによりペンが利用できるPCのコストは、ペンデジタイザのみとなった。
さらにペン機能が大きく取り上げられるようになるのは、Windows 8(2012年)でのこと。GUIの改良によりタブレットでの利用が容易になったからだ。また、このときマイクロソフトは、自社ブランドでのPC販売を行い、Surfaceシリーズを投入。このときSurfacePro(初代)にペンデジタイザが内蔵された。
Surfaceシリーズは、マイクロソフトのハードウェアであり、ある種の「リファレンス」となる。これにより、他社のPCでもペン機能を搭載したものがいくつか出た。ただしSurface Pro 2までは、ワコムのEMR方式(後述)を採用していた。その後、マイクロソフトは、ペンデジタイザをイスラエルのN-Trig社の静電容量結合方式に切り替える。
今回のINKワークスペースは、Windows for Pen Computingから数えて4回目、Pocket PCを入れれば5回目の挑戦である。
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