6号機まで生産するも
ソフトウェア開発で苦戦
というわけで、構成そのものを見るととても1970年代初頭に開発されたとは思えないほど先進的な機能が満載だったASCだが、ビジネス的にはいまひとつであった。
1971年、当時まだTIで製造途中だったASCの1号機はロイヤルダッチシェルに売却が決まり、1972年には2号機と3号機も契約が成立した。4号機はアメリカ海洋大気庁が購入、1973年に納入完了している。
ただ、例えば1972年にローレンス・リバモアやロスアラモス、ブルックヘイブンなどの国立研究所に対する応札では全部CDCのSTAR-100に持っていかれてしまうなど、かならずしも順調ではなかった。
5号機は1974年末にオースティン地震調査研究センターに納入され、6号機はGSIで利用された。これに続き、NOAHのコロラドオフィス(*)向けに応札したものの獲得できず、結局7号機は製造されずに終わった。ASCは1976年春にこれ以上の営業活動を打ち切ることになり、ここで終わった形になる。
※:Cragon氏の論文によればNOAHのコロラドオフィスということになっているが、これはスペルミスで実際にはNOAAもしくはNCAR(アメリカ大気研究センター)のコロラドオフィスではないかと想像される。ただしこれを確認できる資料がない。
ちなみにASCの性能がどの程度だったかについては興味深い数字がある。1973年初頭に2号機を使って、実際に弾性波探索のデータ処理をやらせてみたところ、当初は時間あたりわずか0.01マイル分しか処理ができなかったという。
ちなみに開発を打ち切ったTIAC 870を使った場合には毎時5マイルの処理速度だったそうだ。さすがにこれは問題があるということで、ソフトウェアの改善などを行なったことで、8月にはASCも毎時5マイルまで性能を改善したとする。
ただ問題はハードウェアというよりはソフトウェア側にあり、ASC上で稼動していたTIPEXというOS、それとFortranコンパイラをさらに改善することで毎時100マイルまで処理性能を上げる目処が立つところまではこぎつけたらしい。
ところがソフトウェアの改善はハードウェアの改善よりもさらに難しく、それを改善する十分な時間を得る前にASCのプロジェクトは終了してしまった。
ASCの後、TIはこうした大型システムの開発からは手を引いており、その意味では前回のBSPと同じような運命だったとも言える。ただASCに実装されたアーキテクチャー上の工夫はその後も広く参照され、さまざまなシステムに影響を与えたことは間違いない。

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