ホールの音響にも時代時代に合ったトレンドがある
佐武 ホールにも個性があるというお話でした。それではより深く、東京芸術劇場の個性について聞いていきたいと思います。
石丸 これについては2つお答えしないといけません。まず、2011~2012年の改修工事によって響きが大きく変わりました。改修前の響きは割合“カチッ”とした固めの音、つまり音がストレートに飛んでいく癖を持っていました。改修後は響きがやわらかく、ふくよかなものに変わりました。
もうひとつ。クラシックの世界にもトレンドがあって、常に好みが揺れ動いているんですね。現代はファットで芳醇な響きが好まれる傾向があるということです。ただしこれは前が悪くて、今が良いということではありません。
佐武 なるほど! ファッションと同じで流行があるんですね!!!!
石丸 はい。食べ物でも、濃コクとかコクまろとか付けると売れますよね。それと同じなんです。でも50年後、100年後にはこの好みがまた変わっていくでしょう。25年前に東京芸術劇場がオープンした際には、キラリと輪郭がハッキリとして直接音が飛んでくるような響きが良しとされました。
その後、25年という時間が経過して、音がちゃんと飛んでくることは当たり前で、もっと豊かで芳醇な響きが欲しいという声へと変わってきました。それが改修のきっかけにもなったんです。
久石譲のサントラ『風立ちぬ』の収録もここ東京芸術劇場で
佐武 ホールにはどんなお客様がいらっしゃるのですか?
石丸 本当に多彩ですよ。老若男女区別なくいらっしゃいますし、筋金入りのクラシックファンもいれば、テレビドラマやアニメの劇中で使われたクラシック音楽に興味を持ってコンサートに訪れる人もいらっしゃいます。
佐武 私ぐらいの世代の子だと、少し敷居が高いと感じるかもしれないですね……特にパイプオルガンを目の前で見ると、神様的!? というか厳かな雰囲気がありました。チケットを手に入れてもどんな服装で行ったらいいんだろうかなんて考えてしまいますよ!!!!
前田 (笑)
石丸 東京芸術劇場は都の施設なので、比較的安価な料金で利用できます。ですからチケット自体も手に入れやすい価格で販売されることが多いのです。そういう意味では若い人や、クラシックコンサートを体験したことがない人にこそ来ていただきたいですね。服装についても、ここで普段しないおしゃれを楽しんでほしいと思っています。たとえばお姫様気分でいつもとは少し違う雰囲気を味わうといった楽しみ方もできるのではないでしょうか。
佐武 なるほど! ディズニーランドに行くなら仮装しようと思うのと同じように、服装からコンサートを楽しむってことなんですね。
石丸 はい。非日常のおしゃれを楽しんでほしいです。
佐武 すごく素敵な言葉です! フォーマルな服装を選んだりするのは大変そうだなと思っていたのですが、そこもまた楽しめばいいんですね。ありがとうございます。私でも行けそうな気がしてきました(笑)。
前田 実際、若い人だってたくさんいらっしゃいますよ。逆にチケットの料金が高いコンサートほど、若い人が多かったりもします。耳の肥えた若い音楽ファンも多いですし、音大生や親子でという方もいらっしゃいます。それからカップル。少し贅沢な気分でデートを楽しんだりとか。
佐武 その選択はおしゃれですね!!
前田 先日もX JAPANのYOSHIKIがアコースティックピアノを使ったコンサートでここを使いました。ポピュラー音楽のオーケストラ形式による演奏会で使われる機会も多いんです。例えば久石譲さんの『風立ちぬ』。その録音は東京芸術劇場で行われたんです。響きがいいからと言って、作曲者自身の希望で選ばれたようです。
佐武 本当ですか!! さまざまなアーティストがこのホールの魅力の虜になっているってことの表れかもしれません。

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