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コンプガチャ規制についての考察 第1回

規制に論拠はあるか

コンプガチャ規制は政策として誤っている

2012年06月16日 09時00分更新

文● 田中辰雄

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(2)絵合わせはなぜ禁止されたか

 ここから私の見解を述べてみよう。まず、そもそも絵合わせはなぜ禁止なのかを考えてみる。当時の報道などを見るとこれが禁止されたのは、子どもが食べきれないほどのお菓子を買い、社会問題になったからだとされている。その理由を当時の報道を手掛かりに私なりに整理してみると次のようになる(実施したのは当時の公正取引委員会である。当時の簡単な要約はこちらにある)。

絵合わせについて解説する日本広告審査機構の公式サイト

理由1)購入者が確率を評価できない子供であり、だまされやすかった

絵合わせの仕組み上、カードは最初はそろいやすいが、次第にダブりが増えてそろいにくくなってくる。子供はこのような確率の仕組みを理解せず、すぐにでも揃いそうな誤った期待を抱く。

理由2)本来の商品より景品の方が中心になった

景品は本来、お菓子のおまけにすぎないのにかかわらず、景品目当てで大量にお菓子を買い、お菓子を捨てる子供が出たりした。景品表示法はそのような本末転倒は望ましくなく、景品は元の商品の価値を大きく超えてはならないとされており、これに違反した。

理由3)不公正な確率操作が行われた。

カードは等しい確率では入っておらず、特定のカードだけ出にくくなっている例がほとんどだった。買う人は通常はどのカードも等しい比率で入っていると考えているので、結果的に購入者をだますことになった。

 このなかで理由3は説明を要する。たとえば10枚そろえるとして、9枚はすべて1割程度の確率で入っているが、最後の1枚だけ1%の確率でしか入っていないとする(巨人軍のカードでは監督のカードだけ極端に出にくかったといわれる)。

 通常、買った人はすべてのカードが同じ確率で入っていると思っているので、最後の1枚も同じように出るはずだと思って、何度も買い続けることになる。

 この不合理さは実際に現場に立ち会うとよくわかる。私の子供のころにはまだ絵合わせ景品つきのお菓子が残っており、近所の駄菓子屋で売られていた。その駄菓子屋には毎日のように来る子供がいて、店主に「F出た?」と聞いていた。この絵合わせはアルファベットでAからZまで26種類カードをそろえるが、Fのカードだけが出ないのである。

 その子供はあとは全部そろい、Fだけあれば賞品(もう忘れたが、子どもにはありえないような豪華な商品であった)がもらえるとつぶやいていた。ところが引いても引いても出ない。それでもあきらめきれず、Fが出た子が他にいないかを聞くためだけに、その子は毎日駄菓子屋に来て店主に聞いているのである。

 店主に出ていないと聞いて、悲しい顔をして帰っていた子供の顔はよく覚えている。このお菓子の製造業者はFのカードはそもそも入れていなかったのではないかとも思う。子供はFがいつかは出るはずだと信じていたに違いない。このように子供をだますようなやり方は許せないと親なら思うだろう。

 お菓子業者の側にも言い分はあっただろう。お菓子のカードの場合、子ども同士でカードの交換ができるので、実はあっというまにそろってしまう。

 アルファベット26枚分を一人で集めるのは至難であるが、友人10人くらいで不要カードを交換しながら集めればすぐにそろってしまう(この点からいえば、実は理由の1は深刻な問題ではなかったことになる。なお、コンプガチャでは、この点を勘案してコンプのカードはコンプ実施期間中はユーザ間での交換が不可になっている)。

 したがって、業者としてはどれか特定1枚の出現率を減らさないと、景品くじとして成立しない。その特定1枚の出現率が、実は景品に当たる真の確率である。しかし、そんなことは子供は知らないので、同じように出てくると思って最後の一枚を求め続け、結果としてはだますことになってしまう。

 もちろんすべてのカードの出現率を等しくするように規制する手もありえる。しかし、すでに述べたように子どもがカードを交換できるので容易にそろい、くじとして無意味化する。また、お菓子は中小業者が多くて等確率にしているかどうかの検証が難しかっただろう。

 さらに理由2に述べたように、そもそも景品はお菓子本体ではないので、禁止してもお菓子の売り上げに大きな打撃はない。絵合わせを禁止してお菓子会社の株が急落するとも思えない。このように考えれば、当時、絵合わせは禁止してしまうのが政策のコストと効果から考えてもっとも合理的な選択だったのだろう。かくして絵合わせは禁止され、一応の決着を見た。

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