「『嘘だろ?』という製品もあった」
特別展示に際し、カシオ計算機取締役 専務執行役員 時計事業部長の増田裕一氏がプレゼンテーションを実施した。
これまで数々の製品に関わってきたという増田氏は「現在、Apple Watchやスマートウォッチが話題になっている。弊社は30年以上前から、時計に時刻だけではなく様々な情報を計測・表示する機能を付与してきた。当時のことなので技術は拙かったかもしれないが、情報機器を装着する場所として『腕』は一等地だと、数十年前から考えている」と語る。
ただ、製品開発にあたって技術を先行させるため、コンセプトが伴わない場合も多くあったようで、「当時は真剣に開発していたのだが、今になってみると『嘘だろ?』と思うような製品もある。開発してから『さて、何に使えばいいんだろう』と考えなければならない場合も多かった。たとえば放射温度計機能を搭載した『TSR-100』は、F1のタイヤの温度を測ったりとか、スキーの時に雪温を測るとか、スポーツに結び付けて売り出したのだが、結局は天ぷら油の温度を測るのに一番便利だ、という反応をいただいた」という。
実は、現在の売上高はG-SHOCKブームの時よりも高い
スマートウォッチの元祖とも言える製品を数多くリリースしてきたカシオ計算機だが、一方で、「多機能デジタルのウォッチには成長の限界がある」と増田氏は指摘する。
「2003年頃までの時計事業の成長を見ると、G-SHOCKがヒットした1997年は大幅に売り上げが伸びているが、その前後を除けば、1990年から業績は700億円前後で伸び悩んでいる。当時の製品の多くはガジェットとして面白いものであったかもしれないが、おそらく一般の人々まで広がっていなかった」。
こうした背景から、カシオ計算機は多機能デジタル時計の経験で得たデジタルエンジンなどの資産をアナログウォッチに活かすよう方針を転換。シンプルな目的に対し機能を高める「高機能アナログ戦略」に舵を切ったところ、年度別の連結売り上げ高が徐々に上昇し、2014年にはG-SHOCKブーム時を超える過去最高の売上高を達成したのだという。
2016年のCESに向けスマートデバイスを開発中?
スマートウォッチに対しては、「現在のスマートウォッチは、スマートフォンに従属するデジタル機器としての使い勝手が基本。ベネフィットはあるが、消費者のメインストリームに入り込むにはまだ遠く、生活に入り込む何らかの新しい技術が必要だと思っている。EDIFICEシリーズのような現在のカシオ計算機のスマートウォッチは、腕時計としての使い勝手を最優先し、スマートフォンとの連携もしつつ、アナログ時計の表現力を絡めた製品を提供している。Apple Watchのような製品もこれから進化を続けていくだろうし、我々もスマートウォッチにアナログのアプローチを試み、いずれはそれぞれが『本当にスマートになる』時期が来ると思う」としている。
ただし、会社としてデジタル的なアプローチを全く試みないわけではなく、時計部門とはプロジェクトを完全に分けた新規事業として、Apple Watchのようなリストデバイスの開発に着手しているとのこと。「何がお客さんに本当に受け入れられるのか、まだ各社は手探りの状態。今までの経験を活かしつつ、開発を続けていきたい」と話を結んだ。なお、新規事業のリストデバイスについては、プレゼンのスライド資料に「upcoming in CES 2016」の文字が見られたので、来年1月のCESで何らかの発表を期待できそうだ。
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