企業サポートなのに中国につながった?
グローバル化と効率化の流れの中で、人件費が安い中国の大連にコンシューマー製品のサポート拠点を置いたデルだが、国内ユーザーからはあまり歓迎されなかった。
大連でサポートに従事するのは、9割が現地採用の中国人。電話や電子メールで、日本人とコミュニケーションを取るのに十分な語学力を身につけてはいるものの、マニュアルに沿った合理的な対応に物足りなさを感じたり、慣習的な部分での意志の疎通が不十分である点に不満を覚えるユーザーも少なくないためだ。
実際、大連のサポートに対する顧客満足度は80%以下と、同じデルの国内ユーザー向けのサポート拠点でありながら、大きな差が付いている。
デルの場合、企業向けと個人向けのサポート内容は差別化されており、窓口も完全に独立している。しかし、企業で働くユーザーも自宅に帰れば1個人。個人向け製品のサポートのイメージが悪ければ、企業向け製品全体の信頼度にも影響が出る。
ネットなどでは、企業向けのサポートを本来ありえない中国人のオペレーターが担当した、といった事実なのか誤解なのか区別が付かない情報もあり、ユーザーの側にも混乱があるようだ。
角 「日本のデルとしては、まずは品質ありきで考えたい。コスト面だけを考えればサポートセンターは大連に置いたほうがいいし、今までのデルならそれでいいと考えたかもしれない。しかし、仮にコストが上がっても、これまでのデルのサポートに対するイメージを払拭する必要がある。そうしなければ競合には勝てないという決断だ」
デルは企業ユーザーに対して、川崎本社と宮崎という2つのサポート拠点を設けているが、その比重は徐々に宮崎へと移ってきている。サポート品質に対する宮崎カスタマーセンターの評価は高く、コンシューマサポートの一部を担当することになったのもその流れの一環と言えるだろう。
順調に成長を続ける宮崎カスタマーセンター
デル株式会社でSMBセールスの本部長を務め、宮崎カスタマーセンター長も兼任する小林治郎氏によると、同センターでは設立から毎年100名のペースで正社員を雇用しており、現在の従業員数は約530名に達しているという。デルの社員数は約1500名なので、その1/3が宮崎にいる計算だ。
特にリーマンショック以降の不況で、デルも人員削減に着手したが、宮崎では一貫して増員の方向を維持してきたことは注目だ。
宮崎で働くスタッフのほとんどが正規雇用の従業員で、契約社員や業務委託はごく一部。地元から就職する社員の割合は依然として高いが、新卒社員を中心に関東圏など宮崎県外から配属される社員も増えてきた。
このうちコンシューマ製品のテクニカルサポートに従事する社員数は20名弱。年内には50名規模にまで増員する計画だ。
大連での電話サポートは今後も継続するが、上述したAlienware、XPSのサポートに加え、コンシューマ向けに提供している有償のソフトウェアサポートサービス「デル ヘルプデスク」の対応に関しても宮崎のチームで担当していく。
宮崎のサポート体制が堅実に進歩を続けている背景に関して小林氏は話す。
小林 「デルはもともと南部の企業だが、サウザン・ホスピタリティという言葉がある。これは宮崎でいう“おもてなしの心”に通じると思う。宮崎は人口37万人でしっかりとした規模がありながら、自然も豊富で最適なワークライフバランスを実現できる場所。職住が近く、やさしさ・思いやりなどお客様に接するのに適した資質を持つ人材が豊富だ」
一方角氏は、顧客満足度の改善の背景には“人への投資を惜しまず継続してきた”点が大きかったと強調する。
角 「パソコンのパの字も知らない新卒社員も含めてトレーニングには力を入れている。宮崎の周辺にはIT集積地もなく、スタッフにはピザ屋の店長や流通など、ITとはまったく関係ない業種から転職してきた人材も多い。これもお客様の気持ちに近く、同じ目線で話せる点につながっている」
個々人のパフォーマンスが数値でしっかりと管理され、成果が評価される点は世界的なIT企業であるデルならではだが、PODと呼ばれる3名単位のチームでアドバイスを出しあって、お互いに高めあうなどいい意味での刺激も生まれているようだ。現場で働く社員の意識も高く、宮崎から世界に通用するサポートを実現するという意欲に満ちていた。