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業界人の《ことば》から 第205回

フェラーリ目指したシニア向けカート、三協立山の狙いは?

2016年07月21日 09時00分更新

文● 大河原克行、編集●ASCII.jp

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今回のことば

 「歩行保護車における、フェラーリやF1カーのようにしたいと考えて開発したのが、クラウドまちなかカート。男性が使用しても格好よく、同年齢の女性が振り返るようなカートにしたい」(三協立山の山下清胤社長)

日本MSが富山大学や自治体らと共同プロジェクト立ち上げ

 日本マイクロソフトと、国立大学法人富山大学、三協立山、富山市が共同で、「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」を開始した。その第1弾となるイベントが、6月26日、富山県富山市で開催された。

クラウドまちなかカート

 「タブレット付きまちなかカートを使ってまちなかゆる歩き!!」と呼ばれるイベントがそれで、日本マイクロソフトのSurface 3を搭載した「クラウドまちなかカート」を、高齢者が押しながら、街歩きを楽しもうというものだ。

 7年前に富山大学が設立した富山大学歩行圏コミュニティ研究会において、元気な高齢者だけでなく、足腰が弱くなった高齢者も、積極的に街に出ることで、生き生きと交流を楽しむことができ、魅力あるコミュニティの実現を目指して活動をしてきたが、いまから3年前に、地元に本拠を持つ大手アルミメーカーの三協立山が参加。富山市も参加することで、「歩いて暮らしたくなるまち(歩行圏コミュニティ)づくり」の研究プロジェクトへと発展。さらに、このほど、日本マイクロソフトが参加して、「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」へと進化。クラウドを活用した新たな取り組みが開始されたというわけだ。

 今回のイベントでは、65歳以上のシニアで構成されるホコケンメンバー13人が参加。富山大学の学生とともに、街歩きを楽しんだ。

「かっこいいカート」目指した

 カートに搭載されたSurface 3には、近隣の店舗から発信される情報を表示。お勧め情報やお得情報を見ることができる。今回のイベントでは9店舗が参加。店舗に設置されたビーコンから発信される情報を受信する仕組みとなっており、街歩きをしていくと、近くの店の情報へと自動的に変わる。これが街歩きの楽しさを倍増させるというわけだ。

(右から)三協立山の山下清胤社長、富山市の森雅志市長、日本マイクロソフトの榊原彰執行役最高技術責任者

 これらの情報は、店舗側で更新することが可能だが、このプロジェクトに参加している高齢者のメンバーが、それぞれの店舗を担当し、写真を撮影したり、コメントを書いたりといった手伝いもしてくれる。地元店舗とシニアのコラボレーションのひとつにもなっている。そして、この仕組みには、インスタグラムを利用。店舗ごとにアカウントを取得して、そこにアップすれば情報が配信される仕組みとしている。

 一方、カートの車輪にはセンサーを搭載。Bluetoothを通じて、1分ごとに歩行距離と場所をSurfaceに転送。Surfaceからは、富山市内に設置されているフリーWi-Fiを使用して、Azureにデータを転送する。富山市内の中心部には、フリーWi-Fiが普及しており、この環境を利用して情報を収集するという仕組みだ。データは、個人情報がわからないような形で収集。合計22台のカートの使用情報を分析して、高齢者の健康増進などに役立てるという。

クラウドまちなかカートに搭載したSurface 3に店舗情報が表示される

 この「クラウドまちなかカート」の開発、製造を担当しているのが三協立山である。

 2006年に三協アルミと立山アルミが合併して、三協立山アルミを設立。2012年には、三協立山アルミと三協マテリアル、タテヤマアドバンスが合併し、三協立山となった。

 住宅、ビル向けの建材事業、アルミニウムやマグネシウムなどのマテリアル事業、商業施設向けの什器や看板などの商業施設事業などで高い実績を持つ。

 クラウドまちなかカートは、同社のこうした技術やノウハウを活用して開発、生産したものである。

 富山市の森雅志市長は、「三協立山には、これまでにも、押しやすい車輪の直径を研究したり、強度を高める構造を採用したり、ブレーキの改良に取り組んだりといった努力をしてもらっている」と語る。

 今回のイベントで使用したカートは、第3世代の製品になるという。

左が第2世代のクラウドまちなかカート。右が第3世代のクラウドまちなかカート

 三協立山の山下清胤社長は、「若手の技術者やデザイナーを参加させ、富山大学からもアイデアをもらいながら開発した」と語る一方、「カートとしての安全性や高い強度の実現、富山市内を走る路面電車の線路をスムーズに超えられるといった機能性も追求した」と語る。

 実際、線路を乗り越える際に、手前の脚部分を片足で押せば、前方が持ち上がりやすいように工夫を凝らしている。

 だが、カートの開発のなかで、山下社長が最もこだわったのが、「かっこいいカートの実現」だったという。

 「一般的なカートでは、持ち運んだり、折りたたんだりといったことを考慮するため、華奢に見えたり、女性向けのものであるというケースが多い。だが、クラウドまちなかカートはそうした点を考慮せずに、街歩きのためだけに最適化したカートを開発した」とし、「目指したのは、歩行保護車におけるフェラーリやF1カー。男性が使用しても格好よく、同年齢の女性が振り返るようなカートにしたいと考えた」とする。

街なかを押して歩くシニア

 確かに、クラウドまちなかカートは、シルバーのアルミ部分に、赤いデザインが施され、お洒落なイメージだ。実は、グッドデザイン賞も受賞している。そして、その機能性などの部分において、一部特許も取得しているという。

 持ち運びを視野に入れたカートに比べると少し重さはあるが、男性が持つには適したサイズだ。実際に、押してみたが、押している最中にはそれほど重さを感じることはない。

 現在、市役所など富山市内3カ所に22台を配備。さらに、三協立山では、1台10万円でのテスト販売も開始した。

IoT活用で「楽しい街歩き」実現するか

 山下社長は、「三協立山では、建材以外にも事業を拡大する方針を掲げており、そのひとつに環境・健康への取り組みがある。富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクトへの参加を通じて、様々なデータや意見を集約し、カートを改良。今後の動向を見ながらビジネスとして展開していくことも検討したい」と語る。

 「IoTを活用して高齢者が安心して、楽しく街歩きができる環境づくりへの取り組みが、日本中、世界中に広がり、豊かな社会になることに携わっていきたい」と山下社長。三協立山にとっても、新たなビジネスチャンスが生まれそうだ。であることがより鮮明になったといえる。

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