11月10日、午前中にソフトバンクモバイルが、昼からドコモが、それぞれ新製品発表会を開催した。最近この2社は同じ日に発表会を重ねてくることが多く、短時間で2つのイベントを回るのはなかなか大変ではあるが、それぞれの戦略や端末の違いを比較できる点で楽しみでもある。
先に発表したソフトバンクはWi-Fiを前面に、そしてドコモは「VERSION UP!」をキーワードにプレゼンテーションが行なわれた。端末には100連写のカメラを搭載したモデル、ブランドとのコラボレーションモデル、ディスプレイとキーボードが分離できるモデルなど、目を引くモノも出されていた。
しかし、どうも反応は良くない。
取材に来ていた各メディアで活躍中の記者さんやジャーナリストの皆さんに話を聞くと「ケータイの新製品発表会であまりワクワクしなくなった」という声が聞かれる。どのキャリアが、どのメーカーが、という話ではなく、全般的にという話だ。
「すごい!」ではなく「まあおもしろいよね」というテンションの低さは、いったい何が起きているのだろう。
ユーザーには一体どんなケータイが
求められているのか?
この傾向は、発表会を取材しているプロの方々だけでなく、身近な情報手段、生活手段として活用している大学生にとっても同様のようだ。ケータイが皆に行き渡り、生活の中に完全に溶け込んでいるユーザーにとって、重要なポイントは魅力的な新機能や奇抜なデザインではない、ということだろうか。
先日大学の授業で、学生たちに聞いてみた。「今欲しいケータイはあるか? どんなケータイがあったらいいか?」という質問である。すると半数ほどが「現状で問題なし」と答えていた。割賦による買い控えというよりは、現在のケータイに満足感を持っているという答えである。
またどんな機能が欲しいかという質問に対しては、「機能が多すぎて使いこなせないので、もっと安くていいからシンプルな機能のものが欲しい」という意見が多く出された一方で、デザインに対しての要望があまり出なかったのが意外だった。
このあたりのデータをメーカーやキャリアもつかんでおり、ソフトバンクはシンプルで廉価版の端末シリーズ「COLOR LIFE」と「JellyBeans」を取り揃え、PANTONEケータイのようなスタンダード端末の多色展開を仕掛けてきた。ソフトバンクの孫正義氏は「(COLOR LIFEやJellyBeansについて)お客さんに受ける勘所をつかんでいる。間違いなく売れるノウハウを結集させている」と販売に自信を見せる。
またドコモも、お手頃な価格帯になると思われる「STYLEシリーズ」に力を入れ、雑誌やファッション、アクセサリーブランドとのコラボレーションモデルで個性を発揮する。
同社のプロダクト&サービス本部プロダクト部長、永田清人氏は「STYLEシリーズのユーザーは全体の40%と見ていて、販売実績もその数字に近づいてきている」とし、機能的にはハイスペックではないモデルに、高い付加価値を加えた製品のラインナップに注力しているようだ。
ケータイ市場が成熟してきて、高機能端末の数が出るのではなく、低価格でシンプルな端末に落ち着いてきた傾向を見れば、確かに新製品発表会でワクワクさがしぼんできてしまうのも当然なのかもしれない。しかし、イノベーションを望んでいないわけでもない。
大学生に聞いた欲しいケータイ像に関しての質問で、最も多かった意見は「充電しなくても電池切れが起きないケータイが欲しい」「どこでも必ずつながるケータイが欲しい」という意見。ケータイに対する非常に基本的なように思えるが、裏を返せば、電池も電波も気にせずに使えるケータイがまだ手元にない、ということでもある。
現状彼らにとって理想的なケータイとは、ケータイに付き物である画面上部の電池表示、電波強度表示のアイコンが無くなることなのかもしれない。まだまだ使う側であるユーザーが、電波は通じるか? 電池はちゃんとあるか? とケータイのことを気にかけて世話している状況で、決して頼れる相手ではないようだ。
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