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未来を描くスタートアップとマイクロソフトのストーリー 第7回

旅行バスの運転手出身の濱川さんが行き着いた日本の美学

世界に誇れる「おもてなし」を発信するOMOTENASHI

2015年08月12日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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OMOTENASHIというちょっと風変わりな社名は、「日本の“おもてなし”を世界中の辞書に載せよう」という同社の社是を表わす。おもてなし自体を定義し、実行できるようメソッド化し、教育コンテンツとして提供することで、日本の製品やサービスに息づく“流儀”のグローバル化を目指している。

旅行バスの運転手から「コミュニケーション」の道へ

 2013年の国際オリンピック総会で滝川クリステルがアピールした日本の美学「OMOTENASHI」を世界に広めるべく、そのメソッドを形式知化し、教育コンテンツとして提供しているのがOMOTENASHIだ。

 OMOTENASHの代表取締役で、自ら“チーフおもてなしオフィサー”を名乗る濱川智さんは、もともとマーケティング畑出身で、顧客分析の専門家。さらにマーケティング職に移る前は、なんと旅行バスの運転手だったという。ユニークな経歴を持つ人の多いIT業界の中でも、とびぬけて異色の経歴の持ち主と言える。

 旅行バス時代の経験は、その後のマーケティング職、そしてOMOTENASHIの起業にも大きな影響を与えているという。濱川さんは「同じルートを行く旅行でも、お客様がとても喜んでくれるときもあるし、クレームになるときもある。でも、本当によかったと言ってくれるお客様がいたとき、なにがよかったか考えると、やはり人と人とのふれあいや体験なんですよね。きれいなホテルより、気のいいおばちゃんのいる旅館の方がよかったりするんです」と語る。

OMOTENASHI代表取締役/チーフおもてなしオフィサー 濱川 智さん

 絶景よりも、添乗員のひたむきさの方が旅行の体験を上げることに気がついた濱川さんは、旅行バス事業が廃止されたのをきっかけにバス会社を退職。「斜陽産業はもうこりごり」(濱川さん)と、当時伸び盛りだったインターネット業界に飛び込む。しかし、人相手の商売をしていた濱川さんにとって、人が不在のインターネット業界に違和感があったという。そこで視覚のみならず、音声の視聴や操作性を多くの人に最適化するユニバーサルデザインにのめり込むことになる。

 その後、マーケティングのコンサルティング会社を興した濱川さんは、顧客分析への洞察を通して、日本独自のおもてなしという美点に気がつくことになる。「長らく顧客を分析している中でわかったのは、やはり商品よりも体験でロイヤリティが上がるということ。これからはストーリーや体験で、もっとも重要なのが“おもてなし”だと悟った」(濱川さん)

 こうした気づきから、濱川さんのコンサルティング会社の社名をOMOTENASHIと変え、ピコもんの大前創希氏とともに研究開発と人材開発を軸にした教育ビジネスに軸足を移すことになる。また、おもてなしにまつわるコンテンツサイトである「おもてなし感動研究所」もあわせて展開。旅行バスでの運転手の経験、人不在のインターネット業界とユニバーサルデザイン、そして顧客分析の先に見つけたおもてなしの美学は、濱川さんの中で1つの幹として屹立しているという。

世界に通用するおもてなしをブランド作りに

 では、濱川さんにとって、おもてなしの定義とはなにか? 「ある人にとっては礼儀作法だし、ある人にとってはお客様にお料理出すこと。実際、おもてなしの語源は“もって”“なす”なのですが、なにをもってなにをなすかが定義されていない。つまり、その場そのときで何をなせばいいか考え、実行することがおもてなしだと考えています」と濱川さんは語る。

 プロフェッショナリズムや妥協しない姿勢、顧客と対等の立場での共創などが込められたある種の"流儀”をもって、顧客につくすおもてなし。こうした日本の仕事や商品、サービスに息づくおもてなしの概念は世界でも評価が高い。実際、ユーザー体験を提供するアップルやスターバックス、ディズニー、ザッポスをはじめ、おもてなしに当たる概念を取り入れているグローバル企業も増えている。でも、おもてなしを歴史上一番古くからやってきた本家本元の日本で、おもてなしが価値として見出されていない。ここがOMOTENASHI設立に至る濱川さんの思いだ。

 「おもてなしは世界に通用する日本の資源で、マーケティングの本質を変えると思っている。これからの企業に必要なのは、欧米企業のような競合との差別化ではなく、お客様と“共創”するブランド作り。これは日本の老舗がやってきたおもてなしから学べるのではないか」(濱川さん)

 濱川さんによると、おもてなしは顧客が求めているものを見極める「観察力」、顧客のニーズをどう満たすかを考える「想像力」、そして考えたことを実行に移すための「技術力」の3つの構成要素から成り立つという。このうち技術力に関しては日本の企業もかなり教えているが、前段となる観察力と想像力がないと、感動的な体験までは至らないという。

 「今までおもてなしは暗黙知だったので、名物女将やカリスマコンシェルジュに一子相伝で学ぶ必要があった。そもそも、教育業って講師に依存する部分が大きいが、僕らはそれを否定している。僕らはメソッドにしていきたい。誰がやっても必ず能力が開花するというものを作れないと、次の世代にまで語り継げない。だから僕らが誇れるのはコンテンツ。そして、それを作るための研究と体系化がコアコンピタンスになる」(濱川氏)

(次ページ、おもてなしを形式知としてメソッド化)


 

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