JavaScriptでもハード開発できるMpression for MAKERSとは?
メイカーズのものづくりを半導体商社として応援するマクニカ
2015年08月24日 07時00分更新
新しいものづくりの潮流として注目を集める「メイカーズムーブメント」に対応した部品の小売りを始めたマクニカ。JavaScriptやObjective-Cに親しんだソフトウェア屋でも開発キット「Mpression for MAKERS」で新しいユーザー層を掘り起こそうとしている。
高いエンジニア比率で技術商社の道を歩むマクニカ
40年もの歴史を誇る半導体商社マクニカ。シリコンバレーから買い付けてきた最新チップを国内のメーカーに販売するという既存のビジネスはもとより、最近はグローバル進出も進めており、M&Aによる海外売り上げ比重も高くなっている。また、販売するチップも標準ICから、FPGAやASSPなど付加価値の高いチップにシフトしており、アプリケーションに関してもコンシューマーデバイスやPCから、産業機器、医療機器や車載系などが増えている状況だという。
こうしたマクニカの最大の特徴は、全社で3割を占めるエンジニア。商社として珍しく、FAE(Field Application Engineer)サポートと開発のエンジニアを数多く抱えており、サプライヤーから高い評価を得ているという。「長年、シリコンバレーの半導体メーカーと手を携えて、ビジネスを展開している。最近では、こうした半導体メーカーがサービス化の方向にシフトしてきたり、ファブレスのハードウェアベンチャーが台頭してきたりといった動向があり、こうした一歩先の流れをつかんでいます」とマクニカの岡田裕二氏は語る。
最近では「Mpression」という技術ブランドで、キットの提供やそのキットを使って顧客の要望に応じて回路デザインを開発したり、IP(知的財産)としてインプリするところまで手がけている。「アイデアはあるけど、手段がわからないというお客様のために、需要創出のために、いっしょに考えていくというイメージです」(岡田氏)。センサーから得た情報をネットワークに流し、ストレージに格納して、ビッグデータ分析するといういわゆるIoTソリューションも、グループ会社であるマクニカネットワークスと共同で提供している。
個人やスタートアップが手軽に「ものづくり」できる時代に
こうしたマクニカが最近注目しているのが、個人やスタートアップが容易にハードウェア開発ができるようになってきたという「メイカーズ(MAKERS)」のムーブメントだ。最近では、オープンソースハードウェアや3Dプリンターの登場で電子製品のプロトタイプ開発が容易になったほか、幅広いファンからクラウドファウンディングを募り、開発の資金も得られるようになってきた。また、1000~1万個程度の小ロットでも製造を請け負ってくれるEMSが増えてきた。こうした市場動向により、個人やスタートアップが多額の設備投資なしで、新しいハードウェアが作れるようになってきている。
「ソフトの人がハードを作りやすくなってきたという文脈につきると考えています。スタートアップのソフトウェア会社や個人がセンサーや無線を簡単に使えるようになってきており、実際にもともとハードウェア屋ではないスタートアップがハードウェアを作るようになっているのが、最近の潮流です」(岡田氏)
日本でも「DMM.make AKIBA」のような開発・インキュベーション施設が登場してきたほか、アイデアをモノにするハッカソンも各地で開催されるようになっている。「大手のメーカーでは作れないようなモノを2枚目の名刺で作っている技術者も増えています。こういう会社公認ではない“ヤミ研”と言われていた個人の開発活動を取り込んで、開発スピードを上げていこうというメーカーも出てきた」(岡田氏)。
JavaScriptで書けるIoTの開発キット
マクニカもこうしたメイカーズムーブメントをサポートするため、前述したMpressionをMAKERS向けにパッケージ化し、これらを自社の「MACNICA Online Store」で小売りしている。「開発キットも、以前はハンダ付けが必要だったのが、今ではジャンパピンでプラモデルのように作れる。開発も高級言語が使えるので、ソフトウェア屋でも扱いやすい」と語る。
昨年立ち上げた「Mpression for MAKERS」の第一弾としてマクニカとユカイ工学が開発した「Koshian」のツールキットは、ユカイ工学のKonashiプラットフォームと使用することでBLE経由でiOSから簡単にハードウェアにアクセスできる開発環境を提供する。JavaScriptとObjective-Cで開発を行なえるため、Webやモバイル系の開発者も扱いやすいという。「われわれはある意味チップの提供や技術サポートだけでだったが、ユカイ工学さんとコラボすることで、Web技術者にとってもうれしい製品を作れるようになってきた」(岡田氏)。
さらに3軸加速度センサー、温湿度センサー、近接照度UV指数センサーなどを搭載する「Uzuki」などのセンサーシールドと組み合わせることで、スピーディにIoTデバイスを開発できる。I/Oのリード/ライトやコマンドなどプリミティブなコードを書くことで、センサーにアクセスできるので、Bluetoothの知識やファームウェアのインプリはいっさい不要。JavaScriptでソフトウェアエンジニアが手軽にハードウェアのプロトタイプ開発ができるという。
先日はマクニカは行なわれたMaker Faire Tokyo 2015にも出展し、ハンダ付けのワークショップを展開。Maker Faireのマスコットであるメイキーくんに多色LEDをハンダ付けできるほか、基板にKoshianを取り付けることで、iPhoneからの操作も可能になるという。
「ハードはタダ!」はチップ屋にとっては衝撃
今年はよりプロ向けのキットとして、マイコン、センサー、FPGAまで載った「Odyssey MAX 10 FPGA Evaluation Kit」も発売。今後はセンサー類の種類も増やしていくという。「わわれれとしては歪み検知や気圧などプロ向けのセンサーもどんどん出していこうと。脈絡はないかもしれないが、アイデアを持っているスタートアップが、思いも寄らない使い方をしてくれるのではないか」と岡田氏は期待する。
とはいえ、今まで大手メーカーにチップを販売してきたマクニカからすると、クラウドやIoTをベースとするスタートアップの考え方はかなりインパクトのあるものだという。「今までセンサーはスペックや値段が選定ポイントであったが、こうしたお客様にとってはそれではアピールしない。モノ自体というよりモノを使ったコトの方が重要という考え方です。ハードウェアはタダでばらまいて、取得したデータで商売するというのも、チップ屋からすると衝撃です」(岡田氏)ということで、発想の転換を余儀なくされているようだ。
とはいえ、新しいスタートアップがものづくりの国で存在感を増してくるのは必定。マクニカとしては半導体の裾野を拡げると共に、メイカーズたちが活躍しやすいような土壌を作っていきたいという。