カシオ計算機がついにスマートウォッチに参入する──その知らせを聞き、国内外のカシオファンが一斉にわきかえった。
米国で1月に開催されたCESで発表した「Smart Outdoor Watch WSD-F10」だ。あえてアウトドアに用途をしぼりこんで開発した、ヘビーデューティなスマートウォッチ。とてもカシオらしいコンセプトだが、カシオ新規事業開発部企画管理室 坂田勝室長によれば、発表までには長い歳月を要していた。
樫尾和宏新社長直下のプロジェクト。何度もボツをくりかえし、苦悩の末にたどりついた、カシオが考えるスマートウォッチのありかたとは。
失敗、失敗、また失敗
話は2010年から始まる。当時、カシオはIT時代に合わせた新商品をつくろうというテーマでプロジェクトを動かしていた。作ったのはハードではなく、写真を変換して楽しむタイプのネットサービスだった。
「カシオはメーカーとしてやってきましたが、ネット環境や社会環境などが変化する中、お客さんとの接点はサービスになっているのではないかと」
しかし、ねらいは完全にはずれた。1年経っても結果は出ない。
2011年末、坂田室長は樫尾和雄社長(当時)から社長室に呼び出された。やはりカシオはメーカーだ。モノを接点として、体験としてサービスを提供しなければならない。時代にふさわしい、カシオらしいモノをつくる必要がある。
では何をつくるか。カシオの売れ筋は、やはり腕時計だ。二層液晶やセンサーなど、新技術を取り入れた腕時計を作りつづけてきた。時代にふさわしい腕時計ができるのではないか──そこからが長い、長い開発の始まりだった。
はじめにつくったのは、スクエア(正方形)デザインのスマートウォッチ。OSは独自で、いまのApple Watchによく似た試作品だった。
「最初はスマートフォンを小さくしようとしたんです。音声認識や、日常生活防水仕様を入れたりして。外装デザインは時計のデザイナーにお願いしました」
だが、結局このスマートウォッチが世の中に出ることはなかった。ボツになった理由は「何に使うのかはっきりしないから」。
「当時は『スマートウォッチ』という言葉がはっきりしはじめていたころくらい。でも、明確な用途や価値をお客さんにお伝えできる、文化をつくれる素地がないと会社としては認められなかったんですよね」
それではとコンセプトをねりなおし、2012年につくったのがスポーツ特化のスマートウォッチ。ランニング用にフォーカスした試作品を作りあげた。音声認識用のマイクを外す代わりに防水性能を高め、GPSモジュールものせた。カシオファンの心をくすぐる仕様になった。
デザインにもこだわった。ベルトなど細かい部分まで神経を配った。自信はあった。しかし、これもやはりボツになった。
「要はオーバースペックだと。ランニングやジョギングは通常同じコースを走るもので、距離や速度が測れれば十分。もともと時計事業部からスマホとリンクする腕時計が出ていたこともあり、これもお蔵入りすることになったんです」
何をやってもうまくいかない。プロジェクトは半年間、予算を凍結された。「どうしたら……」上司が苦悩に沈む中、坂田室長はじっと考えていた。
スマートウォッチとは、なんだろう。