鴻海に傾くのはDNAを維持できるから
高橋社長は、「エネルギーソリューション事業において、計画には織り込んでいなかったポリシリコンの評価替えを行なったために下振れした。だが、それを他部門がカバーし、ほぼ想定通りの着地。構造改革も順調に進捗している。中期経営計画で掲げた重点戦略についても、当初計画通りに進んでいる」との姿勢を崩さないが、周囲の反応は冷ややかだ。
なんといっても、経営不振の元凶となった液晶の低迷は依然として続いている。第3四半期累計のディスプレーデバイスの売上高は前年同期比11.7%減の6174億円、営業損失は372億円の赤字。不振の温床となった中国スマホメーカー向けの液晶パネル供給が低迷しており、さらに、大型テレビ向け液晶パネルの減少や、パネル価格の下落も影響。一部工場での稼働調整やコストダウンの取り組みの遅れもマイナスにつながっている。
同社は、亀山第2工場における高付加価値型中小型液晶パネルの生産能力向上に向けて約112億円の投資を行なうことを発表。スマホ向け小型パネル、テレビ向け大型パネル中心から、PC、タブレット向け、車載向けの中型パネルを中心とした方向へとリソースシフトを行なう。
だが、トンネルの出口はまだ見えない。まさに、支援先の選定は、経営陣にとって最優先事項になっている。
支援先の提案は、それぞれの立場の思惑を反映したものだといえる。
産業革新機構は、シャープに3000億円を出資し、さらに、みずほ銀行および三菱東京UFJ銀行から、最大3500億円の金融支援を得る一方、産業革新機構が出資している液晶生産のジャパンディスプレイとシャープの液晶事業を統合。さらに同じく経営再建中の東芝の白物家電事業と統合を図るという青写真を描いていたとみられる。日本の技術を国内に留めるとともに、再編により、日本の電機メーカーの収益力回復などにつなげるというシナリオだ。国をバックにした産業革新機構の立場ならではの支援策である。だが、事業の切り売りや、現経営陣の退任などが盛り込まれるという痛みもともなう。
一方で、鴻海精密工業は、7000億円規模の出資提案に加えて、経営陣の続投、社員雇用の維持などを提示。さらに、部材調達などにおいても鴻海が持つ調達力を生かすことができるというメリットがある。国際競争力の拡大を目指して、シャープの技術、人材といった資産を取り込みたい鴻海の思惑が感じられる。そして、これまでのシャープのDNAを維持するという点では、鴻海の支援案の方が有力だといえる。
高橋社長は、「両社から積極的な提案をもらっている。その点は、ありがたく思っている」と前置きしながらも、「リソースをより多くかけて検討しているのは鴻海の方であり、それによって検討のスピードが早く進んでいるのは確か。ただ、これは優先交渉権を持つとか、優位性があるというわけではない。真摯に、精緻に、公平性、透明性を持って、内容を吟味している段階である」とした。だが、その口ぶりからは、鴻海を選択する可能性が高まっていることも感じられる。
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