GPU黒歴史の今回は、インテルが今までに唯一発売したディスクリート向けのグラフィックチップである「Intel 740」の話をしたい。グラフィックコアそのものは、インテルもチップセット「Intel 810」以降延々と作り続けているが、このIntel 810に搭載された「IGT」(Intel Graphics Technology)の元となったのが、Intel 740である。
GEグループのフライトシミュレーター部門から
スピンアウトして誕生したReal3D
Intel 740が登場する前の話になる。1993年、米国のGeneral Electric(GE)グループで軍用機関連ビジネスを行なっていた「GE Aerospace」という部門が、兵器/航空機メーカー大手のロッキード(現ロッキード・マーチン)に買収された。このGE Aerospaceの中でフライトシミュレーターなどを手がけていた部隊がスピンアウトして、「Real3D」という会社を設立する。
Real3Dという会社名に聞き覚えのある方もいるかもしれない。同社の最初の仕事は、セガと組んで業務用ゲーム基板向けのグラフィックチップを作ることで、これが「Sega Model 2/Model 3」に採用される。厳密に言えば、「Sega Model 1」に採用された富士通の「MB86233」という3Dグラフィックチップの設計は、Real3Dとしてスピンアウトする前のGE Aerospaceの部隊との共同開発であった。だからSega Model 1/2/3に採用されたのが、Real3D最初の大きなビジネスということになる。
これに続く第2弾のビジネスとして同社が目論んだのが、PC向けディスクリートグラフィック市場である。ただし、これは同社だけでは不可能である。そこでReal3Dとインテル、Chips&Technology(C&T)の3社が組んで、ディスクリートグラフィックを目指すことになった。
C&Tという社名はもうすっかり忘れ去られた感があるが、実はPC向け製品ではかなりの老舗で、インテル互換チップセットやグラフィックチップなどを幅広く手がけていた。C&Tはi8086/286/386向けのワンチップ構成のチップセットや、i386互換のCPU/i387互換のFPU、あるいは「82C441」というVGA互換チップなどをリリースしていた企業だ。CPUそのものでは当然インテルの方が技術力が上だが、こうした周辺回路に関してはC&Tの方が技術力が上、というのが当時の一般的な評価であった。
その技術力はともかくとして、重要なのはC&Tが2Dグラフィックとチップセットの技術を持っていたことである。Real3Dは3Dグラフィックに特化したベンダーで、あいにくとVGA互換の2Dに関してはあまり経験がない。インテルはそもそもグラフィックコアをこの当時持ち合わせていなかったから、外部からグラフィックコアを持っているベンダーの協力を仰ぐことが必要だった。
インテルはインテルで、別の事情があった。この当時、インテルのチップセットのビジネスはようやく軌道に乗ってきていたが、グラフィックスカードの分野はまったく手付かずだった。しかも“Windows 9x+DirectX”の普及で、高額の3Dグラフィックスカードがかなり売れていることを理解していたから、こちらに色目を使うのも無理ないことである。
また、当時インテルはグラフィック統合チップセットを持っておらず、特にバリューPCやノートPC向けにこれがハンデとなることは明らかだった。というのは、VIAやSiSといった当時の互換チップセットベンダーはいずれも、1997~1998年頃にグラフィック統合チップセットをリリースしていた。やや遅れたALiも、1999年には「Aladdin TNT2」をリリースして、こうした市場に高いシェアを持っていたからだ。ディスクリートグラフィックだけでなく、こうした統合チップセットの市場も、インテルは当然にらんでいたと思われる。
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