Zenのクロックは3GHzと予想
2016年のComputexで公開か?
最後がAGUである。AVX命令の場合が一番クリティカルなのでこのケースで考えてみる。FMAC、つまり乗加算を同時に行なう以下のような演算をAVXで実行する場合だ。
Y=A×X+B
AとBが定数ならば、単にXを読み込んでYを書き出すだけで済むので、1サイクルあたり256ビット=32バイトというわけで、32バイト/サイクルのロードとストアーが同時に行なえれば理論上は間に合う。
もちろん、同じFMACでも例えば以下のように、XとYを読み込んでZを書き出すケースだとこれでは不足する。
Z=X×Y+B
インテルがHaswellでロードユニット×2+ストアーユニット×1という重厚な構成にした(関連リンク)のは、こうしたケースでもキャッシュへの帯域がボトルネックにならないようにという配慮である。
ただ先に書いたとおりAGUは2つしかないので、これを実現しようとするとAGUの帯域を64バイト/サイクルに増やさないとマッチしないことになるが、さすがにこれは考えにくい。現実問題としてそのあたりは割り切ったのだろうと想像される。
今回の推定図は、あくまでもZen用のパッチコメントからの情報と、Waldhauer氏との議論で出てきた内容を元に筆者が予想しているものなので、これが正確かどうかはフタをあけてみないと判断できない。
Waldhauer氏は、他にAMDの取得した特許情報などを元に自身の推定を補強しているが、筆者はそのあたりは今回採用していない。
いずれにせよ、すでにAMDはK12とZenをテープアウトしたことを第4四半期の電話会議で発表しており、製造に問題がなければ2016年のCOMPUTEXあたりのタイミングで動作するシリコンがお目見えするかもしれない。
最後に、Waldhauer氏は動作周波数として3.5~4GHzという数字を挙げておられるが、筆者はもう少し控えめな数字(~3GHz程度)ではないかと予想する。
これは利用すると思われるGlobalFoundriesの14nm LPE(LPPが間に合うかはタイミング的に微妙)、あるいはTSMCの16nm FinFET+が、3GHzを超えるとさすがに消費電力がバカにならないからだ。性能/電力比を重視すると、どうしてもプロセスに関してもあまり攻めた設定はしにくい。
そもそもTSMCにしてもGlobalFoundries(というよりSamsung)にしても、現在提供しているFinFETプロセスはいずれもモバイルSoC向けを主眼に置いたもので、ターゲットはせいぜい2.5GHz程度で、がんばっても3GHzというあたりだ。
下の画像は2014年のARM TechConにおけるTSMCの資料だが、だいたい2GHzあたりから消費電力が急増しており、おそらく3GHzでCortex-A57を動作させると2Wでは効かないだろうし、4GHzあたりは想像もできない。
Cortex-A57が1コアでこれなので、Zenクラスを4GHzで動かすのは無理だと思われる。このあたりの事情はGlobalFoundriesもほとんど同じである。したがって筆者は最大で3GHzという予測を立てている。
この連載の記事
-
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ