7月初めに発足したレノボとNECの合弁会社。会見ではレノボおよびNECのブランドで日本国内での市場シェア3割を目指すことや、サポート分野での提携などについても言及された。
今回の提携は、いまのところ「国内市場」のさらに「個人向けPC」が中心となるものだ。Mateなど企業向けのブランドは、新会社のNECパーソナルコンピュータではなく、NEC本社が取り扱う体制となっている。IBMがレノボにPC事業を売却した時に、利幅の高いソリューション事業は手放さなかったことと少し構造が似ている。
レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータが目指すのは、やはりシェアの拡大だろう。その達成のハードルは決して高くはないと思える。個人向けの市場であれば、魅力的な製品──いい品質の商品がリーズナブルな価格で買えれば──それで問題ないという見方もできる。
調達や新技術開発で協力しつつ、両社のブランドの持ち味を生かした、競争力のある製品が投入できるかにかかっているだろう。個人は自分のメリットが実感できる製品を購入するはずだからだ。
国内のパソコン市場は成熟しており、成長が難しいという意見もあるが、聞けば震災直後の4~5月はパソコンがよく売れ、4月は対前年比2%、5月は26%以上の台数が出荷されたという。
6月は7%減と数字を落としたが、第一四半期合計では5.1%増の256万6000台が出荷されている。とはいえ、製品単価は落ち込んでおり、出荷金額ではモバイルノートが5.9%の伸びを示したものの、全体では3.9%減の2168億円にとどまった(出典はJEITA、デルや日本HPなど一部外資系メーカーを除いた数字)。
今回の提携を業界関係者はどう見るか。ASCII.jp筆者陣の意見をまとめた。
コストダウンだけでも10億円規模の利益
NECはこれまで停滞が続く国内市場だけにフォーカスしていた。「台数横ばい」「売り上げ減少」のなかでいかに収益を確保するかという縮小均衡型のビジネスを余儀なくされていたが、レノボのグローバルな調達リソースを活用することで、その環境から脱皮できることが大きい。
インテルやマイクロソフトから調達する価格がレノボの水準に移行するだけでも年間数10億円単位の利益が創出できることになるとみられる。これを製品価格に反映するのか、新たな開発投資に利用するのかが注目されるところ。
一方で、懸念されることが2点。NECパーソナルコンピュータとNECの研究機関との結びつきが薄くなることから、今後、NECから登場する製品の技術が、これまで以上にユニークなものが投入できるのかという点。さらに、PC専業のレノボと連携することになり、NEC自身もPC専業というスタンスをより強くすることになるが、これも裏を返せば、いまのPCは携帯電話、スマートフォン、テレビなどとの連携が前提となった
提案を各社が加速していることに遅れを取らないかといったことにつながりかねない。
(大河原克行/ジャーナリスト)
実はパソコンは売れている!
PCが売れているのをご存知だろうか? 3.11以降、停電対策のためのノートへの買い替えが進んでいるのもあるが、PC全体で見ても売れてる。実は、昨年もPCは「iPhoneやiPadに市場を食われるに違いない」という下馬評をよそに売れまくった。テレビ以上に白モノ的に売れているのがいまのPCなのだ。
NECレノボのお話は、そうした「PC=白モノ時代」を象徴する出来事のような気がする。つまり、ワールドワイドでの部品調達力による経済合理性、全国津々浦々への販売網などのサポート体制が、これを決めたのだろう。
NECとレノボ、一見意外な組み合わせと思われるかもしれないが、ご存知のとおりレノボはIBMのThinkPadの流れを汲んでいる。大型コンピュータの世界では、IBM互換機路線にいかず独自路線をつらぬいたNECと、企業としてのバックグラウンドは大きく異なるがIBMは、相性がよいという話も聞いたことがある。
そこで、NECレノボに期待したいのは、両メーカーが培ってきた製品へのこだわりである。いまでも現役で多数動いているともきくNECのPC-9800シリーズやThinkPadのような徹底した大人の品質。個人も企業もそれを待つ人は多いはずである。PCは白モノではないことを見せてほしい。
(遠藤諭/アスキー総合研究所 所長)
