黒の再現がスゴイ! 大型化が進む有機ELテレビ
先ほども触れた通り、今発売されている4Kテレビは、来年以降の8K/4K試験放送や、ULTRA HD Blu-Rayの技術仕様は満たしているので、受信用チューナーや対応プレーヤーなどを追加すれば、きちんと映像を表示できるし、画質の良さも実感できる。
とはいえ、画質や音質というのは、今後もますます進化していく。放送やコンテンツの質が高くなれば、それをより良く表示できるようになるはずだ。というわけで、今後注目すべきハード側の新技術などを見ていこう。
まず、一番の注目株は、「有機EL」だ。パネルメーカーのLGディスプレーが量産化に成功し、LGエレクトロニクスが製品化を行なっている。すでに国内にも4K解像度の「55EG9600」と、フルHD解像度の「55EC9310」を発売しているので、その実力を目の当たりにした人も少なくないだろう。
有機ELは、電気を流すと発光する特性を持つ有機素材を使い、ひとつひとつの画素(およびRGBで構成されるサブピクセル)を個別に発光させる自発光型のディスプレー方式だ。
液晶との違いで言うと、画素自体が発光するので光源となるバックライトが不要になるという点が最大の違いだ。このためさらなる薄型化が可能になるし、将来的な技術として折り曲げ可能なフレキシブルディスプレーなども研究されている。
LGエレクトロニクスの製品は、そのあたりをアピールするためか、ディスプレー部の上半分は極めて薄いデザインだし、画面がゆるやかに湾曲したカーブドデザインを採用している(世界的に見るとカーブドデザインは主流になりつつあり、海外向けは液晶テレビでもカーブドが増えている)。
有機ELの最大の特徴は、圧倒的な高コントラストだ。なんと言っても黒は完全な非表示が実現できるから、黒方向の再現性という意味では絶大な性能を誇る。
液晶は前回解説したように光源となるバックライトの光漏れが生じるし、プラズマテレビも(わずかではあるが)次の発光のための予備放電(種火を付けておくような状態)が必要で、黒表示でも完全に消灯しているわけではない。
ところが、有機ELは完全な消灯が可能なので、完全な真っ黒が表示できる。いじわるな見方をすると残光特性(点灯した画素の光が完全に消えるまでの時間)によって、動画を見ていると多少光の残る可能性はあるが、実機を見た経験からすると、暗室に近い環境で動画を見ていても残光のようなものはまったく気にならなかった。いずれにしても、黒の再現性に関しては「今まで見たことがない」レベルの本物の黒が再現できていると感じた。
RGB+Wのサブピクセルを採用して輝度を補強
ここからは、LGエレクトロニクスの有機ELテレビをモデルとして、もう少し詳しく有機ELの仕組みを解説していこう。
まず、LGが採用したのはWRGB方式。これはRGB(赤・緑・青)の三原色に加えて、白のサブピクセルを追加したもの。白のサブピクセルは画面の輝度を補助するために追加されている。
そして、RGBのサブピクセルも発光色自体はすべて「白」だ。ここから、赤、緑、青の色を取り出すカラーリファイナー(カラーフィルター)を通すことで三原色を表現している。ここには、メリットとデメリットがある。
メリットは量産性が優れること。国内メーカーが研究し(結果としてどこも量産化できずに撤退した)RGB有機ELはサブピクセルのそれぞれが赤、緑、青で発光する。そういう有機素材を個別に使用するためだ。
純度の高い三原色の再現という意味では、白色から三原色を取り出すより、最適化された三原色をそのまま発光する方が有利だろう。だが、量産化は成功しなかった。
この理由は、RGBのための有機素材の蒸着を3回行なう必要があるためだ。実際には、ほかのサブピクセルに蒸着しないためのマスキング→蒸着×3回の工程となる。4Kテレビは画素単位でも肉眼で識別するのが難しいレベルの高精細だ。画素にして約800万、サブピクセル数はRGBでも約2400万となる。
これをミクロン単位の精度でマスキングして蒸着、しかも3回連続で成功させるのがどれほど難しいかは想像しやすいだろう(プラモデルのマスキング塗装をしたことがある人ならば特に)。
LGのWRGB方式は、すべて白色。だからマスキングの必要がなく、蒸着の工程も1回だ。これで量産性は単純計算でも軽く3倍以上になるだろう。それでも量産化の成功までには相当な苦労があったようだ。
(次ページに続く、「有機ELテレビは明るさが弱点と言われるが……」
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