前回のiPhone SEに続き、今回は9.7インチのiPad Proについて取り上げます。
単にiPadとして使う分には、値下げされたiPad Air 2も魅力的です。画面が美しく、性能も十分に高いので、いまのAir 2に筆者も大きな不満はありません。
再び議論を呼びそうなのは、「9.7インチのiPad ProがPCを置き換えるかどうか」という点です。
9.7インチ版の登場でも「PC置き換え」は難しい
9.7インチのiPad Proは、「Apple Pencil」によるペン入力や、9.7インチ用の「Smart Keyboard」によるキーボード入力に対応しました。メモリー容量が12.9インチ版の半分の2GBになるとみられる点は残念ではあるものの、まさに小型版iPad Proといってよいでしょう。
アップルはiPad Proを、改めて「PCの置き換え」用として位置付けています。しかし、12.9インチ版の登場以降、多くのメディアやレビュアーが「PCの置き換えにはならない」と指摘してきたことも事実です。
PCの用途は多岐に渡っており、一括りに議論することはできないものの、テキストやスプレッドシート、画像などを編集し、受け渡しを繰り返していく一般的なナレッジワーカーの作業を想定すると、どうでしょうか。その不満点は、「ファイル」「アプリ」「操作性」といった点に集約されます。
PCでは当たり前にできるファイル操作を、iPadは苦手としています。企業によるiPadの導入事例を見ても、紙のカタログをデジタル化したり、業務アプリへの簡単な入力作業にとどまっているものが多く、その背後でPCが活躍していることは容易に想像できます。
アプリや周辺機器はPCと比べて機能が限定的で、選択肢も限られています。操作性もPCとは大きく異なり、キーボードショートカットの対応は不十分で、マウスカーソルも使えません。
iPadにあわせて仕事を最適化できるか
だからといって、これらの不満点を改善するようiOSにを求めるのも、ちょっとお門違いの感があります。ファイルを意識することなくコンテンツやデータに集中できること、タッチ操作だけで誰もが簡単に使えること、メンテナンスの手間がかからないことが、iOSの魅力だからです。
では、どうすればよいかというと、我々が一番やりたくないことに言及せざるを得ません。それは、iPadにあわせて我々の仕事のやり方を変えるということです。
たとえばデジタルワークの中心にあるファイルのやり取りについて、本当に必要なのはファイルではなく、その中にあるデータのはずです。添付ファイルでメールを送るのではなく、クラウドに保存したデータのURLを共有する、というやり方ではどうでしょうか。
また、「仕事でExcelが必須」という人でも、よくよく聞いてみれば、いわゆる「Excel方眼紙」で帳票作業をしていたりします。あるいは効率化のためマクロを作り込んでいるような場合でも、Googleのスプレッドシートとスクリプトなら、さらにスマートに解決できるかもしれません。
しかし、そういうことが頭では分かっていたとしても、やはりiPad Proのために仕事のやり方を変えるなど本末転倒だ、と思う人が大多数でしょう。重要なのはビジネスで結果を出すことであって、デバイスはそのための道具に過ぎません。
iPad世代がゆっくりとPC世代を置き換える、という変化
筆者自身、少しずつ仕事環境をアップデートしてはいるものの、仕事にPCは必須です。この原稿を送る際にも、スクリプトを使って下処理を加え、APIでDropboxにアップロードしています。よくカスタマイズされたPCの作業環境はとても快適で、そう簡単に移行できないという気持ちはよくわかります。
ただ、確実に言えることは、これから新しく何かを覚えたり、新しくビジネスを立ち上げたりする際には、旧来の手法にとらわれず、新しいやり方を一足飛びに導入するチャンスだということです。
つまり、iPad Proが直ちにPCを置き換えるかどうかという問題設定は、あまり重要ではありません。それよりも、最初からiPad(あるいは、それに類するスマートデバイスでも構いません)を使う人たちが、PCを使う人たちをじわじわと置き換えていく、という世代交代のほうが、はるかに重要なインパクトをもっていると筆者は考えています。
日本語環境にはまだ不安も
ところで、iPad Proの日本語環境にはそんな「iPad世代」でも絶対に不満を覚えるであろう問題が残っています。Smart KeyboardはまたしてもUS配列だけで、JIS配列がないのです。全世界的にみてもUS配列しかなく、各国のユーザーから多くの不満が上がっています。
また、iOS 9から日本語と英語を切り替えるショートカットキーが「Command+スペース」から「Ctrl+スペース」に変わったことも、筆者には衝撃でした。サードパーティ製キーボードの中には、言語切り替えキーが機能しなくなったものもあります。
他の機能とバッティングしたことで仕方ないとはいえ、こうした事例を見ていると、OSレベルでショートカットキーをカスタマイズする機能がiOSにも欲しくなるものです。
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