ウェアラブルコンピューターによって自らをアップするようになる
身体や肉体からの脱却を加速するテクノロジーの方向性と、身体や肉体への回帰に依拠するテクノロジーの方向性……。両者は真っ向から相反するもののようにも見えるが、眺める角度によっては、後者が前者の進歩に貢献していくようにも見える。
しかし、どちらにせよ通底しているのは“自分の体への関心”である。離脱を目指すにせよ、復権を目論むにせよ、近い将来、インターネットに人々が自らアップロードし、公開し、シェアし、そしてしばしば漏洩問題の火種になっていくのはこの身体情報にほかならない。
ウェアラブルコンピューターというと、現状、眼鏡型と時計型だけに注目が集まりがちだが、すでに文字通りのウェア=服へのコンピューターの埋め込み(縫い込み?)も実用に向けて動き出している。
Googleは今年5月、ジーンズメーカーの大手Levi Straussとの共同開発で衣服の布地から直接スマートフォンを操作する「Project Jacquard」と呼ばれるプロジェクトを発表した。いずれは衣服が直接ユーザーの身体情報を取得する未来も夢想ではあるまい。
Googleが公開しているProject Jacquardの紹介ビデオ。これまで、ファッションとITとの関係は「IT系プロダクトがファッショナブルになる」というかたちしか存在しなかったが、今後は「ファッション自体がIT化する」というかたちに転換していくだろう。もはやデザインの定義は形状や色彩といった範疇をさらに大きく逸脱していく |
そうした時代が到来したとき、人間の体にまつわる感覚、さらには挙動/動作も変容をきたすに違いない。
スマートフォンやタブレットPC以降の子供たちが、タッチパネルではないディスプレーにもつい「フリック」や「タップ」、「ピンチイン/アウト」などをしてしまうという例はよく聞く話だ。ウェアラブルコンピューターはシンギュラリティー(技術的特異点)に向けての大きなステップだけに否定や拒絶も少なくない。だが数年後にはわれわれの生活の中に、いつの間にか溶け込んでいる身近な技術になっていることだろう。
次週はもう少し違う角度からウェアラブルコンピューターについての問題を考えてみたい。
著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。現在、「エディターシップの可能性」をテーマにしたリアルメディアの立ち上げを画策中。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。
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