ダスキン事業と中小企業の経営コンサルティングをビジネスの中核に据える武蔵野は、約500台のiPadとデータベースアプリ「FileMaker」で業務品質の向上とペーパーレス化に取り組んでいる。6月18日、アップルストア銀座で行なわれた事例紹介イベントをレポートする。
iPad+FileMaker Goでリアルタイムな情報共有
清掃品のレンタルや清掃代行、高齢者サービスなど「ダスキン」のフランチャイズで知られている武蔵野。名物経営者社長として知られる小山昇社長のもと、2度の経営品質賞を受賞している武蔵野は、中小企業の経営品質を改善するコンサルティングを手がけており、すでに500社以上の経営指導を手がけている。今回登壇した武蔵野の千葉真也氏もこの経営サポートの部門に所属しているという。
わずか4台からスタートした武蔵野のiPadプロジェクトだが、現在(2015年6月時点)ではすでに478台のiPadが社内で動いているという。iPadとFileMaker Goを導入する以前、同社ではチェックリストを紙に印刷して必要事項を記入。チェックが終わったあとは、PC上のExcelに転記し、紙自体をファイルとして保存していた。しかし、iPadとFileMaker Goを導入した後は、紙を印刷する必要がなくなり、リアルタイムに情報共有ができるようになったという。
iPad+FileMaker Go活用の一例として、千葉氏が挙げたのは「環境整備点検」だ。小山社長の発案による環境整備点検は、小山社長や同社の幹部が事業部や営業所を回り、整備、清潔、規律が行き届いているかをチェックするもの。「掲示物は4箇所がきちんと止められ、水平に掲示されているか」「床はきれいか。ゴミは落ちていないか」など数多くの項目が4週間に1度の割合でチェックされ、改善サイクルが回るようになっている。
同社では、紙ベースでやっていたこの作業をiPad+FileMaker Goで行なうようにし、ペーパーレス化を実現したという。FileMakerはマルチプラットフォーム対応のデータベースアプリで、FileMaker Goは「ノンプログラミングでアプリが作れる」を謳うiOS版となる。武蔵野ではFileMaker Goの導入により、今まで30~1時間かかっていた転記の作業もなくなり、集計や結果の可視化もリアルタイムに行なえるため、時間短縮に大きく貢献したという。「ゴミが落ちている場合は、それをiPadのカメラで撮影し、登録できるようになっている」(千葉氏)。その他、セールス研修や営業の進捗管理などもこのiPad+FileMakerで実現されており、スピーディな情報共有が可能になったという。
魔法のようなデバイス配備を実現するDEP
とはいえ、従業員の数を大きく上回るiPadを少ない人数で運用するのは、かなり大変な作業だ。そこで、同社ではアイキューブドシステムズのクラウド型の「CLOMO MDM」を導入し、運用負荷の軽減とセキュリティの徹底を実現している。「iPadが盗難にあったり、置き忘れた場合に、その情報を素早くキャッチしたり、最悪見つからない場合は初期化することもできる」と千葉氏は語る。過去、社内で紛失してしまったiPadを初期化することで、情報漏えいを未然に防ぐことができたという。
CLOMO MDMではデバイスやアプリ、通信状態などの情報を詳細に収集できるほか、カメラやアプリの利用制限をかけることが可能だ。また、盗難や紛失が起こった場合に、管理者側からロックや初期化も行なえる。モバイルならではのセキュリティ課題に対して、確実に対応し、すでに数万台規模の導入事例もあるという。
アイキューブドシステムズの西園義行氏は、アップルから提供されている「Device Enrollment Program(以下、DEP)」についても言及した。DEPは、今まで1台ずつMacにつないでいたキッティング作業を効率的に行なえるプログラムで、「魔法のようなデバイス配備を可能にする」という。これは事前に用意した構成プロファイルをダウンロードさせることで実現しており、デバイスのアクティベーションを省力化し、MDMへの登録も漏れがないようにできる。西園氏は「MDMの管理下から離脱するための『削除ボタン』を表示しないよう設定できる。DEPを使うことで、確実に、速く、デバイスを管理できる」と説明した。
盗難や紛失対策のみで基本は自由に使う
続いて行なわれたパネルディスカッションでは、ファイルメーカーの佐々木輝氏をモデレーターに、武蔵野の千葉氏、アイキューブドシステムズの西園氏、武蔵野へのFileMakerの導入支援を担当したU-NEXUSの横田志幸氏が参加し、導入までの経緯や運用管理について語り合った。
まずなぜiPadか? これに対して、千葉氏は「弊社の小山(社長)から紙だと個人管理になるので、iPadでみんなで共有できるようにしてほしいと言われたのがきっかけ。PCだといろいろ制限があるが、iPadであれば全員が共通の道具として利用できる」とトップの意向であると説明。こうした意思決定の元、FileMaker Business AllianceのU-NEXUSがiPadとFile Makerのシステムを提案し、武蔵野での導入が進んだ。
ユニークなのはアプリケーションの開発をユーザー企業側の千葉氏が行なったという点だ。千葉氏はU-NEXUSに3ヶ月出向し、FileMakerの開発について学んだ。「U-NEXUSさんでFile Makerを勉強させていただき、その後社内の定着につとめた。小山と一緒に環境整備点検に同行し、改善を積み重ねてきた。その経験から、File Makerはスピーディに直せるなという印象がある」と千葉氏は語る。千葉氏の“武者修行”を受け入れたU-NEXUSの横田氏も、「お客様には魚を提供するのではなく、魚の釣り方を提供するのがよいと考えている。会社の中でITが進められるようにするのが一番」と応じる。
一方、CLOMO MDMを導入したのは、iPadの数が100台を越え始めた頃。U-NEXUSを介しての導入は、特に苦労はなかったという。「武蔵野さん自体が、細かい制限なく、自由に使いましょうという発想が根本にあった」とのことで、MDMの導入でユーザーの利用に制限をかけなかったのが成功の秘訣だったようだ。アプリも含め、ユーザーには自由に使ってもらうというのが、小山社長が考えるiPadの利用コンセプトというわけだ。とはいえ、盗難や紛失への対策はきちんと行なっており、「環境整備点検の例からもわかるとおり、武蔵野さんのオフィスはとにかくきれい。紛失する感じではない」(ファイルメーカー 佐々木氏)という。
千葉氏は「小山は“空中戦”と呼んでいるのですが、今後も個人管理だった紙の業務をペーパーレス化し、iPadやFileMakerを中心に現場での情報共有を進めていく」と語る。