7月に待望の新コア“Core 2”を使ったCore 2 Duo/Extremeを投入したばかりのインテルだが、同社は2006年中には、早くもエクストリーム市場向けクアッドコアCPU「Core 2 Extreme QX6700」が投入される(一般デスクトップ向けは2007年から)。今回は製品サンプルを元に、クアッドコアがもたらす性能向上と、気になる消費電力についてレポートする。
LGA775パッケージに収められたクアッドコアCPU「Core2 Extreme QX6700」。写真はエンジニアリングサンプルにつき、刻印は製品とは異なる |
インテルはこの7月に、アーキテクチャを抜本的に改革した「Core 2」シリーズのCPUを投入し、一気にAthlonから性能面でのリードを奪還したが、興奮もさめやらぬこの年内に、1パッケージに4つのCore 2のコアを搭載する「クアッドコア」CPUをリリースする。AMDのクアッドコア製品は2007年半ばと伝えられるため、半年以上の先行投入だ。2005年には、デュアルコアでOpteronに先をこされ、なんとか追いかけたPentium DはAthlon 64 X2に性能面で大きくリードされるという苦難の時代を経たインテルだが、ここへきて、Core 2 Duoでの圧倒的な性能面での優位をさらに広げる形だ。
コードネーム「Kentsfield」で知られるクアッドコアCPU「Core 2 Extreme QX6700」は、内部的には、デュアルコアのCore 2 Duo/Extremeのダイを2つ、1パッケージにまとめたものだ。物理的に1つのCPUの中に4つのコアがあるという意味ではクアッドコアだが、構造的にはむしろ、デュアルCPUのシステムを1つのパッケージに押し込んだもので、「クアッドコア」という名前から連想される、4つのコアが有機的に結合したCPUのイメージとは少し離れる。とはいえ、現実問題として2つのCPUソケットを持つマザーボード(Core 2でいえばWoodcrestマザー)は高価で、CPUファンを2つ要することからノイズ面でも不利だ。2つのダイを1つのパッケージに収めることは、スペース、コスト、ノイズなどの面で大きなメリットがある。
「CPUZ」で見たQX6700の素性。ステッピングとリビジョンがCore 2 Duoに比べそれぞれ2つずつ上がっている。コア、スレッドがそれぞれ4になっているのに注目 |
どんなソフトで性能が上がるのか
消費電力とのバランスはどうか
今回借用したExtreme QX6700は、プロセッサナンバが示唆するように、Core 2 Duo E6700(2.66GHz)を2つ、1パッケージに収めたものに相当する。したがって、シングルスレッド、およびデュアルスレッドのアプリケーションについて言えば、性能的にはE6700相当となり、Core 2 Extreme X6800(2.93GHz)には及ばないと想定される。QX6700の意味が出てくるのは3スレッド以上を同時に利用するアプリケーション、あるいは、複数のアプリによって3スレッド以上が起動される環境である。
まずシングルスレッド環境での速度の例として、πの値を計算する「Superπ」の実行時間を計測した結果をグラフ1に挙げる。
グラフ1 「Superπ」の結果(シングルスレッド)。予想どおり、同クロックのE6700(2.66GHz)と同スコアだ |
予想どおり、Core 2 Duo E6700と同スコアとなっている。グラフは掲載しないが、シングルスレッドの3D描画テスト、「3DMark 2001」、「Commanche 4」、「Unreal Tournament 2003」などでも、ほぼE6700相当のスコアで、X6800には一歩及ばない。
2スレッドを使う環境の例が、エンコードソフト「Windows Media Encoder 9」および「TMPGEnc 4でのMPEG4圧縮」の結果だ。これらも、ほぼE6700相当で、X6800にリードを許しているのがわかる。
一方、「Windows Media Encoder」の“Advanced Profile”、「DivX 6.1」による圧縮、3D CGレンダリングの「Cinebench」、「Windows Media Encoder x64」、パノラマ写真作成ソフト「Panorama Factory (x64版)」、およびCGソフト「Shade 8」、および4アプリの同時実行メニューを含む「PCMark 05」においては、QX6700が抜きん出たスコアを見せている。エンコードやレンダリングをする方にとっては、クアッドコアの性能は実に魅力的に映る。QX6700登場と同時に飛びつくにしろ、来年の、メインストリーム用クアッドコアを待つにしろ、とにかくデュアルコアからはぜひグレードアップしたくなる。
グラフ2 2スレッドを起動する「Windows Media Encoder」での動画圧縮時間。4コアでも2コアでも性能は同じになる、という予想通りの結果 | グラフ3 「TMPGEnc 4」で、ノイズ除去フィルタを使った状態でのMPEG-4圧縮。2スレッドしか起動しないようで、これも同クロックの2.66GHzと同じスコアになった |
グラフ4 「3DMark 05」のCPUスコア。描画のほか、物理モデリングやAIのスレッドが立つため、2コアのCore 2 Duo/ExtremeよりQXのほうがスコアが伸びてい | グラフ5 一部に4アプリの同時実行テストが含まれる「PCMark 05」でもQXが好成績を残した |
グラフ6 「Windows Media Encoder 9」では、カスタム設定で“Advanced Profile”を選ぶとマルチスレッドでのエンコードが行われるため、QXがずば抜けた性能を見せる | グラフ7 「DivX」も6.1からはマルチスレッドに対応している。ただスコアの伸びは、WME Advanced Profileに比べるともうひとつだ |
グラフ8 画面をコア数に応じて分割し、同時にレンダリングを行う「Cinebench 2003」でのレンダリング速度。さすがにQXがすばらしい成績になった | グラフ9 64bit版Windows XP上で、「Windows Media Encoderのx64版」によるエンコードのテスト。x64版は“Advanced Profile”でなくてもマルチスレッド対応のようで、QXが良好な成績を収めた |
グラフ10 64bitアプリ「Panorama Factory」でのパノラマ写真合成時間。ここでもQXのスコアの伸びが著しい | グラフ11 64bit対応の「Shade 8.5」でのレンダリング時間。QXによる性能向上がはっきり見て取れる |
グラフ12 「TMPGEnc 4」のMPEG2圧縮エンジンはマルチスレッド対応。きわめて大きな時間短縮効果を見せる | グラフ13 消費電力の比較(棒がない部分は該当データが取れていないもの)。アイドル時109Wは、Core 2 Extreme X6800とほとんど変わらない。4コアがフル稼働するTMPGEnc 4実行時でも200Wをわずかに超える程度だった |
QX6700でひとつ気になるのが消費電力だ。E6700のダイは単体で最大65Wを消費するため、これを2つ押し込めば、TDPは130Wクラスが想定される。ただ、システムレベルでの電力測定では、少なくとも今回入手したサンプルはアイドル時には109Wしか消費せず、E6700よりは若干高いもののX6800とはほぼ同等という、予想外に低い値となった。負荷をかけても、たとえばシングルスレッドの「Superπ」では151W、4つのコアにかなりの負荷がかかる「TMPGEnc 4」実行時でも201Wどまりだった。これはAthlon 64 FX62での「Unreal Tournament」実行時よりも低く、目くじらを立てるようなレベルでもなさそうだ。ただ、高性能ビデオカードを2枚刺し、といった環境では、それなりの電力面でのサポートは必要になるだろう。
実はテスト前には、4つのコアを必要とするような局面は個人ユースではそう多くないだろうし、ダイが2つで消費電力が倍になるのではメリットよりもデメリットのほうが大きいのではないか、という懸念もあった。しかし、4スレッド対応ソフトの実際の性能の高さと通常時の意外な消費電力の低さを見ると、そんな思いはどこかに吹き飛んでしまった。欲を言えば、アイドル時はデュアルコア、いやシングルコアのCPUと同レベルの消費電力に落としてほしいものだが、これは今後の課題だろうか。2ダイの構成はエレガントとは言えないけれども、たくさんのスレッドを必要とする作業に対して、非常にコストパフォーマンスに優れたアプローチであることは間違いなさそうだ。
【関連記事】