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未来を描くスタートアップとマイクロソフトのストーリー 第2回

視線追従でディープな没入感を実現する新世代HMDがいよいよラウンチ

情熱のゲーム女子と百戦錬磨のエンジニアが描くFOVEの仮想現実

2015年06月18日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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FOVE(フォーブ)は視線追跡を導入した新世代ヘッドマウントディスプレイ(HMD)。ゲームのキャラクターとのアイコンタクトできる新しい仮想現実体験を提供する。CEOの小島由香さんとCTOのロックラン・ウィルソンさんに、起業の経緯と技術の独自性、さらにはロンドンでのアクセラレータープログラム体験について聞いた。

仮想現実に「没入」できる新世代HMD、さらに「視線で操作する」世界へ

 没入感の高い仮想現実体験を実現できる、新世代のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を開発するFOVE。「Oculus Rift」ほか一般的なHMDとFOVEとの最大の違いは、“視線追跡”を仮想現実の世界に導入した点だ。

 FOVE HMDでは、網膜、頭の位置、方向センサーなどの情報を組み合わせ、ユーザーの視線移動をリアルタイムに追跡する。ユーザーが視線を合わせた部分を中心にレンダリングされるため、すべてに焦点が合っている通常のHMDに比べてはるかに高い奥行き感が得られる。その結果、FOVEでは、あたかも自分が仮想空間に存在していると勘違いするような没入感が得られる。この「没入感」は、FOVEを理解する上で重要なキーワードだ。

あたかも自分が仮想空間に存在していると勘違いするような高い没入感を得られるFOVE HMD

 リアルタイムな反応性が重要なゲームでの利用を前提としているFOVEでは、視線追跡のエンジンをイチから設計・開発しているという。FOVEのCEOである小島由香さんは、既存のHMD技術の課題について次のように指摘する。

 「従来の視線追跡は“秘伝のたれ”を継ぎ足すがごとく、技術の積み重ねで実現されてきました。しかし、ユーザーがどこを見ているかのテストなどを想定しており、リアルタイム性は追求されていなかったのです」(小島さん)

 さらに現在、FOVEが挑んでいるのは、仮想現実を「操作する」ことだという。現在のHMDは、仮想現実の中に“いる” 体験を与えてくれる。しかし、HMDとマウスという現在の組み合わせでは、仕組み上どうしても視差の誤差が生じるという。そこで、FOVEをはじめとする次世代のスタートアップは、仮想現実の世界を“操作する”段階に移っていると小島さんは説明する。

 「マウスで奥行きのあるものを狙おうとすると、ユーザーは奥行きを想像する。でも、右目と左目で見ているところが違うので、マウスだと絶対に狙いがずれてしまうんです」(小島さん)

 こうした操作性の弱点を補うため、他社はモーションコントローラーやハンドトラッキングといった技術を採用しているが、FOVEは視線による仮想現実の操作を開発している。

 「視線追跡は、他のアタッチメントを使用しない一番優れた操作系統。ハンドトラッキングと組み合わせて、ユーザーが見ているところを狙うなど、他の操作系統との相性もいい」(小島さん)

FOVE CEO 小島由香さん

アルゴリズムをイチから作れるウィルソンCTOとの出会い

 FOVEの誕生は2年前、当時ソニー・コンピュータエンターテインメント(SCEI)に所属していた小島さんが、社内公募で応募した企画に端を発する。

 「もともと漫画家志望だったこともあり、キャラクターとコミュニケーションができる物語を作ってみたかった。だから、プロデューサーとして、『PlayStation Vita』のフロントカメラとアイトラッキング、表情認識の技術を組み合わせ、キャラクターとコミュニケーションをとるゲームを企画しました」(小島さん)

 しかし、プロジェクトは半年で凍結。憂き目を見た小島さんは、このアイデアを実現すべく、語学留学時代の友人だったエンジニアのロックラン・ウィルソンさんに連絡をとる。この2人の出会いが、FOVEの起業につながっていく。

FOVE CTO ロックラン・ウィルソンさん

 学生時代、コンピューターサイエンスや数学を専攻していたウィルソンさんは、プログラミングや数学での問題解決、ハードウェア開発、プロトタイピングなど豊富な知識と経験を持つスペシャリストだ。小島さんはウィルソンさんについて、「数学を専攻しているので、アルゴリズムを基礎から作ることができる。0から1、あるいは0から10くらいまでを作れるスキルセットを持っている」と高く評価する。

 「なければ作ろう」ということで、熱い情熱を持つ小島さんと百戦錬磨のウィルソンさんとが2014年3月に立ち上げたのが、FOVEである。

 当初はスマートフォンやタブレットを利用する予定だったが、理想とする没入感が実現できないことがネックだった。「(スマートフォンやタブレットは)距離が遠くなると精度がキープできず、没入感も得られない。2人でラーメン食べながら、専用のHMDを開発することに決めました」と小島さんは振り返る。

ロンドンで得たもの、日本に戻って得たもの

 2014年7月、FOVEは日本で初めてMicrosoft Venturesのアクセラレータープログラムに採択され、同年9月にはロンドンに渡っている。

 「『XBox』のメーカーとしてマイクロソフトとの関係を作ろうとしていたら、Microsoft Venturesの存在を知り、ゲームに特化したロンドンでのアクセラレータープログラムに参加することになりました」(小島さん)

 ロンドンのプログラムでは、大学のように毎日講義があり、スタートアップの成功者たちが語る体験談を聞いたり、ピッチ(プレゼンテーション)トレーニングをしたりする機会が与えられた。

 トレーニングプログラムの雰囲気について、小島さんは「『才能の種を集めて育てる』という感じで、とにかく参加者のレベルは高かった。とても楽しかったので、皆さんも武者修行気分で行った方がいいと思います」と語る。またウィルソンさんも、「伝えたいこととセンスがあれば、英語のピッチでも十分受け入れてもらえる」と、スタートアップを前向きに支援する同プログラムの姿勢を評価する。

Microsoft Venturesを統括する日本マイクロソフト デベロッパーエバンジェリズム統括本部 オーディエンステクニカルエバンジェリズム部 部長 砂金信一郎氏とFOVEの2人

 一方で、ロンドンから戻った2人は、ハードウェアを開発する環境としての日本の良さにもあらためて気がついたという。たとえば、ロンドンでは発注から1カ月は待たなければ手に入らないような部品も、日本ならば秋葉原の店頭で買える。特注部品を発注したり、メーカーのR&Dとコンタクトをとったりするのも容易だからだ。

 「米国では『こんなのプロトタイプでもすぐには作れない』と言われましたが、日本だったら2週間でできました」(ウィルソンさん)

 日本で開発拠点を置きながら、米国でビジネス開発を進めるFOVEのスタンスと言える。

(次ページ、仮想現実を操作し、さらにキャラクターと心を通い合わせる)


 

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