性能はConvex C-1 XPの2倍
Alliant FX/8-8と同等
肝心の性能を調べてみよう。下の画像がMultiflowが示したベンチマーク結果である。Convex C-1 XPのほぼ倍で、AlliantのFX/8-8と比較としても遜色はなく、将来の拡張性も高いとしている。
画像の出典は“Multiflow Technical Summary”
Computer History MuseumにはTRACE 7/200の実物が存在しているが、シンプルな筐体で価格も最小構成で30万ドル未満とされていた。Convex C2が47万5000ドル、AlliantのFX/8が100万ドル未満という数字と比較すると、さらに安いことがわかる。
もっともこのあたりは構成によって価格が変わるので、単純に数字を比較するのは難しいのだが、ただこれらの製品と同程度の価格レンジにあったことはご理解いただけよう。
画像の出典は“Computer History Museum”
命令フォーマットを変えたTRACE /300シリーズは
性能不足で大不評
TRACE /200に続き1989年に同社は後継製品であるTRACE /300シリーズを発表する。こちらもTRACE /200同様に1/2/4プロセッサーのTRACE 7/300・14/300・28/300が用意された。
ただ、テクニカルマニュアルなどを参照する限りにおいては、動作周波数があがったり、メモリー容量が増えたという話は皆無である。実際数字を見てみると、TRACE /200と何も変わらない。命令長も7/300で256bit長、28/300で1024bit長だから完全に同じである。
TRACE /300シリーズの性能 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
名称 | TRACE 7/300 | TRACE 14/300 | TRACE 28/300 | |||
VILW MOPS | 53 | 107 | 215 | |||
MFLOPS | 30 | 60 | 120 |
TRACE /300シリーズでは利用したCMOSプロセスにも言及がないのだが、Beatは65ナノ秒、サイクル時間は130ナノ秒という記載があるので、おそらくTRACE /200シリーズと同じもの、と考えて良いだろう。
ではなにが違うのかというと、なんと命令フォーマットがまったく互換性のないものに変わっていた。おそらくTRACE /200シリーズでのフィードバックで、より効率の良いVILW命令フォーマットを作り上げたという話なのだろう。
画像の出典は“TRACE /300 Series:Technical Summary”
分量が膨大なので示さないが、TRACE /200シリーズとTRACE /300シリーズでそれぞれ簡単なループを回しての演算をコンパイルした結果の生成コードはけっこう違うものになっている。同社は2年間かけてVILW命令の見直しや、それにあわせた開発環境の最適化に専念したものと思われる。
あいにく、この努力は市場では評価されなかった。同社は、これまたConvexと同じようにDECのVAX/VMSと互換の環境を提供することでDECのユーザーが使いやすいように努力した(TRACE/DCL、TRACE/EDT、TRACE/DN、TRACE/DECLARE Utility Packageなどが提供された)が、肝心の動作周波数が7.7MHzで据え置きだったため、魅力的とは到底いえなかった。
「動作周波数あたりの処理性能は最高」と主張しても、ユーザーが欲しているのは絶対性能であり、ここでの見劣りぶりはいかんともしがたかった。
画像の出典は“TRACE /300 Series:Technical Summary”
なぜMultiflowがハードウェアの性能改善を行なわなかったのかは不明である。あるいはソフトウェアというかアーキテクチャーの改良とハードウェアの改良を両方同時に行なうのは危険だと思ったのかもしれない。理由はどうであれ、TRACE /300シリーズは顧客の要望を満たせず、同社の市場規模は急速に縮小する。
TRACEシリーズは全部で125セット販売されたそうだが、そこで終わりであった。最終的に1990年3月27日に、同社は活動を終了する。
とはいえ、同社はVLIWの市場を切り開いたことに間違いはなく、多くのシステムに影響を与えた。またFisher(元)准教授はMultiflowの倒産後にHP Labsに入り、CydromeのBob R. Rau博士などと一緒にVLIWの研究をさらに推し進めていくことになる。
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